成果と評判
魔王ベアトリーチェから逃れた(?)夜一は、魔王城の正門まで戻ってきた。
するとそこには他のパーティーの面々がいた。みんなボロボロである。
「ヨイチさん!」
セルシアが駆け寄ってきて、グイッと顔を近づける。
思わず仰け反る夜一。
「店長も元気そうで何よりです」
「どこに行っていたんですか!? 危ないでしょ!!」
まるで小学校入学前の幼児に言い聞かせるような口調でセルシア。
夜一が一人勝手な独断行動をとったのも事実。
ここは一人の大人として、きちんと謝るべきだと判断。
謝罪の言葉と共に頭を下げる。
冒険者の面々は夜一の謝罪を受け入れる。そもそも、そこまでの関心はなったようだ。
そんな中、セルシアだけはぷくっと頬を膨らませて夜一を睨んでいた。
(そんな怒らなくてもいいのに)
これは根に持つ感じだ。何とかして話を逸らす必要がある。
そして都合のいいことに、今の夜一はセルシアの意識を逸らすことのできる代物を持っていた。
「それで? 皆さんの成果は?」
挑発するように尋ねる。
一瞬、顔を顰めて冒険者は笑う。
「まあ、この程度の成果しかないな」
腰に下げた袋から一つの玉――宝玉を取り出して勝ち誇った笑みを浮かべる。
しかし、その宝玉の輝きは鈍く、今にも消えてしまいそうなほど弱々しかった。
(なにコレ?)
先程まで爛々と輝く無数の宝玉を目にしていた夜一にとって、冒険者の見せびらかすそれは道端の石ころと大差なかった。
「なんだ、そんなもんか……」
無意識に出た呟きに冒険者たちは目を血走らせる。
自分たちが命懸けで手にした――それこそ宝を鼻で嗤われたも同然。
冒険者たちが夜一に怒りの視線を向けるのは当然であった。
「だったらお前は今まで何をしていたと言うんだ」
冒険者は夜一に問う。
絶対の自信があるのだ。宝玉を盗ってこられる実力があるのは確かなのだ。
冒険者たちは一流だ。
対して夜一の肩書きは商人。
冒険者たちは、自分たちが商人に劣っているなどとは露ほどにも考えてはいない。
「まあ、取り敢えず今日のところはこの一個です」
そう言ってベアトリーチェの寝室のダストシュート(ラストダンジョン最深部)から持ち帰った宝玉を見せる。
その輝きに冒険者たちは目を細める。
直視できない程の輝きを放っている。
冒険者たちの宝玉でも数年の間は遊んで暮らせるだけのお金が手に入るだろう。しかし、夜一の宝玉はそれ一つで一生遊んで暮らせるだけの財をもたらす代物であった。
「一回の探索で宝玉二つ。コレって凄いですよね」
成果としては充分過ぎるくらいだ。
何十回とラストダンジョンに潜って数個見つけられればいいというモノである。
一行は常軌を逸した成果と共に王都へと帰還した。
この成果を以て冒険者たちは一つ上の階級へ昇級。
富と名声を手に入れた。だが、それと同時に冒険者家業を廃業した。
多くの者が彼らの引退を惜しみ、引きとめた。
それでも彼らの意志は固く、「商人に負けているようじゃ先が知れている」と零すだけだった。
調べれるとすぐに誰が彼らと行動を共にしたか判明した。
皆、商人が《ジャンク・ブティコ》を指していることを理解すると、なるほどと納得した。
良くも悪くも《ジャンク・ブティコ》は王都では異端な存在として認知され始めていた……。
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