エクスマの為に価値を高めろ! 鶴の恩返し理論(カリギュラ効果)

 日に日にセルシアから覇気が失われていく。


(ほんとにあの国王様は何をやらせているんだ? きっと碌でもないことやってるんだろうな……変な意味じゃなく)


「あら……ヨイチさん。おはようございます」


「おはようございます店長」


 夜一はできる限り元気よく挨拶した。

 暗いより明るい方がいいに決まっている。

 夜一の挨拶にセルシアはなけなしの元気を振り絞って笑顔を見せる。


「やっぱり店長は笑ってる方がですね」


「へっ?」


「えっ?」


 夜一とセルシアは顔を見合わせる。

 夜一は猛烈な恥ずかしさを覚える。


(あれ? なんか変なこと言った?)


 みるみる頬を桜色に染め上げ、セルシアは声にならない声を上げて走り去った。

 すでにセルシアが去ったために比較できないが、夜一も負けず劣らず熱を持っていた。

 大きく息を吐き、天を仰ぐ。


(ほんと店長との生活は心臓に悪い)


 …………

 ……

 …


「何かいいことありました?」


「えっ!? 別に、何も……」


「そうですか?」


 夜一は、アルバイトの問いに過剰に反応してしまった。何かあったと言っているようなものだ。


(いけない。仕事に集中しなければ)


 気持ちを引き締め直し、夜一は業務に戻る。

 最近の《ジャンク・ブティコ》学院店の売上げは上々だ。

 そして夜一の目論見通り、学生たちの関心が高くなっている。

 売上げを伸ばすためには情報の拡散だけでは不十分。ときには情報の規制が大きな効果を発揮することもある。

 学生たちは部屋の中が気になる。だが自分たちは入ることが出来ない。どんな場所なのか想像が掻き立てられる。それこそが夜一の狙いでもあった。


 日本には「鶴の恩返し」という話がある。

 人に化けた鶴はおじいさんたちに、決して見てはならないと言って機織りを始めた。この時、鶴が人間の事をもっと知っていれば他の言い方をしたに違いない。

 人間は「ダメ」と言われると余計に気になってしまう生き物なのだ。


 京都などにある「一見さんお断り」の店や「会員制」のお店なんかはまさしくこうした人間の習性を上手く突いている。

 これらに倣って《ジャンク・ブティコ》学院店は会員制を導入しているわけだ。

 もちろん夜一の知恵ではなく教科書の知識を参考に。


 秘密は最高のスパイス。

 どんどん想像を掻き立てればいい。


 すると、学生のひとりが「友達が中にいるので自分も入れないか?」と尋ねてきた。

 利益の事を考えれば入れても構わない。だが、ここはあえてNOを突きつける。


(大丈夫。もう少ししたら入れるようになるから)


 そう伝えてあげたいが、経営戦略としてはまだ沈黙を貫くほかない。


(秘密と言えば……店長も全然言葉にしてくれないから、勝手に解釈するしかないけど、今日みたいな反応されたらさすがに自惚れちゃうよ!?)


「ヨイチさん? どうしたんです。顔赤いですよ? 熱ならこの状態異常回復ポーションをどうぞ。自分の奢りです」


「どうも」


 差し出されたポーションを受け取り一気に飲み干した。しかし、顔の熱がひくことはなかった。

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