新人冒険者と多すぎる選択肢(選択回避の法則)②

 冒険者ギルドの着くと、早速ポーションを買いに受付へと向かった。

 受付でほしいものを注文すると持ってきてくれる。もちろん在庫があればだが。


 ギルドは基本的に安物のポーションを大量に仕入れる。

 商人ギルドとの体面もあるのだろう。

 高価な商品を冒険者ギルドは扱わない。


 商品のラインナップはそれぞれの道具で、多くても二、三種類。

 手持ちのお金で、最も安いポーションが二十本ほどは買えるだろうか?

 それだけあれば、最低限の準備は出来たと言って差し支えないだろう。


 そう思っていた……


 目の前に広がる光景は異質だった。

 なんだこれ?


 受付けの横にこしらえられたスペースには大きな看板(?)があり、様々なポーションを始めとする薬品が精密な描写で描かれていた。


 それにしても数が多い。

 品数だけなら専門店にも引けを取らない。

 だが、それ故に悩む。

 一体どれを選べばいいのかと。


 拵えられたスペース――カウンターと呼べばいいのだろうか。

 そこにはいつもギルドに出入りしている商人のお嬢さんと、見たことの無い男がいた。

 見ず知らずの男を避け、一応は顔見知りの方へと向かう。


「こんにちは」


「いらっしゃいませ! あら、こんにちはロイクさん」


 屈託のない笑顔で出迎えてくれる。


「これ、どうしたんですか?」


 俺は看板を指さす。


「これはメニュー表です。おすすめの商品を描いています。その他のメニューはこちらに」


 そう言ってカウンター下から、メニューを取り出す。


 メニューを受け取るとなおも驚かされた。

 本当に看板に描かれているのはメニューの一部のようだ。

 小さな文字で、頁の上から下までビッシリと商品の名前や説明が書かれてある。


 こんなにあったら本当に何を買えばいいのか分からない。

 かといって何も買わないわけにはいかない。


 目を上へ下へと動かし、必死で文字を追っていると、


「……冒険者セット?」


 他の商品よりも大きな文字で、なおかつ小さな絵も付けられている。

 見開きを使って、『冒険者セット』なる商品が紹介されていた。


「この『冒険者セット』と言うのは?」


「そちらは、冒険者の方々に必要なポーション、薬品を一通り揃えた、詰め合わせ商品となります」


「詰め合わせですか……」


「お一つずつ購入されるよりも、一個あたりの価格も安くなっていますよ」


 その言葉の真偽を確かめるべく、メニューの単品項目に目をやる。

 一つずつ詰め合わせに入っている商品と照らし合わせる。すると確かに一つあたりの価格が安くなっていることが分かる。


「でもなんで」


「それは勿論、冒険者の方々のためですよ」


 笑顔で答える彼女に、反射的に「コレください」と答えていた。


「ご一緒に干し肉ははいかがですか?」


「それじゃあ、干し肉も一緒に」


 これも反射的に答えてしまっていた。


 彼女の隣で作業している男が、ニタリとしてやったり顔をした気がしたが、思い過ごしかもしれない。


「「ありがとうございました」」


 重なる声が俺を見送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る