宝玉との出会い

 宝玉と呼ばれるモノがある。

 宝と書いての通り、とても高価な代物だ。

 具体的には宮廷魔導師数千人分の魔力を保有している。

 現在宮廷魔導師は10人。数千という数の魔力量は計り知れない。

 まさしく宝である。

 とても希少なもので、滅多な事では市場に出回ることはない。

 宝玉の産地(?)は暗黒大陸にある城――冒険者たちの間では「ラストダンジョン」または「魔王城」と呼ばれている場所である。


 夜一も以前に冒険者ギルドで魔王上探索の依頼書を幾度か目にしたことがある。

 報酬も破格で、白金プラチナプレート以上の冒険者推奨の注意書きもあった。

 それだけ命の危険を伴う依頼なのである。

 そんな魔王城潜入の戦利品が宝玉という訳である。

 どちらかと言えば宝玉が目的で、実のところ探索は方便でしかないのだ。

 探索と言えば聞こえはいいが、実際は魔王の居ぬ間に宝玉を城から盗み出しているだけなのだ。

 さすがにギルドも盗んできてくれとは言えないので、探索という言葉で誤魔化している。


 だが、冒険者たちの間では盗みという認識はない。

 魔王城に到達できるだけで冒険者としての実績となり、倫理観など吹き飛ばすほどの報酬に加えて宝玉ひとつで数年は遊んで暮らせる大金が手に入る。

 そして人間は魔族を人とは認識していない。モンスターなどと同じカテゴリーに分類している。

 人種は自分たちよりも遙かに強大な力を持つ魔族を恐れた。その結果、敵対することとなる。

 幾千の年月を経てもその関係は変わらない。

 そんな魔族の長。魔王から宝玉を奪うことに人間は罪悪感を抱かない。


 もちろん、魔王も黙ってはいない。

 見つかれば即、死が訪れる。それほどまでに圧倒的な存在なのだとか(元冒険者談)。


 そんな貴重な品が夜一の目の前にある。

 煌々と輝く玉は直視することができない程の輝きを放っている。

 神々しさの中に陰の気配を感じるのは魔王城にあったからだろうか。


 夜一は売値を一度ならず二度、三度と見る。


(やはり間違いじゃない)


 率直な感想。


(高すぎるだろ!?)


 金貨数千枚。日本円に換算すると一等地に豪邸が建つ金額である。

 命懸けで盗ってきたことを考えれば決して高くないのかもしれない。だが、夜一のポケットマネーでどうにかなるものではない。


(依頼でも出すか……)


 それにしても高額な報酬が必要になる。

 電化製品が魔力で動くことが分かったのだ。

 膨大な魔力の塊――宝玉はぜひとも手元に置いておきたい逸品である。


 金策を考えなければ宝玉購入の資金は貯められない。その為には《ジャンク・ブティコ》のさらなる収益アップが必要となる。

 とにかく経営に関することはセルシアを通さなければならない。


(相談するか)


 夜一は後ろ髪を引かれる思いで宝玉の前から立ち去った。


 …………

 ……

 …


 あっけらかんとした声で「宝玉? ウチにありますよ」とセルシア。

 夜一は「マジですか?」と唖然とする。

 セルシアは頭を捻りながら、「どこにやりましたかねぇ……」と記憶を探る。


 なんでも父親が王城を出る時に、いざとなれば売りなさいと持たせてくれたのだと言う。

 豪邸が建つような代物を簡単にあげてしまうあたりさすがは国王だ。そして同時にどうしようもない親バカでもある。

 自立するために宝玉を売らないで済むように努力していたセルシアは、宝玉を父親の気持ちとは裏腹に宝玉を必要としていなかった。何なら粗雑に扱っていた。


「ありましたぁ!」


 セルシアが自室の物置から運んできたのは丸い埃をかぶった何か。

 その何かこそが宝玉なのだとセルシアは言う。

 商店で目にした宝玉からは想像もできない程にくすんでおり、輝きはない。

 しかし表面の埃を拭うと、輝きが少しずつ戻っていく。

 セルシアは、自分には不要の産物だからと夜一に譲渡しようとしてくれたが、国王(父親)のことを思うと憚られた。

 夜一は丁重にお断りをして、経営方針について相談した。


 欲しいモノは自分で稼いで買う。

 セルシアに倣い、夜一も自立を考える。

 セルシアがいないことには何も事業が始められないのだが……。


「宝玉を買う余裕くらい作ってみせます」


 宝玉を購入するため、夜一の事業拡大戦略がこの時、動き始めた――。

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