赤字覚悟の大特価!? 数字の罠(端数効果)①
最近、近所でも評判になっているお店――《ジャンク・ブティコ》。
俗に言うなんでも屋だ。
若い女店主と男従業員の二人でお店を回している。
二人とも人当たりがよく、気さくに話ができる。
私のようなオバサン相手にも若い娘と変わらず対応してくれる。
そんなわけで、ウチの近所のママさん連中はあの店の常連だ。
とは言え、昔からある老舗と比べると客足は劣る。
品揃えは良いし、価格も申し分ない。やはりお店の信用問題なのだろうか。
新参者の《ジャンク・ブティコ》は他店と同じ土俵に立っていては勝負は出来ないだろう。
そうは言っても、私ら普通の主婦じゃ、利益に貢献するだけの大きな買い物はできない。
だから日用品は《ジャンク・ブティコ》で買うことにしよう。
自分にできることはその程度だ。
私は今日も《ジャンク・ブティコ》へと出かける。
…………
……
…
「今日はやけに人が多いねぇ」
お世辞にも繁盛しているとは言えない《ジャンク・ブティコ》。
こんなにも人が押し寄せているのを見るのは初めてかもしれない。
「あっ、カーラさん! コレどうぞ」
若かりし頃の旦那と瓜二つ――こんなこと言っちゃ、お兄さんに悪いかな。
まあ、若さって言うのは眩しいもので、ほんの少し話をするだけで元気を分けてもらえる気がする。
まるで太陽みたいな存在なのだ。
彼が配っていたのはチラシだった。
赤字覚悟の大特価! の文字が躍るチラシに目をやる。
銅貨88枚
銅貨98枚
銀貨58枚
銀貨78枚……
キリの悪い値段が書かれている。
しかしそれは極限まで値引きした結果なのだろう。
ここまで安くしてくれているのだ。
買ってやらなくてはなるまい。
それは他の客たちも同じなのだろう。
大量の品物が棚から姿を消していく。
先を越されまいと商品棚に手を伸ばす。
指先に触れたモノを片っ端から手に取る。
安物に群れる主婦は、草食獣に群がる肉食獣の如く獰猛だ。
服を引っ張られるのなんか日常茶飯事。
ヒートアップしてくると髪まで引っ張ってくる。
更には肘や蹴りまで飛んでくる。
普段は、オホホなんて笑いながら井戸端会議している人間とは思えない、鋭い攻撃を繰り出してくる。
必要な品物を確保しつつ目についた品物を確保。
人波を縫ってお会計へと向かう。
「お兄さん。コレ、お会計お願い」
「ご贔屓いただいてありがとうございます。カーラさんたちに支えられて僕たちは今日も開店できているわけですから。感謝しないとですね」
丁寧なお辞儀と共に謝辞が述べられる。
そして提示された金額に首を傾げる。
(あれ? 思ったより高くない?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます