「POP」の書き方①
セルシア・アン・フェルメールの朝は早い。
王国の王女としての立場を捨て、今は一人の商人として王都にひっそりと店を構えている。
王宮に居た頃は使用人たちが身支度をしてくれたが、王族の地位を捨てた今となっては全て自分で行わなくてはならない。
セルシアの営む《ジャンク・ブティコ》の従業員はセルシアを含めて二人。異世界からの放浪者、クロバ・ヨイチである。
彼は異世界の知識を持って、経営の傾いていたお店を立て直してくれている。
現状、まだ赤字のままらしい。
だが、世間知らずと言われてしまうセルシアにもヨイチの改革の成果は分かった。
閑散としていた店内には毎日お客様がいる。
セルシア一人でお店をやっていた時には考えられない状況だ。
確かにお店の状況は好転しつつある。それでもセルシアは満足しない。してはいけないのだ。
セルシアはお店の代表として、さらなる売上アップを目指す。
そのために店頭に並べる「POP」を作成中。
アイデアはヨイチ発信である。
セルシアが何か自分にもできることはないか尋ねたところ、気怠そうな声で、
「んじゃ、POPでも作ったらどうです?」との返答をもらった。
POPなるものがどんなものなのかが分からなかったセルシアは、ヨイチに享受願った。
ひどくめんどくさそうに説明してくれた。
ヨイチが終始吐きつづけたため息の所為か、セルシアまでも倦怠感に襲われる。
だからと言って仕事をしない、などと言う事はない。
それにせっかく教えて貰ったのだ、POPも作ってみようではないか。
その様に決意してみたものの、開店中はお客様が居てもいなくても、それなりに忙しい。
一人の時は、自宅兼店舗の店番だけだったが、今では冒険者ギルドに小規模ではあるものの《ジャンク・ブティコ2号店》を開店。
その為、二人での運営は多忙を極める。
そうすると朝か夜しか時間は取れない。
夜は、仕事終わりにどっと押し寄せてくる疲労感や眠気に抗うことが出来ないため、起床時間を早めて朝に時間を作った次第だ。
そんなわけで朝の時間にPOP作りに勤しむセルシアは、欠伸を噛み殺しながら、丁寧にPOPを仕上げていく。
色彩豊かに、工夫を凝らしたPOP。
品物について事細かに――詳細に記した。
「完璧です」
会心の出来。
自身の一作。ポーションのPOPを掲げる。
これはお店の一番目立つところに置こう。
そんな風に思っていると、起床したヨイチが顔を覗かせる。
「お早うございます。店長」
「お早うございます。ヨイチさま」
朝の挨拶を交わし終えると、
「朝早くから物音がすると思ったら、POP作りに精を出していたという訳ですか」
「まあ、そんなところです」
いつもは冷たい反応しかしてくれないヨイチも、この努力には脱帽だろう。
セルシアは期待していた。
別に褒めてもらいたいわけではない。断じて違う。
ピョンとカールした寝癖を手で押さえつけながら、
「これじゃダメです」と辛辣なひと言。
私の貴重な時間――努力が無駄だったというのか。
セルシアは深いため息と共に肩を落とした。
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