使えるコネは迷わず使え③
「でかいな」
夜一は手で庇を作って仰ぎ見る。
目の前には、王城が荘厳な佇まいで建っていた。
日本建築とは違う西洋風の建築。
ただそれだけで異文化を感じることが出来る。
城下から毎日目にしていたが、実際に目の前まで来てみると受ける印象は大きく変わる。
(入って大丈夫なのか?)
そう、目の前の王城は日本各地に点在する城とは違い、現在進行形で人が住んでるのだ。
そしてそこに住んでいるのは王族。
夜一は王族に対するマナーなど知らない。
そもそもこの異世界で地球のマナーが通用するのかすら不明だ。
そんな夜一の不安を他所に、セルシアは門番に用件を伝え門を開けて貰っている。
その堂々とした振る舞いに夜一は感心していた。
「まいりましょう」
そう言ってセルシアは歩き出す。
そいで夜一は後に続く。
無駄にでかい正門をくぐると近衛兵たちが待ち構えていた。
たじろぐ夜一とは違い、セルシアはお辞儀をして近衛兵を割って歩く。
さすがは王族である。手慣れたものだ。
一般人の夜一ひとりでは足がすくんでしまっていたことだろう。
「凄いですね」
素直な感想を述べる。
「そうですね。近衛兵のみなさんには申し訳なく思います」
「どういうことです?」
「皆さん他にお仕事がおありになるでしょうに、父――」
セルシアは、父と言った後にすぐに訂正する。
「国王陛下が変な気を回したのでしょう」
「ああ」
夜一も納得した。
親バカであろう国王のすることだ、本来であれば一商人との面会に出迎えなどありはしないのだろう。
国王に言われて近衛兵たちも仕方なく出迎えていると言う事なのだろう。
だが、若い近衛兵たちはセルシアをチラチラ窺いながら鼻の下を伸ばしている。
(楽しんでいる人も結構いるみたいだな)
控えめに言ってセルシアは美人だ。美人の前に「絶世の」と付けても異議を唱える者などいないだろう。
(それにしても……一応王族だぞ。あんな視線を送っていいのか?)
王女に向ける視線にしてはいささか問題があるように思われる。
そんな夜一の思考を見透かしたように、
「仕方ありませんよ。私が王城にに居たのは何年も前の事ですから、それ以降に城に入った者は私の顔を知りません」
なるほど、と夜一は納得する。
暫く歩くと門の奥にさらに門があり、老齢の騎士が恭しく頭を下げていた。
セルシアの事を知っているようだ。
「お久しぶりですね」
セルシアが声を掛けると、「ハッ」と胸に手を当て応える。
(おお、騎士らしい反応だ。本物って感じだ)
一流の所作というのか、出迎えの若い兵にはない気品があった。
夜一が感心していると、老齢の騎士に視線で射抜かれた。
鋭い眼光は、夜一を捉えている。
何か反応しなくては、そう思った夜一は何とか声を絞り出す。
「初めまして、黒羽夜一と申します」
何とか素掘り出した挨拶の言葉にがちがちのお辞儀を添える。
一瞬の沈黙の後、
「そう硬くならずともよい。肩の力を抜け」
そう言ってバシバシ叩かれた。
普通に痛い。
「ついて来てください」
老齢の騎士に案内され、内門をくぐった。
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