食事処の宣伝(オファー)

 夜一の事業拡大戦略の次なる一歩は、食事処の開店である。

 安定した小売業に加えて新規事業として目を付けたのが食事処であった。

 夜一は、なにも適当に選んだわけではない。

 王立学園への《ジャンク・ブティコ》出店に伴い設置した「特別ルーム」。このノウハウが生かせると判断しての食事処という選択である。


 異世界の建築士たちの腕は確かなもので、瞬く間に店舗が建つ。

 地震などの震災が少ないために耐震強度などの配慮がされていないことも要因の一つではある。それでも職人たちの腕がいいのは確かであった。


 発案から二日後には店舗が完成。

 内装は学院にある特別ルームを参考にした。

 料理の方は現代日本――夜一の作っていた男の料理を参考にし、プロの料理人を雇い入れた。

 味も見た目も格段にアップした。

 準備は万端。残すは食事処の宣伝である。


 テレビやラジオのない異世界では、新聞広告くらいしか宣伝の場がない。

 それでも新聞などの紙媒体の宣伝が出来るだけマシと言うものである。

 以前お世話になった記者ソフィアを通じて《王都ジャーナル》が刊行している王都新聞に公告を載せてもらった。もちろんお金を払って。

 こうした広告収入で新聞は成り立っている。そうでなければ赤字で廃刊になっている。


 夜一は広告にプラスして割引券を付けた。

 出血大サービスの半額券である。

 日本ではもはや「出血大サービス」という語は口にしないし、目にもしない。

 現代日本では死語かもしれないが、異世界では死語ではないはずだ。


(もしかしたらワードセンスないのかな僕)


 夜一のワードセンスはともかく、宣伝効果はあるはず。

 さらに宣伝するために夜一はギルドを巡った。

 冒険者ギルド、商人ギルド、鍛冶ギルド、etc.

 お世話になったとか、なっているとか適当な事を言いながら夜一は「無料券」を配り渡る。

 無料なのだから、もちろん利益にはならない。

 夜一は別に利益を求めてはいない。商売は初日ですべてが決まると言っても過言ではない。

 多くの顧客を獲得し、リピーターを作る。すべてはその下準備である。


 食事処の開店を数日後に控えた夜一は、無料券を各方面に配布する。一人でも多くの人に足を運んでもらうために。


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