専属配送業者(間接流通)①

 最近やたらとギルドから手紙の配達が増えている。

 あるお店宛に。


「お手紙お届けに来ました~」


 店の奥から男の人が一人やって来る。


「どうもどうも。ご苦労様です」


 労いの言葉と共に笑顔を向けてくる。

 私は彼の事が嫌いではない。

 十中八九、心はこもっていない。それでも無いよりはマシである。

 誰もかれも、手紙を配達してもらうのは当たり前だと思っている。

 最早人間扱いされていない。


 そんな中、表面的にでも人間扱いされることが嬉しかった。

 だから、《ジャンク・ブティコ》への配達は出来る限り請け負った。

 それがそもそもの間違いだった。

 急成長を遂げ、円卓議会入りも噂されるようになった店にはひっきりなしに手紙(書状等を含む)が届く。

 それを届ける私はと言うと、過労でダウン寸前だった。

 それでも懸命に仕事をこなしていた。


 届いた手紙の仕分けをしながら彼が、声を掛けてくる。


「このお仕事って給金良いんですか?」


「えっ? まぁ、それなりには……一応、商人ギルドの傘下ですし」


「そうですか」


 一人で勝手に納得すると、元の作業に戻る。

 元々作業をしながらの会話で、視線は一度もこちらを向かなかった。


 普段から口数の多い人ではないので、何かしらの理由があるものと考えて、訊ねた。


「なんで給金の話なんかしたんです?」


 すると彼は、表情を変えることなく、「もし待遇に不満があるようだったら、引き抜きでもしようかと思って」と言う。


 これはもしかしなくてもチャンスなのではないか?

 現在、店舗数の拡大に伴い《ジャンク・ブティコ》は経営の中核となる人材を探しているとかいないとか。

 だが、人材不足は間違いないだろう。


 現在、《ジャンク・ブティコ》はアルバイトと呼ばれる日雇い従業員で複数店舗を回している。

 アルバイトの多くは、新人冒険者だ。

 働き盛りという点ではなかなかに良い人選だと思う。だが、彼らは正規の従業員ではない。

 彼らの本業はあくまで冒険者であって《ジャンク・ブティコ》の従業員ではない。


 そこで、本腰を入れて働いてくれる人材を欲しているのだろう。

 これは話をきちんと聞くべきだ。

 今の状況を脱するチャンスだ。

 そう思った時には再び訪ねていた。


「引き抜きって具体的にどういう事でしょうか?」


「興味あります?」


「まぁ、控えめに言ってアリアリです」


 私は前のめりに答えた。

 すると、満足そうに彼は頷いて、「お茶でも淹れますから、ゆっくり話しましょうか」と微笑む。

 彼に促され、関係者以外立ち入り禁止エリアにある部屋に通された。


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