合同出資?円卓議会招集①

 円卓議会からの招集がかかる。

 セルシアと夜一は《ジャンク・ブティコ》の代表として会議に参加する。

 二人にとっては《ジャンク・ブティコ》の優良店承認の一件以外では初めての招集となる。


「何か店長やらかしました?」


「なんでそうなるんですか!」


 遺憾だとセルシア。


(プリプリしてる)


 口にしたら怒られるので黙っているが、夜一はそう思わずにはいられなかった。

 商人ギルドへと向かう道中二人の会話に緊張感はなく、話しは散らかったまま到着。

 馬車を下りての第一声は「酢豚のパイナップルは邪道」。何故そんな会話になったのか周囲の人間はもちろん、当の本人でさえ分からない。


 しかし周囲は《ジャンク・ブティコ》のセルシア&夜一の登場に息を呑んでいた。

 二人の会話の内容にかかわらず、円卓議会成員の肩書きは羨望の的なのである。

 それにもかかわらず当の二人はと言うと未だにくだらない議論を繰り広げていた。


「何故あの甘辛いところに酸味を足すんだ」


「そもそもスブタとは何ですか?」


 本当にどうでもいい。


「緊張感ないですね」


 二人に投掛けられた声の主はセス・スミット。円卓議会成員のひとりである。

 かつて夜一と色々とあった(実際には何もない)娼館アンジェラの代表、アンジェラ・ベルモントの元夫らしい。

 あくまで噂である。


「緊張も何も、なんで召集を受けたのか知らないんですよ」


「ん? そうなの?」


 おかしいな、と首を傾げながらセスは告げる。


「今回はかなり大きな出資になるよ」


「出資ですか?」


「そう。出資」


 一体何に出資すると言うのか。

 円卓議会を招集するに値する事なのだろうか。


「宝玉探索への出資ですよ」


「えっ?」


 夜一はセスに確認する。


「宝玉ってあの宝玉ですか?」


「宝玉は宝玉だよ。魔王城にしかない奇跡の鉱石。そもそも鉱石なのかも不明だけどね」


 夜一の恋い焦がれた宝玉。その出資。

 やる気がみなぎる。

 そんな夜一を一歩引いたところでセルシアは見ていた。


(なんか空回りしそうです……)


 するとそこへ、胸元のざっくり開いた情熱的な真っ赤なドレスを纏った女性が歩いてくる。

 アンジェラ・ベルモントである。

 彼女に関わると碌なことがないと夜一は勝手ながら苦手意識を持っていた。

 だが、同じ円卓議会の成員であり、しかも先輩にあたる。

 礼儀は重んじなければならない。


「お久しぶりです。アンジェラさん」


(スマイル、スマイル……)


 夜一は心の中で何度も復唱する。

 自然な笑みを浮かべて対応。


「今日も相変わらずお美しいですね」


 社交辞令の定型文。何故か社交辞令だと思って口にすると平然とクサい科白が言える。

 日本人最大の発明、社交辞令は偉大である。


「ごきげんよう……アナタもいたの?」


「あれ? なんか嫌な顔してない? 嫌われるようなことした?」


 セスを避けるようにアンジェラは足早に立ち去る。


「嫌われてるんだよね。何でだろ?」


「昔なにかあったんじゃ」


 男二人の会話を聞いたセルシアは、「ダメですね」と一言零してアンジェラの後に続いた。


 取り残された男二人は、訳も分からないまま二人の背中を追った。

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