アルバイトを始める②

 何これ……めちゃくちゃ楽。

 在庫整理に陳列作業。

 接客はちょっと……まあ、ちょっとだけ苦手だが、冒険者の仕事に比べればなんてことない。


 すでにオレは多くのお金を手にしている。

 オレより早く働き始めた他の冒険者たちより、ずっと多くの金額を稼いでいる。

 こんなに楽な仕事は他にない。


 …………

 ……

 …


 早朝。いや、深夜と呼んだ方がいいかもしれない。

 まだ空が白むよりも早い時刻。

 オレは働いていた。


 ジャンク・ブティコの倉庫からお店へと品物を運び出す。

 この店のポーションは幾度も助けられた。

 それにしても……在庫の数、えげつないな。

 これだけの数、どうやったら集まるのか。

 さすがは、急成長を遂げ、円卓議会入りも噂される店だ。


 品物を店舗まで運ぶと、丁度日の出時だ。

 一息つく間もなく陳列作業が待っている。

 ジャンク・ブティコは陳列にかなりこだわる。

 初めての陳列作業時には、店長のセルシアさんにダメ出しを受けた。

 それはもう徹底的に。本当に心が折れそうになった。


 しかし、肉体的には何ら問題はない。

 陳列が終われば、店内の清掃。

 前日――閉店後に一度清掃は行うので、簡単に床を掃く程度でいい。

 それから店の周囲も簡単に掃いておく。

 そしたらついに開店。

 それから先は店内での接客だ。

 時々、お会計もこなす。

 金勘定は苦手なので、セルシアさんやヨイチよりも格段にスピードが落ちる。

 客入れ時はほとんど戦力外だ。


 その為、客の入りが少ない時間帯は全ての作業を請け負っている。

 陳列、清掃、会計処理……etc.


 太陽が沈み、空を闇が覆ってしばらくすると、ジャンク・ブティコは閉店だ。

 それから品物の補充確認をして清掃作業に入る。

 埃一つ残さない。

 実家で毎年一度行われる大掃除以上に大変だ。

 しかし、これは家のやらされる、嫌々やる手伝いとは違う。

 労働に見合う金銭と言う対価をもらう、仕事なのだ。


 一応、同僚と言う事になる、ヨイチなる異国の男はオレの清掃の手際の良さに感心していた。


「僕の部屋の掃除も頼みたいくらいですよ。一家に一人、ロイクさんですね」


 何を言っているのか分からなかったが、褒められているらしいことは分かった。

 だが、誰がお前の部屋の掃除なんぞしてやるものか!


 清掃作業が終わると、後は帰るだけだ。

 家に着くと真っ直ぐに自分の部屋へと向かう。

 干し肉を一齧り。

 うん。美味いな。仕事終わりの食事は最高だ。

 酒があれば最高なんだが……さすがに一杯ひっかける訳にはいかない。

 ベッドわきの棚からポーションの小瓶を一つ取り出す。


 すべてジャンク・ブティコの品だ。

 従業員価格? なるもので買った。

 かなり値引きされており、助かっている。

 小瓶を開けて一気に中身を流し込む。

 一日の疲れがきれいさっぱり消えていく。


 よし! これで明日も元気に働ける。

 いや、もう今日だったな。

 空が白み始めた。

 ……まずい!? 遅刻しちまう!!?


 オレは急いで服を着替えて部屋を飛び出す。

 こうしてジャンク・ブティコでの仕事が終わり、またすぐに始まる。

 以前、ヨイチがブラックとかなんとか言っていたが、オレにとっては冒険者よりも楽に稼げるいい仕事だ。



 ***



「いやぁ、ほんとロイクさんもそうだけどこの世界の人たちは良く働きますね。

 こんなの普通に日本じゃ労働基準法に引っかかりますよね絶対。

 ブラックなんてものじゃないでしょ。まあ、本人がそう思ってないからいいんでしょうけど」


「ウチのお店はブラックなのですか?」


 セルシアは尋ねる。

 ヨイチは肯定する。


「はい。《ジャンク・ブティコ》は完全なブラック企業です」


 笑顔で答えてあげると、何を勘違いしたのか、


「《ジャンク・ブティコ》は王都――いえ、大陸一のブラック企業を目指します!!」


 それが不名誉な称号だとは露ほどにも思っていないセルシアは、天を指さし、高らかに宣言した。

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