自己紹介、それはとても大切なもの
夜一は門を叩く。
力いっぱい殴りつける。一応ノックのつもりだ。
巨大な門のため、ノックの音が中にいる誰かに聞こえているとは思えない。
しかし、礼儀として行っていた。
すると、「はい」と短く返答があった。「少しお待ちください」とも。
ゆっくりと門が開かれる。
開門というより、ドアチェーンをしているかのような僅かな隙間。
だが、巨大な門の隙間は人ひとりが通るのには充分であった。
「お待たせしました」
姿を見せたのは、先程セルシアたちと戦いを繰り広げていた執事風の男であった。
普通であれば警戒する場面だろう。だが夜一の心は穏やかだった。
多少の緊張はあったが、警戒心はなかった。
「初めまして。僕は《ジャンク・ブティコ》の黒羽夜一と申します。本日は魔王陛下にお願いしたいことがあり、ご挨拶に伺いました」
丁寧なあいさつと自己紹介。
目の前の男は、セルシアたちに自身の名前とその身分を明かしていた。
礼節を重んじるタイプと夜一は見たのだった。
夜一の知り得るもっとも丁寧な礼儀作法を実行した。
その甲斐あってか、男は柔和な笑みを浮かべて、「どうぞ」と夜一を城内へと引き入れたのであった。
* * *
魔王城の門が開かれる。もちろん無断だ。
魔王の右腕、メフィスト・フォレスはため息をついた。
「また、ですか……」
暗黒大陸とは別の大陸からやって来る人種。
彼らは暗黒大陸の住人を魔族と呼び敵視している。
しかし、魔族は無秩序に暴れる種族ではない。
知性も人種同様に持っている。一部そうでない種がいることも確かだが、それは人種も同じだろう。なにを言っても分からない人というのはいるものだ。
今日もまた魔王城には訪問者。不法侵入である。
それでもメフィストは彼らを出迎える。
「
相手の出方を窺う。
対話の意思があればよし、なければ……
行くぞと人種の男が叫ぶ。
同時に戦闘が始まる。
いつものパターンだ。
何故人種は自分の名前すら答えないのか。
失礼だとは思わないのか。
メフィストは常日頃、人種の礼儀について疑問に思っていた。
その様な事に思いを巡らしていてもメフィストは一方的に侵入者たちを攻撃していた。
もちろん死なない程度に。手加減が出来るのは実力差がある証拠だ。
そんな中、一人だけ異質な存在がいた。
エルフと思しき女は、膨大な魔力を誇っていながら装備は騎士そのものであった。
(あれは……いつぞやの勇者とやらが身に纏っていた代物ではないか?)
遠い昔に訪れた来訪者を思い出していると、正門の方で音がした。
今や正々堂々と声を掛けてくる者は少ない。
メフィストは、期待はするなと自分に言い聞かせて正門へと向かった。
正門へ着くと、一人の男が門を叩いていた。
それが攻撃でない事は分かった。なのでメフィストは門を開けた。
開口一番男は、あいさつと自己紹介をした。
好感の持てる人間だ。メフィストはそう判断し、彼を城内へと引き入れた。
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