数字を見極めなければ損をする(少数の法則)②

 ライア・プルートは依頼主と握手を交わしながら、内心で高笑いをする。

 相手は《ジャンク・ブティコ》。円卓議会入りが囁かれる商店だ。報酬は保障されている。

 中には依頼をこなしても報酬をケチる奴もいる。それくらいであればまだマシな方。踏み倒す輩もいる。

 その点、今回は問題なさそうだ。

 それに……


(相手はオレのことを知らないみたいだしな)



 ライアは盗賊職の冒険者である。

 個人の戦闘能力はそれほど高くない。

 しかし、隠密行動や偵察、トラップ回避、そうしたサポート役としては一流と自負していた。

 確かに一流と呼ばれるに相応しい仕事をしていた。半年前までは。


 ライアは元々チームを組んでいた。メンバー全員がシルバープレート以上の高レベルパーティーであった。

 だが、ある日ライアは魔が差した。

 剣士や格闘家などの前衛。同じ支援系ではあるものの、直接戦闘に参加する魔法職。これらのメンバーと自分の待遇の違いに気づいてしまった。

 今まで気付かないように見て見ぬふりしてきたモノを不意に見た――自覚した。

 報酬の取り分が違う。均等ではないのだ。

 そもそもの取り分が少ないのに、そこからさらに仲間がトラップを回避できなかったら差し引かれ、情報を得られなければ、また差し引かれる。

 仲間たちは、「戦闘に参加しないで安全なんだから当然だろ?」と言う。

 だから潜ったダンジョンで見つけた宝をネコババした。差し引かれていた分の埋め合わせをしただけだ。

 それだけのことなのに、その事が明るみに出るとライアはパーティーを追放された。「卑怯者」の烙印を押されて。


 それからと言うもの、ライアは荒れに荒れた。

 そして仕事に対する情熱を失い、人を信頼することなく、金に執着するようになった。

 簡単に、楽して金を儲ける。

 そんな考えに占拠されていたのである。


 …………

 ……

 …


 ライアは調査の為に王立学院に来ていた。


「はぁ、めんどくさいね」


 取り敢えず話を聞かなくてはなるまい。

 報酬は後払い。仕事内容を確認して支払うとのことだ。

 適当に話を聞いて上手くまとめれば大丈夫だろう。


「そこのお嬢さん。ちょっとお話いいかな?」


 何人かに声を掛けたが、反応はいまいち。それは当然とも言える。

 見ず知らずの男が「何か学院になくて困っている物ある?」とか「どんな物が欲しいのかな」とか、色々と尋ねてくるのだ、気味が悪い。

 もし自分が学生だったら急いでその場を離れるに違いない。


「ようやく10人か……先は長いなぁ」


 やっぱり今からでもこの依頼断ろうかな。

 でも金払いは良い。

 お金は欲しいが、労力はかけたくない。


(あっ)


 ライアは閃いた。

 報酬を手にして、なおかつ働かなくてすむ方法を――

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