顧客争奪戦(エクスぺリエンス・マーケティング)①
夜一が異世界へ二度目の転移を果たして五日。
夜一はやつれていた。学院店の売り上げは今や横這い。
黒字ではあるものの、リピーターが居ない状態だ。
目新しい物は、初めこそ興味本位で手に取ってもらえる。だが、それは何度も続かない。次第に飽きが来る。
そうすれば、今は横這いの売り上げだが、今後下降することだって充分に考えられた。
頭をひねる夜一は明らかな睡眠不足だった。
対してセルシアは、同じく睡眠不足であるにもかかわらず、気力充分。ツヤツヤしていた。
「店長元気ですね」
「え!? そ、そうですか?」
ぐったりした声の夜一とは対照的に、セルシアの声はどこか弾んでいた。
「取り敢えず、僕が学院の方に行きましょうか。実際に見てみないと何とも言えませんし」
「それでしたら私も一緒に」
夜一はセルシアの言葉を遮った。
「店長は本店から動いたらダメでしょう」
セルシアは複数の店舗を持つ経営者。そんなセルシアは自由気ままに好き勝手な行動がとれない。
セルシアは自分の立場を呪いながら、「わ、分かりました」と唇を強く噛んだ。
「そんなに行きたいんですか? それじゃ、僕が本店に居ますから、店長、行ってきていいですよ」
夜一は気を利かせたつもりだったが、セルシアは頬を膨らませる。
「それでは意味がありません!!」
ご立腹である。
夜一には女心など分からない。ただただ、首を傾げるばかりであった。
…………
……
…
結局、夜一ひとりが《ジャンク・ブティコ》王立学院店にやってきていた。
今までアルバイトの女性が二人いたそうだが、急遽社長の一声で配置換え。
男性冒険者二人が店員となった。
夜一はアルバイト冒険者二人に店を任せて、敵情視察へと向かった。
新たに調査した結果、学生たちは食事に関心があるとのことだった。
だから食料品を多く取り揃えたのだが、売り上げはボチボチだ。
衣食住は生活の基盤。
食事に気を遣うのは当然の事である。しかも、学院は全寮制。もちろん服装は制服と決まっている。衣食住の内二つは手の加えようがない。となれば食事に関心が強くなるのは分かる。
学食のメニューは豊富。
味も悪くない。
だが、毎日メニューを変えても、ひと月もあれば全てコンプリートしてしまう。
そこで《ジャンク・ブティコ》に変化を求めた訳だ。
しかし、普通に考えてみれば、食事を提供する場所――食堂に《ジャンク・ブティコ》――現代日本で言えばコンビニが食事面で勝てる訳がないのだ。
食堂に行けば温かいご飯が食べられる。
対して《ジャンク・ブティコ》は保存が効く食べ物しかない。
どうせ食べるのであれば温かい食事がいいに決まっている。
味も勝てるかどうか怪しいところだ。
食品――料理では勝てない。であれば、他の要素で勝たなくてはならない。
食堂とは違う特別な何かを提供しなければ今回の学院出店は失敗に終わる。
そうならないためにも、夜一は食堂をくまなく観察する。
どれだけ見ても自分の通う大学の学食と大差はない。しいて違いがあるとすれば提供される料理くらいだ。
とは言え、決定的な差別化を図るには至らない。
(それにしても……)
現代日本でも異世界でも学食は賑やかだ。
折角の休み時間だと言うのにくつろぐことが出来ない。
(ウチの大学も何か対策してくれないかなぁ……。たまには静かに食事したいしな)
……ん?
夜一は閃いた。
(もしかしたら行けるかも?)
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