テレビでパニック!?①
王立学院での一件以来。アイスは高級品と言う位置付けになっていた。
その製造法を知るのは《ジャンク・ブティコ》だけとなれば当然の結果とも言える。
急な価格高騰に反感を抱かれることも覚悟していたが、運が良かった。
(きっと異世界で頑張る僕を、神様が後押ししてくれているんだ)
信仰する神などいないにも関わらず、都合の良い時にだけ神を信仰する。
八百万の神様がいる日本に住まう日本人ならではの感覚かもしれない。
信仰の有無に関係なく、何かあれば神頼みをし、感謝をする。
もしかすると、夜一は商売繁盛の神様から愛されているのかもしれない。
――キャァアアッ!!?
突如として飛び込んでくる叫び声。セルシアの声だ。
夜一は考えるよりも早く駆け出した。
一秒でも早くセルシアの下に駆けつけるために。
* * *
セルシアは月の収支報告書に目を通していた。
安定した売上げを記録している。
アイス騒動の時には学院店の赤字転落も覚悟した。だが、運も味方して黒字。むしろ売り上げは上がっていた。
「無事に経営できてますね……」
考え深いものだ、とセルシアは夜一と出逢う前の《ジャンク・ブティコ》から振り返る。
赤字続きで商人としていつまで経っても半人前。もう店じまいしようかとも考えた。
そんな時だった。夜一が来店したのだ。
正確には転移だったわけだが、セルシアにとっては神の使いにも等しい存在であった。
そんな夜一がこの世界に持ち込んだものは意外と多い。
知識はもちろん。衣服などもこちらの世界で使われるモノとは違う。
そうした様々な異文化を持ち込んだ夜一。
そんな夜一が持ち込んだ摩訶不思議な板がある。
二度目の転移時に抱えていた艶のある黒い板である。
板には反射して自分の顔が映る。
鏡にしては鮮明ではない。だとすれば一体何の用途があるのか、セルシアにはサッパリ分からなかった。
普段は邪魔にならないように部屋の端に置いている。
改めて見てみるとおかしな板である。
どのような素材なのかも不明。間違いなく異世界の――こちらの世界にはない素材である。
セルシアは、板の端が紅く点滅していることに気づく。
(ずっと点いていたのかしら)
小さな光に導かれるようにセルシアは黒い板の前まで来る。
周囲を観察すると、幾つか小さなスイッチが並んでいた。
カチカチと押してみるもが、変化は見られない。
最後のスイッチとなる。何も躊躇うことなく押す。
セルシアは今まで何の変化もなった板に対して完全に警戒心を解いてしまっていた。
油断大敵。油断しているときに限って問題は起こるものである。
セルシアの押した最後のスイッチは黒い板に変化をもたらした。
点滅していた赤い明かりが緑色に変わる。すると、板の中から声が聞こえる。
腰を抜かしそうになったセルシアが板に目を向ける。そこにはどうやって入ったのか人間が閉じ込められていた。
(なんで人間が!?)
パニックに陥ったセルシアは助けを求めた。
この状態を説明できるであろう男の名前を叫んだ。
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