専属配送業者(間接流通)③
「今までお世話になりました」
私は勢い良く頭を下げた。
今までお世話になったのは事実だ。
だがしかし、より良い労働環境があればそちらに乗り換えるのは当たり前の事だ。
「ちょっと待て!? 急にどうしたんだ!?」
上司が慌てふためくのも無理はない。
なにせ、仕事から戻って来るや否や仕事を辞めるというのだから上司の反応は当然のものだ。
自分勝手なことは自覚している。
少し申し訳ない。
辞めるのは私一人ではない。
扉が叩かれ、部屋に新たに人が入ってくる。
「どうしたんだお前たち?」
そこに居たのは一人ではない。
複数人が上司に詰め寄る。
「「私たちも今日限りで辞めさせていただきます」」
お世話になりました、とみんなで声をそろえて言った後、みんな一緒に部屋を出た。
背後でドサリと上司――元上司が崩れる音がした。
…………
……
…
同僚に声を掛け人員は確保した。
きっと彼は私の行動まで予測していたのだろう。
特に驚くことなく、全員を雇うことを決めた。
ちなみに私たちはみんな《ジャンク・ブティコ》の傘下という扱いになる。
仕事内容は日に2回の店舗への配送と品物の管理だけだ。
前職と違いかなり楽が出来る。
前職は王都中を駆け回っていたが、《ジャンク・ブティコ》専属の配送業者になったことで配送区域が小さくなった。
王都の一角に集中して出店している《ジャンク・ブティコ》への配送は効率がいい。
配送距離が短くて済む。
きっとこの事も踏まえて集中出店しているのだろう。
夕方。
この日最後の仕事を終えた私に、上司(?)が声を掛けてくる。
「お疲れ様です。アンナさん」
「お疲れ様です。ヨイチさん」
「仕事には慣れましたか?」
「はい。大丈夫です。前の仕事よりも楽ですし、あっ、でも、責任は増えたかもですね」
表情を崩して夜一は、「そうでしょうね」と呟く。
「やりがいあるでしょう?」
この問いに私は短く、「そうかもしれませんね」と曖昧な返答をする。
だって、まだ確かなことは分からないから。
でも、きっとやりがいは見つかると思う。
今の仕事は、楽な以上に楽しくもある。
新しい仕事は時間も取れる。
自分磨きでもしてみるか? 夜一が交渉時に言っていた「スキルアップ」というヤツだ。
「これから《ジャンク・ブティコ》は事業拡大していきますから、配送部門の仕事もそれにつれて増えていくと思いますよ。良かったですね。収入アップしますよ。転職した甲斐がありますね」
夜一の言葉に、背筋を冷たいものが伝う。
この転職は成功だったのだろうか?
もしかしたら失敗だったのではないか?
そんな思いを抱いても意味はない。
すでに転職してしまっているのだから。
それに、答えが出るのはもうしばらく先の事である。
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