新人冒険者と多すぎる選択肢(選択回避の法則)①

「金がない……」


 財布を引っ繰り返して、掌に硬貨を落とす。

 剣に防具、食料と、冒険に必要なモノを揃えていると、瞬く間に資金は底をついた。

 冒険者になる第一患難は装備品を揃えることだ。


 冒険者になる人間は、誰もが腕に覚えのある者たちばかりだ。

 だが、所詮は人間。魔物や魔獣には生身では敵わない。

 だからこそ武器や防具と言った装備品は欠かせない。妥協するわけにはいかないのだ。

 そして食料も不可欠だ――冒険に出なくても腹は減る。


 そして最後に手を付けるのが、ポーションや毒消しなどの薬類となる。

 その結果、安物しか購入できなかったり、数量が確保できなかったりする。


 そのまま冒険に出ると、依頼の半ばでポーションが尽きてしまい、街に引き返す羽目になる。引き返せればまだいい方だ。

 下手をすれば命を落とす。


 それなのに……


 ポーションを買う金がない。

 何故だ? 資金は充分足りる額あったはずなのに。


 答えは明白。

 足下を見られているのだ。

 一流の冒険者は貢献度という点で評価――信頼を得ている。


 市民は魔物の脅威から護ってもらっているので、冒険者に何かと便宜を図る。

「一流の」が付く冒険者に限った話だ。

 反対に新米の冒険者や全く依頼をこなさない――ごく潰しには厳しい。


 毎年多くの冒険者が誕生する。

 その中で、一年後に活動しているのは半分。翌年には、さらに半分。

 とても厳しい世界なのだ。


 そんな冒険者――それも半人前に品物を安く卸すなどと言う先行投資はしない――してくれない。


 商人たちも自分の生活がある。

 だが、あまりにも法外な値段をつけすぎじゃないか?

 何故市民よりも高い金額で買わなくてはならないんだ。


『冒険者は望んで死地に行くが、市民は自分を――家族を守るために戦うんだ。どちらに使ってもらうかと聞かれれば、俺は迷わず市民に使ってもらう。冒険者は二の次だ。戦う力があるからな』


 これは武器屋のオヤジの言葉だ。


 それは勿論、市民も武器を求めていいだろう。

 だからと言って何故冒険者にそのしわ寄せがくるんだ。納得がいかない。


 そんなこんなで、諸々の装備、用具資金は予定よりも早く無くなった。


「俺がもっとクラスの高い冒険者だったら……」


 首に下げられたギルド証を握る。

 ギルド証は鉱物を加工して作られる。その材質が、その冒険者のランクをそのまま示す。


 俺の手に握られたギルド証はカッパーである。

 ギルドに加盟して最初に貰う――新米冒険者の証だ。


 それでも冒険者であることに変わりない。

 微々たるものだが、冒険者ギルドでは冒険者向けに多少の値引きをしてポーションなどを売っている。


 それでも金額的には足りないだろう。だが、冒険者ギルドは商人たちとは違って冒険者に寄り添った、冒険者第一の対応をしてくれる。


 藁にもすがる思いで、俺は冒険者ギルドへと向かった。

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