エクスマの為にお客を集めろ! 限定品でお客を釣る(スノッブ効果)

 夜一は熟考の末、一つの戦略を思いつく。

 夜一自身が何度もしてやられたマーケティング戦略である。

 そのためにコネを最大活用。セルシアに頼み込んで王城へと行ってもらった。

 かなり渋々という感じではあったが、目的の人材は確保した。


 夜一が欲した人材は料理人――王族専属料理人である。

 きっと第三王女セリーヌに頼めば、一日くらいレンタルさせてくれたとは思うが、迷惑をかける訳にはいかない。

 そこで、国王専属料理人をレンタルすることにした。

 国王も自分の料理人のレンタル料として娘に逢えるのだから文句は言わないだろう。

 目論見通り料理人のレンタルはできた。もちろん料理人には料理を作ってもらう。

 だが、フルコースを作ってもらう訳ではない。もし、《ジャンク・ブティコ》の提供する料理の基準がフルコースになったら間違いなく学院店は赤字になる。

 あくまで今回使うのは「王族――国王陛下専属料理人」の肩書きである。

 国王陛下専属料理人の料理なんて王族でない限り、貴族でも滅多な事がなければ食すことはない。

 かなりの希少価値がある。そして学院には多くの王侯貴族が通っている。

 多少値が張ったところで懐は痛くもないだろう。


(お坊ちゃんにお嬢様だからな)


 いつもよr多目にお金を支払うだけで、国王陛下と同じものを食したと言うステータスを得られるのだ。

 貴族のお坊ちゃん、お嬢様が食いつかないわけがない。

 すでに学院のいたるところに張り紙はしてある。

 何だか重要そうな刑事の上にも貼り付けてしまったが、国王陛下が直々に許可を出した店と言う事で職員たちは張り紙を剥がせずにいる。


 昼休みが始まる。


 専属料理人には簡単な料理を作ってもらう。

 カットして盛り付ける。その程度の簡単な料理ばかりだ。

 昼休みが始まると、案の定、お育ちの良さそうな集団が何組かやってきた。

 辺りを見回している。専属料理人を探しているのだろう。


 そこで夜一はこれ見よがしに咳払いをする。

 一斉に学生が夜一の方を見る。

 夜一のすぐ横には大きなPOP。でかでかとした文字で「限定会員証が付いてくる!」と書いてある。

 一人の学生が、「これは?」と尋ねる。

 夜一は柔らかな笑みを浮かべて「シェフがお待ちしていますよ」と優しく囁くように伝える。

 目を輝かせた学生たちはこぞって限定会員証付きの食品を買っていく。

 限定品は50品。瞬く間に完売した。


(もう少し多くても良かったかな?)


 一瞬欲が出てしまった夜一は頭を振る。

 それではエクスマが出来なくなってしまう。

 食堂の喧騒とは違う落ち着いた雰囲気が必要なのだ。人数が増えれば喧騒の空間になってしまう。

 そして限定品と言う事で価格設定も法外なものにした。

 懐に余裕がないと買えない額である。

 もちろん家一軒といったような価格ではない。あくまで食事としては法外な価格設定と言うだけのことである。

 それでも50品完売。購入者の多くは貴族やそれに連なる地位を持つ家柄の学生たちだ。


 限定品を購入してくれた学生たちには「入口で会員証を提示してください」と伝えた。

 学院店と、新たに建設したスペースとは隔離してある。

 コンビニと繋がったレストランでは高級感は演出できない。《ジャンク・ブティコ》はコンビニ同様高級店という路線で商売はしていない。あくまで便利な商店という立ち位置である。

 特別な空間に《ジャンク・ブティコ》は不要なのである。

 ドアマンを立たせ、会員証の提示を求めるのも希少価値を見出してもらうための演出である。

 学食のように開かれたオープンスペースではない。特別な空間だと思ってもらわなくては意味がない。

 空間全体には防音魔法を展開してあり外の喧騒と完全に隔離される。


(ほんとに魔法って便利だな)


 夜一はつくづくそう思った。

 そしてもう一つ夜一が徹底した空間づくりがある。


「私もよろしいかしら?」


 眼鏡をクイッと上げながら言うのは王立学院の教師を務める女性だ。魔法基礎学なんかを担当しているとのことだった。

 恨みも何もないが、夜一は頭を下げる。


「申し訳ございません。たとえ学院の教師であっても会員証が無くてはお通しすることは出来ません」


 一時の安らぎの時間に教師がいたのでは心が休まらない。

 そんな現代では学生である夜一の心配りもあってか、新たな試みの評判は上々だった。


 …………

 ……

 …


「作戦の第一段階は成功と言ったところでしょうかね」


 夜一は《ジャンク・ブティコ》へ帰るとセルシアへ報告した。


「そうですか……良かったです」


「元気ありませんね。どうかしました?」


「いえ、お父様がちょっと……」


 セルシアは大きな溜息を吐く。

 相当苦労したであろうことは傍から見ても分かった。


「それで、今日は良いですけど明日からはどうするんですか? 料理人の方もずっとこちらにいる訳にはいきませんし」


「すいませんけど、もう少しの間トレードすると言う事で」


「……どういう事ですか?」


 心は痛むが夜一は《ジャンク・ブティコ》の為、意を決して言う。


「明日もお父様のお相手お願いします」


 次の瞬間セルシアの中から何かが抜け落ちた。

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