赤字覚悟の大特価!? 数字の罠(端数効果)②
「何をされているんですか?」
私は、ヨイチさんに尋ねます。
もしかしたら私にも手伝えることがあるかもしれません。
「値段を書き変えているんですよ」
一応この店の店主は私なのに。
店主の私に一言の相談もなく売り物の値段を変更するだなんて。
「勝手に変更されては困ります」
新たに書かれた値札を見てみれば、以前の値段よりも安くなっていた。
「勝手な値下げは認められませんよ。それに、たとえ品物が売れたとしても、利益が出ないと意味がありません」
「だから、そのための値下げですよ。たった硬貨数枚の値下げで売り上げが跳ね上がるんだったら文句はないでしょう?」
「数枚?」
私は改めて値札に目をやります。
98枚、198枚、298枚、398枚、……
どれもこれも然して値引きされていません。
「こんなちょっとの値下げ、意味ないのでは?」
すると、チッチッチッと人差し指を左右に振り、
「それが効果あるんだなぁ」
と物知り顔で語る。
「これは大型ディスカウントショップなんかがよく使う手法です。ド○キなんかが有名ですね」
私は聞き慣れない言葉の数々に頭を捻ります。
そんな私を見て、
「ド○キじゃ伝わらないですよね。安さの殿堂と謳われる人気店があるんですよ」
「安さの殿堂……凄そうですね」
「まあ、確かに凄い売上ですね」
安さを売りにしていると言う事は、他の店とは比べ物にならない程の低価格を実現しているのだろう。
品物を仕入れる秘密のルートでも構築しているのか。
はたまた、人件費などの別要素からの値引きに成功しているのか。
しかし、《ジャンク・ブティコ》に削減できる人件費など皆無である。
何しろ私とヨイチさんの二人しかいないのだから。
二人……二人だけ――二人のお店……
「どうしました店長?」
「えっ、何でもないですよ!?」
「そ、そうですか?」
かなり怪しまれている。
急いで話を軌道修正。
「それで、そのド○キと今回の値下げ、何の関係があるんですか?」
「ああ、そうでしたね。話が途中のままでした。今回の値下げは「端数効果」を利用しています。量販店がよく使う手法です。あっ、別に悪い事じゃないと思いますよ。実際に値下げはしている訳ですから。
でも、つい、いつもより多く買ってしまう。僕もド○キに何度もしてやられましたから」
笑いながらヨイチさんは言う。
そのド○キなる店での買い物を思い出したのか、今考えると無駄な買い物だったな、と後悔の念を滲ませている。
それにしてもこんなことで売り上げアップは見込めるのだろうか?
経済学って意外とちまちましている。
そんなセルシアの想いとは裏腹に、この値下げは絶大な効果を上げることとなる。
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