アイス革命(パッケージ戦略)③

 夜一は店舗兼自宅でもある《ジャンク・ブティコ》本店(1号店)へと帰宅。

 すぐさまセルシアと対策を練る。


「アイスの購入に規制をかけてはいかがでしょう。お一人、2つまでみたいな」


「確かにその方法でも問題は解決できるでしょう。でも、一つ問題があります」


 思わせぶりに間を取る夜一。


「お金が稼げない」


 そして利益至上主義な商人的思考の結論に至る。

 夜一も異世界での生活の中で平民から商人へとジョブチェンジ(?)しつつあった。


「ですから。ここは値上げ。この一手しかないでしょう!」


 夜一は宣言する。

 しかし、セルシアは苦い表情を浮かべる。


「私は誰かを不幸にするような商売はしたくありませんよ」


 セルシアは客を下に見た商売は許容できない姿勢を示す。

 そうした真面目なところに好感が持てるのだが、商人としては致命的な欠点かもしれない。

 それを補う形で夜一がいるのだと、夜一自身は考えていた。


「大丈夫です。学生たちの満足度は下げさせません。むしろお坊ちゃん、お嬢様のプライドを利用して上手いことやりますよ」


 悪い顔で舌舐めずりする夜一。

 セルシアは言葉を選びながら尋ねる。


「何か学院でありましたか?」


「いえ、別に何も」


 夜一の言葉に嘘はなかった。

 だが、いつの世も富裕層に対する庶民感情は良かった試しはない。

 夜一も学院の学生に恨みがあるわけではない。だが、学院に通う学生は貴族が多い。富裕層なのだ。


(だから、多少法外な価格で売りつけても大丈夫)


 経済格差は人の心を荒廃させる。


「ヨイチさんの事ですからちゃんと考えてはいると思いますけど……信頼してますよ?」


 何故か疑問形のセルシアの言葉に夜一は笑う。


「もちろん信頼していただいて大丈夫ですよ」


 値上げ計画のため、夜一は動く。


 …………

 ……

 …


 学院は午前中の授業の真最中。

 夜一は一人ジャンク・ブティコ学院店にて箱詰め作業を行っていた。

 もちろんアイスの箱詰め作業である。

 丁寧にヤスリ掛けを施した高級樹。それを匠の業により超高級木箱へ変身させた。

 全ては利益を上げるための戦略である。


 アイスを入れる容器もデザイン性を追求。

 鍛冶ギルドにガラス細工を依頼。

 専門職ではないため、割高料金となった。

 痛手ではあるが致し方ない。だが、ただでは終わらない。終わらせない。

 夜一は割高料金を値切ることをしなかった。

 取引において相手の値引き交渉込みで価格設定するのは定石である。

 差し引かれることを想定しているのである。そんな価格設定を二つ返事で受け入れると言う事は相手に大きな利益をもたらすことになる。

 利益と引き換えに夜一は鍛冶ギルドの品質保障をもらった。

 容器に問題があれば全責任を鍛冶ギルドに取ってもらう。

 保証書の代わりに容器に印を押してもらう。鍛冶ギルドが品質を確約している証である。

 これにより容器に付加価値を付与することに成功する。


 容器の中身――アイスには何も手を加えていない。

 しかし純粋に容器分、価格が高騰する。

 そのアイスをさらに高級木箱へ箱詰めする。

 容器プラス木箱の分だけ価格は上がる。

 そして「アイス」という商品名に「プレミアム」をつける。こうして「プレミアム・アイス」が誕生する。

 何がプレミアムなのか。アイスは普通。容器と木箱(梱包)がプレミアムである。

 多くのプレミアム商品は夜一の考案した「プレミアム・アイス」と同様の方法で販売されている。

 決して夜一がお金にがめついわけではない。戦略が、がめついだけである。



 その戦略に思い至り、実行する時点で、夜一もまたがめついのかもしれない……。


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