使えるコネは迷わず使え②
男は頭を抱える。
知らず知らずのうちにため息が漏れる。
久し振りに愛娘から連絡があったと思ったら、まんま仕事の話であった。
紛うことなき娘の字。それだけに、「お父様、ご機嫌いかがでしょうか?」とか「私は元気にしております」とか、老体を気遣った言葉だったり、娘の近況だったりが知りたかったのに……仕事の話しか書いておらん。
ガックリと肩を落とすの男の名は、カルロス・ディナ・フェルメール。
娘を溺愛する親バカな姿とは打って変わって、普段は賢王として近隣諸国にその名を知られる国王である。
「陛下、いかがなさいました?」
宰相の声掛けに、ようやく意識を現実世界へと浮上させる。
「うむ、何も問題はないぞ……多分?」
「陛下。また御息女の事で何かありましたかな?」
宰相は薄々感じていた。
国王の態度から、ハーフエルフとして生まれた――生まれてしまった第二王女、セルシア王女殿下絡みであることを。
ハーフエルフと言うだけで政治の表舞台から退場せざるを得なかったセルシア。
そんな娘を溺愛する国王。
事あるごとに娘に追加支援を出そうとする国王を、宰相は必死の思いで食い止めていた。
「セルシアが儂を頼っているのじゃ」
「はあ」
国王とは違い、セルシアはきちんと親離れしている。
無茶な要求はしてこないだろう。そんな宰相の考えはいとも簡単に崩れ去る。
「王立学院に出店をしたいと要望だ」
「王立学院に出店? そんなのダメですよ。セルシア様は政治にかかわってはなりません。王立学院には他国の貴族を始め、王族の方々もおられます。そのようなところにセルシア様のお店を出展させるなど!?」
「しかし、儂のセルシアが……」
宰相は語気を強める。
「王族の権威にもかかわる問題です。未だに他国では人種至上主義、亜人種冷遇といった風潮の残る国は少なからずあります。なにより一番傷つくのはセルシア様自身ですぞ!」
「う、うむ……そうだな」
宰相は勝利を確信する。
しかし、国王の目の色が変わる。
「手紙の最後に「後日、ご相談に窺います」と書いておる」
ヒャッホー!! とピョンピョン王座の周りを飛び跳ねる主を前に、宰相は俯き、諦めるように小さくため息をついた。
キリっとした表情になった国王が宰相に命じる。
「商人セルシアを迎える支度を始めよ」
「陛下。リンド王国第一王子との晩餐会が予定されておりますが?」
「そんなモノは後回しじゃ。セルシアとの商談が先に決まっておろう」
断言する国王。
「畏まりました」
恭しく礼をし、宰相は部屋を後にした。
盛大につかれたため息は反響して王城の廊下に響き渡った。
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