エクスマ実践の為に紹介制を取りれる!(合理化)
エクスマのための準備は整った。後は利益を上げる(集客を増やす)だけだ。
充分過ぎるくらいに期待感は煽った。
もはや学生たちの期待感は現実よりも遙か高い位置にある。
ハードルが異常に上がっているのだ。
セルシアへの報告を欠かさない夜一は、以上に上げられたハードル(期待感)についても話した。
「大丈夫なんでしょうか?」
「心配ですか?」
「まあ、話を聞く限りでは……」
不安に思いながらも即座に否定しないのは、セルシアの夜一に対する信頼の表れでもある。
そのことが分かっているから夜一も説明を欠かすことはない。
「確かに学院の学生たちは《ジャンク・ブティコ》に過剰な期待をしています。そしてその期待感と現実の差は日に日に大きくなっています。下手をすると「期待外れだ!」って暴動になるかもですね」
まるで他人事のように夜一は笑う。
笑い事ではないとセルシアが窘める。
「すみません。でも大丈夫ですよ。無策じゃないですから!」
夜一は教科書を掲げる。
「おお! 久し振りに見ました。私たち《ジャンク・ブティコ》にとっての指南書――教典!!」
フンスカと鼻息荒く、セルシアは叫ぶ。興奮しているようだ。
(あれ? なんか僕がこっちの世界に戻ってきた時よりも嬉しがってない? 僕ってオマケ?)
セルシアのテンションアップに比例して、夜一のテンションはダウンする。
夜一は何とか気を取り直して説明を再開する。
「今、学院店の……名称はまだないので特別ルームと呼ばせてもらいますけど、あの特別ルームの会員は位の高い貴族の御子息に御息女ばかりです。そんな人たちの集うあの空間は学生たちにとってステータスとなっています。
会員は自分が会員であることに誇りを持っています。特別ルームの事を悪く言う学生はいません。自分たちにとって居心地のいい環境になっていますからね」
でも、とセルシアは話を遮る。
「それはあくまで会員にとっていい環境であるだけですよね? 他の学生たちが求めているモノが違うという事もあるのではないですか?」
「もちろん、そういうこともあるでしょう」
夜一は肯定する。
ただし、と続けて
「学生たちは勝手にそこにある環境に適応しますよ」
確信を持って夜一は断言する。
セルシアはその根拠を知りたいと目配せをする。
セルシアの要望に応えて夜一は話を続ける。
「間違いなく「合理化」が起きます」
「合理化?」
セルシアは首を傾げる。
「店長も経験があるんじゃないですか? 自分の都合のいいように物事を解釈するなんてこと」
セルシアはただ微笑を浮かべる。
肯定も否定もしない。
夜一はその反応を肯定だと受け取り、話を進める。
「店長同様に、学生たちも都合よく解釈してくれます。ようやく特別ルームに入れた学生は、そこの雰囲気に勝手に酔ってくれます。会員(貴族)と同じように振る舞おうとします。そして、長い間待って、ようやく入った特別ルームは「やはり良い場所」と様々な物事をプラスに捉えてくれます。誰でも損をしたとは思いたくないですから。とても良い時間を過ごしたと思いたいものです」
「それはつまり、学生たちの抱いた特別ルームの幻想を利用すると言う事なのでは?」
「店長は、こういうマーケティング戦略はお嫌いですか?」
夜一が訊ねると、セルシアは上を向き考える仕草。
逡巡した後、正面を向いて言った。
「お金のかからない戦略で大変よろしいと思います」
セルシアは屈託のない笑みを見せる。
さすがは商人と言った思考の持ち主である。
「私のヨイチさんに対する想いも合理化なんでしょうか……」
夜一はセルシアの呟きに気づくことなく、一人、次の戦略を練ってブツブツとなにやら呟いている。
これ見よがしに大きなため息を吐くセルシア。
「……もう知りません」
大きな足音と共にセルシアは自室へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます