人の噂も七十五日①

 ライア・プルートの粗雑な調査を鵜呑みにした結果、損失を招いた《ジャンク・ブティコ》。

 夜一は報復を考える。

 もちろん、法に触れることはしない。

 それはそのまま《ジャンク・ブティコ》の評判に繋がる。

 私的感情で行動しては店に迷惑をかけてしまう。

 そこで夜一の取った行動はいろんな人に愚痴る事。


 いろんな店に顔を出し手は愚痴る。

 飲食店は勿論、同じ商人仲間(夜一は商人の自覚はあまりない)の経営する店で買い物ついでに愚痴る。

 出たひたすらに愚痴る。

 時には井戸端会議に顔を出し、そして愚痴る。

 優しい奥様方は夜一の愚痴を黙って聞いてくれる。

 ついでに旦那の愚痴もしこたま聞かされた。

 WinWin? な関係である?


 もちろん《ジャンク・ブティコ》での仕事はきちんとこなしている。

 それでも接客の合間に愚痴る。それはもう、とにかく愚痴る。

 さすがにセルシアが引きつった笑みを見せたりもしていたが、それでも愚痴ることはやめない。


 さすがに毎日愚痴り歩いたため、ほとんどの店には顔を出していた。

 まだ愚痴を聞いてもらっていない場所はないだろうか。

 考えた末に思いついた場所へと夜一は向かう。

 空は闇に覆われ、その中に優しい明かりをともした月が浮かんでいる。

 店の前までやってきたはいいいもののあと一歩。その勇気が出ない。

 絢爛豪華な外装の洋館風の建物。王都でも知られた高級店――娼館アンジェラ

 オトナの階段を上るのか!?……何だか本来の目的を見失っているような……


「どうかなさいましたか? お客様」


 黒服のコンシェルジュが声を掛けてきた。

 夜一は逡巡する。そして選択する。

 逃げる。全力で駆けだした。

 頭の中をセルシアがチラつくのだ。


(くっ、折角のチャンスだったのに僕は何やってるんだ)


 色々と情けなくなり肩を落とした。


 そして翌日。

 何故か、夜一が娼館へと赴いていたことがセルシアの耳に入っていた。

 結果としては無実(?)なのだが、セルシアの雷は治まらない。

 陽が昇っているというのに《ジャンク・ブティコ》には局所的な雷が降り注ぐ。

 きっと誰か知り合いに見られてしまっていたのだろう。

 それにしても一日。正確には一晩経ったら話は広まる。人の噂は恐ろしい。


「ちゃんと聞いていますか!?」


 プンスカしたセルシアは珍しい。

 宥めてみるも逆効果。火に油を注ぐ結果となった。


「なんで娼館なんかに。言ってくれれば……」


「えっ? なに?」


 消え行く言葉を聞き返すと、最大ボリュームの「バカ!!」が夜一の鼓膜を震わせた。

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