アンケートの精査②

 アンケートの集計を終えた。そこで満足していてはいけない。

 その結果を経営に反映させて、ようやくアンケートの意義があるのだ。

 アンケートは実施しただけで満足してしまうケースがある。

 Aという回答が一番多い。Bという回答が一番少ない。こうした上辺だけの結果を得て満足してしまうのだ。

 アンケートは実施することが目的ではない。

 結果を精査し、サービスを向上させなくてはいけない。

 そのために客からの情報を求めているのだから。


「回答としてはQ1は統一性がありませんね。皆さんバラバラです」


 セルシアは行き詰ってしまう。


「しいて共通点を挙げるのであれば、価格という回答をほとんどの方がなさっています。ですが、無料や半額だから食べに来たという人たちが多かったのですから、価格を気にするのは当然と言えますけど……」


「今回のアンケートは価格設定の参考にするのが目的ですから、価格にチェックを入れてくれるのは良いことです。問題は他の項目についているチェックです」


「他の項目ですか?」


 額に皺を寄せるセルシア。


「例えば店長。今回のアンケートのQ2の価格についての回答はどうなってますか」


「それは……、殆どが、やや満足、普通、やや不満の三つですね。その中でも多かった回答は普通、やや満足、やや不満の順です。割合で言うと、普通四割強、やや満足三割強、やや不満二割弱になりますね」


「出は店長。今の結果で三つの中で注目すべきはどれでしょうか?」


 夜一は質問を投げかける。

 セルシアは満足してもらえた点だと答えた。

 もちろんそれも重要であることは間違いない。だが、一番ではない。


「もっとも大切なのは不満を無くすことです」


「でしたらもう少し価格を抑えると言う事ですか?」


 価格に不満があるのだから、その原因たる価格に手を加えるのは間違いではない。

 異世界の感覚と現代人の夜一の感覚には誤差がある。

 故に正しい価格設定がなされていないものがあるかもしれない。その点は考慮すべきだが、すべての品ではない。一部の品だけである。

 現に、アンケートの結果も価格を適正と判断してくれている人が過半数いる。

 視点を変えてみれば、価格以外に問題があると考えることもできる。


「Q2の問いで接客と品物につて尋ねています。店員の対応の評価はどうなってますか?」


 再び夜一はセルシアに尋ねる。


「評価は普通、やや不満の二つが多いですね」


 セルシアが答える。


「そこに価格不満解決の糸口があるんですよ」


 誇るように尊大な口調で夜一。続けて、


「価格と言うのはお店の雰囲気だったり、サービス込みで判断するものなんです。どんなに味がいい料理でも足下を虫が這っているお店にお金を払いたいとは思いませんよね。反対に味は普通だったとしても、いい雰囲気で、リラックスできる場所であればその店にはお金をきちんと払います。サービスが良ければチップを渡すかもしれません」


 セルシアは夜一が言わんとしていることを理解した。

 提供するのは料理だけではない。料理と一緒にサービスも提供しているのだ。


「つまりサービスが悪いということですか?」


「いや、店員の対応が悪いと言うより、忙しすぎましたね」


 夜一は食事処を開店してからの一週間を振り返った。

 実際にアンケートはアルバイトを増やしてから、店員の対応の評価の割合が、やや不満から普通へと推移していた。


「これからバイトの人たちも慣れてくるでしょうから、評価は上がっていくんじゃないでしょうか」


「なるほど……他には何か気づきましたか?」


 セルシアは夜一のアンケート解析に興味津々。矢継ぎ早に質問する。

 夜一はアンケートから改善出来うる点を挙げていく。

 セルシアも気付いたことはすぐさま提案。

 そしてすぐさま改善する。




 しばらく後に、食事処ノワール・プリュム(黒羽)は、他店と変わらない価格設定ながら、最高の空間と良心的な価格の料理を出す店として確固たる地位を築き上げることとなる。

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