異世界初のクーリングオフ導入(保有効果)①
王都にある《ジャンク・ブティコ》というお店が、ここ最近冒険者たちの間で噂になっている。
他の店とは一線を画するサービスを提供しているのだと言う。
従来の売買は一方通行。
相手を信頼して商品を買う。
それゆえ、王都にある商人ギルド加盟店とそうでない商店との差は大きい。
信頼が違う。
多少、品物の値が張ったとしてもギルド加盟店で買った方が問題は少ない。
これがこの世界の常識だ。
そんな常識を打ち破る。
商売の風雲児――革命家、とでもいうべき存在が現れた。
それが《ジャンク・ブティコ》――なんでも屋である。
このお店は、信念が全く感じられない。
多種多様な商品を置いている。
以前に比べればサッパリしたが、それでも品数が多いという印象は変わらない。
だったら何が変わったのか。
それを確かめに、商人ギルド円卓議会議員でもある私――アリス・ルロワは最近頭角を現し出した《ジャンク・ブティコ》に赴いていた。
店内には男と女が一人ずつ。
調べによれば女が主人で、男が雇われの身らしい。
それにしては男の態度がデカい。そして女は終始聞き手に回っている。
何はともあれ入店だ。
カランと鈴の音が鳴る。
鈴の音に呼応するように「いらっしゃいませ」と声が飛んでくる。
「ようこそ《ジャンク・ブティコ》へ。ごゆっくりご覧ください」
女店主が柔らかな笑みを浮かべて出迎える。
男の方はいつの間にか姿を消していた。
私は取り敢えず店内を見て回る。
品揃えは良し。
品質も良し。
価格も良い。
しかし、そんなことは出来ていて当然なのだ。
商いとは妥協することの許されない――いわば剣を持たない戦いなのだ。
お客様が何を求めているのか。また、どれだけ良い品を提供できるか。それでいてどれだけ利益を生みだせるのか。
お客様、そして自分自身との戦いなのである。
ここ最近、私たちの商人ギルド加盟店のお客が流れている。かく言う私の経営している店のお客も含まれている。
その流れている先が、ここ《ジャンク・ブティコ》なのだ。
この店には何か秘密があるはずなのだ。
商人ギルド加盟店は、最安値で買い付けをしている。
商人ギルドに加盟するという事は、それだけの信頼を得ているということ。
ギルドに加盟している店はそれぞれが一流の店である。多くのリピーターがいる。
そんな店からお客を引っ張るというのは容易く出来る事ではない。
「……くっ」
全く分からない。
なぜこの店がギルド加盟店からお客を引っ張ることが出来るのか……謎だ。
ここはプライドを捨ててでも探りを入れてみるべきだろう。
商人が証場の仕組みに探りを入れるなど、自らの無知をさらけ出しているよなものだ。
今、この瞬間――一時の屈辱に耐え、後に多くの利益を得る。そのために恥を忍んで尋ねてみよう。
「どうかなさいましたか? お客様」
「――うわっ!?」
思わず声を上げてしまった。
考え事に気を取られ、店主の接近に気づくことが出来なかった。
「すみません、お客様」
驚かせてしまったことに対して店主の女性は頭を下げる。
その時なびいた髪の合間から尖った耳が覗いた。
「店主さんはエルフなんですね。あ、でも王都に居るという事はハーフエルフかしら?」
エルフ族は森の奥深くに住み、滅多に人の街には下りてこない。
この店主は人との間に生まれたハーフエルフなのだろう。
私の考えを肯定するように、
「ええ、私はハーフエルフです。耳と保持している魔力以外は、人間となんら変わりはないんですけどね。やっぱり気になりますか?」
そう言い、耳の先端を弄ぶ。
もしかしたらコンプレックスなのかもしれない。
そう思い、フォローを入れる。
「そんなことないわ。王都には他にもハーフエルフの娘はいるし。でも、その容姿には目を引かれるわね」
「あら、ありがとうござます」
少し照れたように俯き、頬をほのかに赤く染める。
フォローは完璧だったようだ。容姿を褒められて嫌な気はしない。女性は美しく見られたいものだ。
私はさり気なく探りを入れる。
「実は何を買おうか悩んでしまって。どれも良い品なので素人の私には区別がつかなくて」
これは事実。
品数を減らしたとはいっても、他店と比べれば品揃えは多い。
「そうですか……」
どうしたものかと思案する店主は、
「でしたら取り敢えず買ってみてはいかがでしょうか」
何の解決策にもなっていない。
思いが表情に出てしまっていたのか、店主は大丈夫ですと前置きをして、
「クーリングオフ制度がありますので」と言った。
「くーりんぐおふ?」
私は聞き慣れない言葉に首を傾げた。
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