メニューにも気を配れ(スイートスポット)①

 商売とは様々なところに気を配る必要がある。

 食事処は料理の味よし、店員の対応良しという状態。何も問題ないように思えるかもしれない。

 だが、改善点はまだまだたくさんある。

 その一つがメニューである。

 メニューはただ料理の説明をすればいいという訳ではない。

 客の中には「おすすめ」の品を尋ねる人もいる。だが、多くの客は違う。

 メニューを見て、何を食べるかを決める。

 つまりメニューは客の意思決定を左右する可能性がある。そんなメニューに気を配らないのは何も考えてない証拠。

 もちろん何を食べるのかを決めるのは客であって店側ではない。けれど提示するくらいであれば問題はない。

 むしろ「おすすめ」を推しているわけだから親切であると言えなくもない。


 もちろん何を「すすめ」するかは店側が決める。

 夜一は利益率が高いモノを選ぶ。なるべくメインとなる料理の中から選び出す。

 そしてメニューの上に載せる。

 人の視線は上から下へと向かう。一番上にあるモノにまず目が向くわけだ。


 料理を載せる位置だけでなく他にも工夫できる点はある。

 価格の表示だ。

 バカ正直に書く必要はない。

 もちろん嘘は良くない。やってはならないことだ。

 書き方を工夫する。

 お金の単位を省き、数字だけを書く。

 現代日本ならば、「998円」ではなく「998!!」みたいな具合だ。

 支払う額は変わらないが、気持ち的に選びやすくなる。


 だがメニューを書きなおす際に直面する問題がある。

 ここ異世界ではパソコンもコピー機もない。

 一枚一枚手書きなのだ。

 しかもクォリティを均一にしなくてはならない。となれば一人の人間が作業するほかないのだ。

 そしてどんな世界でも共通の法則――言いだしっぺの法則に則り、夜一が作業することとなる。


(誰か思いついてくれないかなぁ……)


 無理そうであった。

 仕方なく発案。そして即実行。

 夜一は眠れぬ夜を過ごすこととなる。

 早く仕上げなくてはならないと時間に追われる。それと同時にクォリティの向上&均一化に迫られる。

 写真がないので手描きで料理を描く。

 忘れられているかもしれないが、夜一は芸術系の学生である。

 ここにきて本領発揮。ようやく訪れた見せ場である。


 アタリを取って陰影をつけて立体的に見えるように描いていく。

 時折インクを拭き取ったり暈かしてみたりと試行錯誤を繰り返す。


(……何これ、めちゃくちゃ地味じゃん!?)


 夜一は特技の華の無さを愁いた。

 そんな時、セルシアが「上手ですね」と褒めてくれたことが夜一にとって唯一の救いであった。

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