雑誌の特集と裏の事情②

 ソフィアとの一件はあったものの取材は完璧(?)だった。

 夜一はしっかり《ジャンク・ブティコ》の宣伝をした。

 そして今日、ついに《王都ジャーナル》が刊行する雑誌『王都タイムズ』に先日の取材記事が掲載される。

 中世ヨーロッパくらいの文明レベルの世界に思えるが、異世界には魔法がある。

 生産魔法なるものがあり、紙などには困らない(品質はまちまち)。

 そして購入した雑誌を夜一はセルシアと共に開く。


「ん?」


「???」


 記事が見当たらない。

 間違いなく《ジャンク・ブティコ》は話題の店だ。

 取材をするだけして記事を掲載しないなんてことはありえない。

 だとすれば何か理由があるはず。

 そこまで考えて夜一は自分のしたことが原因なのではと考える。

 決して犯罪ではない。なかったはずだ。考えれば考えるほどに確信が持てなくなっていた。

 するとセルシアが「あっ」と声を上げる。

 声に導かれるように雑誌に目をやると、小さなスペースに《ジャンク・ブティコ》の記事があった。


「なんでこんな小さな記事なんだ?」


 夜一は困惑を隠せない。

 かなり熱く語ったと自負する夜一からしてみれば納得がいかない。

 記事の大きさは《ジャンク・ブティコ》以外の優良店――円卓議会入りを果たしている商店の半分もない。


 セルシアはしばらく記事を眺めて一言。


「ヨイチさん。きちんとお支払しました?」


「支払?」


 夜一は何か買い物をした記憶はない。

 疑問符を浮かべる夜一にセルシアは「記事の掲載料です」と告げる。

 夜一は掲載料などという話は訊いていない。

 もしかしたら取材の最後に話をする予定だったのかもしれないが、あんなことがあったのでうやむやになってしまったのかもしれない。


「その反応からすると支払いはしていないようですね」


「すいません」


 こればかりは夜一も頭を下げるしかない。


「まあ、仕方ないですね。むしろ一銭もお金を出していないのに記事にしていただいたのですから担当記者さんには感謝しかありませんね」


 特集記事を組むときは商店に記事のスペースを買ってもらうのが一般的である。

 それは現代日本でも同じである。

 日本の名店100、みたいな特集記事は各店舗が記事のスペースを買っている。

 目立ちたければ大金を払う。中には師匠より目立つわけにはいかないと師匠より少なめにお金を払う。

 そんなやり取りが雑誌と店舗の間では行われている。


「もしかしたらヨイチさん、こちらに来て初めての失敗らしい失敗だったかもですね」


 何処か嬉しそうな顔を見せるセルシア。

 小さなスペースを埋め尽くさんばかりの文字。

 充分に夜一の《ジャンク・ブティコ》への思いが伝わる。

 セルシアにとって《ジャンク・ブティコ》は分身も同然であった。

 自分のことを褒められているような感覚を覚えて、身体が温もりを持つ。


「今度から気を付けてくださいね」


 怒気の全くない、注意。そして業務に戻り際には鼻歌を歌う。

 セルシアの心は寛大なものとなっていた。


「……なんかよく分かんないけど、セーフ?」



 ちっともセルシアの想いに気づく様子のない夜一であった。

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