ラストダンジョン裏攻略法
夜一は、メフィストに案内され魔王城内の廊下を歩いていた。
廊下には真紅の長絨毯が敷かれていた。
その上を歩くのは憚られた。汚してしまいそうで――間違いなく汚してしまう。
メフィストは「気にしなくていい」と言ってくれたが、そんな簡単に気持ちの切り替えはできなかった。
足下に気が行き、ゆっっくりとした歩調で夜一は歩いていた。
するとメフィストが、尋ねるというよりは独り言に近い感じで「何故私にあそこまで丁寧に……」と言うので「礼儀でしょ?」と夜一。
目を見開くメフィスト。
これまでの人間とは違うとメフィストは思った。
「面白い方ですね」
「そうですかね? まあ、この世界の人から見れば僕は変わり者らしいですからね」
メフィストは夜一の言葉に引っかかった。
「ん? それはどういう意味です?」
「僕はこの世界とは別の世界出身なんですよ」
「ああ、なるほど」
メフィストは一人納得した。
実はこれまでに転生者や転移者と遭遇したことがあった。
そうした人間は勇者、大賢者など様々な呼ばれ方をしていた。
そして何かしら特別な力を有していた。
目の前の男も何かしらの力を持っている。油断してはならない。
だが、脅威に感じることはない。
これはあくまでメフィストの勘だ。幾年月を過ごし、幾つもの修羅場を潜り抜けてきたメフィストの勘は本物である。
「ところで夜一様は本日どのようなご用件で?」
メフィストはまだ肝心な事を聞いていないことを思い出し尋ねた。
「実は宝玉を頂きたく来た次第で……」
とてつもなく高価な品物を寄越せと言うのはおこがましいにも程がある。
だが、嘘をついても仕方がないので夜一は正直に述べた。
「宝玉……」
メフィストは出し惜しみではなく、本当に思い当たるモノがないようだ。
脳漿を絞るメフィストは一つの可能性に辿りつく。
「もしかしたらあれですかね?」
こちらへどうぞ、と夜一を導き到着した場所は、今まで歩いていた絢爛豪華な廊下と異なり、薄暗く、ジメジメした洞窟のような所であった。
夜一は知らない。この居心地の悪い場所が、冒険者の目指す最終目的地――ラストダンジョン第100階層――魔王の間であることを。
ちなみに現在、冒険者たちが探索可能な階層は第18階層まで。人類最強と呼ばれる冒険者が第30階層まで潜れる。それが人間の限界。
そんな人類の限界を夜一は超えたのだ。軽々と。知らず知らずのうちに……。
…………
……
…
ラストダンジョン最深部だと知らない夜一は早く帰りたいと思い始めていた。
周囲に幾つもの気配を感じる。気配というより殺気であった。
「お客様ですに対する無礼は私が許しません」
整然とした態度でメフィストは対応する。
その声は明瞭で、空間全体に瞬く間に広がってく。
反響した声が夜一たちの元に帰ってくる頃には、無数にあった気配は霧散していた。
頭を下げてメフィストは謝罪する。
「ウチの者が大変失礼なことを」
申し訳なさそうにメフィスト。
頭をあげるように夜一は言う。
「ありがとうございます」
(本当にいい人だ。めっちゃ角生えてるけど)
そして夜一が案内されたのは多くの廃棄物の集まる場所――ゴミ置き場であった。
そこには無数の宝玉が野晒しで転がっていた。
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