善意で電撃魔法をぶっ放す
夜一の落胆ぶりはかなりのもので、長時間放心状態が続いた。
セルシアは夜一の意識が現実世界へ戻るのを黙って待った。
そして目の焦点が定まったのを見計らって話しかけた。
「どうしたんですか?」
如何様にもとれる質問であった。
問題が起きたのか尋ねているようにも聞こえるし、どのような事態になってるのか詳細を尋ねているようにも聞こえる。
もちろん、セルシアは問題が起きたことは把握している。
ただここで詰め寄ってもまともな返答は得られないであろうことも理解している。
「コンセントが抜けました」
夜一の返答は現代日本人としての回答である。
異世界人のセルシアが理解できる筈もなく、
「すみません。私には難しすぎたみたいです」
セルシアは頭を下げる。
悪いのは理解できないセルシアではなく、配慮の足らない夜一である。
少しずつ冷静さを取り戻し始めた夜一が、ポツリポツリと噛み砕いた説明を始める。
セルシアに説明すると同時に客観視しようとしているようでもあった。
「つまりはそのデンキというものでこの板は動くという訳ですね」
電気のない世界の住人であるセルシア。そんなセルシアの為に夜一は一考し、分かりやすい言葉で伝える。
「電気は雷みたいなものです」
厳密に言えば正しくはないが、その存在を理解する上では「雷」という説明で充分に伝わるだろう。
「それでしたら私も扱えます」
そう言ってセルシアは宙に魔法陣を描く。
黄色い光を帯びた魔法陣から青白い閃光がバチッと飛んだ。
「えっ?」
間抜けな声と共に閃光は着弾。
夜一は頭を抱えた。
ピィー…………
受信できませんの表示が液晶画面に映し出される。
夜一は驚きの表情。目を見開いている。
頻りに「なんで?」「マジか」と短く呟いている。
「あれ? 先程の方がおられませんね」
テレビ本体の電源が入っても電波は入っていないのだ。
「いろんなことが一度に起こりすぎて混乱してます」
いつもよりほんの少し声が上ずっていた。
心中穏やかではないものの、いつまでも慌てふためいている訳にはいかないので精一杯の笑みを浮かべる。
夜一の浮かべた笑みは強張っていた。
「魔法ってなんでもありですね。よくよく考えれば魔力という概念で水や火と言った全く違う性質を扱えること自体、異常なんですよね」
しかしそれは無限の可能性を夜一に与えていた。
電波などは無理にしても家電製品は魔力で動かせる。この事実に気づいた最初の人間。
夜一は異世界に現代技術を導入できる可能性に思い至る。
怪我の功名と思う他ない。異世界に来てから夜一は異常なほどポジティブになっていた。ポジティブにならなくてはやっていけなかっただけとも言える。
確認の為にセルシアにスマホの充電器に魔力を少し流してもらった。
すると予想通りスマホは充電を開始した。
この魔力の使い道に気付いた瞬間。それこそが、王都を――大陸全土を巻き込む一大ムーブメントの始まりであった。
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