第38話develop
圧倒的な戦力差と迫り来る絶望
(ここで……)
死ぬかもしれない。けれども大鳥沈姫は何も高杉灯影に伝えてはいないのだ。
「ここで死んでたまるかッ!」
母禮の慟哭に対し、とうとう高杉の顔から情の面は消え失せる。
「……まだ分からねーか。だったら死んじまいな、最後の希望。あの世で杏子に会ったらよろしく言ってくれ」
振りかざされる槍は母禮に対し、死を与えようとする。
母禮もここは戦場だというのに思わず目を瞑ってしまったその瞬間に、声と金属の鳴り響く音がこの部屋に響いた。
「それはアンタが自分で伝えろ。最後の希望は捨てさせはしない」
「お前……ッ、どこから……!?」
「正面からだ。生憎俺は影が薄いんでな、気づかれる事がまずない。ようやくたどり着いたぞ、高杉灯影。ここからは俺とアンタの一騎打ちだ。」
どうして?と心中で母禮は呟いた。
あの人は、斎藤所以は自分を免罪符と呼んだ。自分を殺せる唯一の人間だと言った。
確かに失ってしまっては彼にとって重大な問題だろう。だが自分が見た最後の斎藤所以の姿は樹戸に蹴りを食らい、無様に蹲った姿だと言うのに彼はまだそれでも譲れないのか。
「お前が沈姫に蔓延った邪魔な虫か」
「蔓延るも何も俺はあの人を守りきる義務がある。それを果たさずしてなんと言う?」
「お前も沈姫も守って欲しいと言われたクチか?」
「いいや。俺が自分で決めて自分で守ると決めた道だ。アンタと同じようにな」
と言うと、鍔競り合いの様子から、思い切り力で押し切っては、高杉をそのまま後方へと吹き飛ばす。
(どうして?)
罪に苛まれるが故に手を握り締めた仮初めの強さなど塵に等しい。けれども逆の強さ――人の為と守り抜く強さが何故負けたのか?
(まさか、斎藤さんは――……)
そう、罪人である彼はようやくその罪を抱える自身から脱したのだ。そしてその元罪人は語る。
「俺は樹戸に言われたさ。断罪を求め女に縋る男と、たった1人の女の笑顔見たさに戦う男、どちらが強い覚悟を持っているか……もし、沈姫を脅威から守るのを選べと言われたらアンタを選ぶってな。……だから俺はもう止めた。女1人に罪を押し付けて縛る事を。」
「この……ッ、」
光線が浮かび上がり、そのまま斎藤を射抜こうとするが、斎藤はそれを回避してはまた斬りかかっては金属音がぶつかり合う。
「高杉、俺はようやくアンタに追いついたぞ。今の俺は自分の罪に押しつぶされる俺じゃない。惚れた女の笑顔を絶やさないように、今こうして刃を握っている。……国の行く末などもはやどうでもいい。知った事じゃない。だが、残してきたあいつらならきっとこの国を守れる。俺はそう確信してるんだよッ!」
第2撃目は高杉の横腹を斬り、とうとう互いに逃げられない状況下となった。だが、高杉は1度引き下がり、詠唱を唱える。
「我に最期の幕引きを!」
すると、ガタガタと東京スカイツリーは揺れ、一気に崩れ落ちる。
「京都から汲み出した霊脈全ての効力を使っての攻撃だ。今からここは完全に消え失せ、俺様のみが生き残る。この傾国の女を象徴になァッ!譲れるかよ、絶対に俺様には譲れないモノがある。ここで退けるかッ!」
怒声と共に大きな杭が魔方陣から数多に降り注いだ上で足場はガラガラと砂糖菓子のように崩れてゆく。その杭の1つが斎藤の足を射抜く。
「斎藤さんッ!」
離れて落下していく斎藤に母禮は手を伸ばすが、後1歩の所で届かないままその身体は堕ちてゆく。
「斎藤さん――ッ!」
そして迫る絶望
雨の様に降り注ぐ光の杭は母禮にも降り注がれ、咄嗟に残った磁石板をポッケから取り出し、磁石板を投げる道の照準を合わせては、赤い魔法陣に囲まれた空へと放とうとする。
(これでこの杭と術式本体である魔方陣を穿てば、最悪相打ちに出来る!)
「やっぱ親子なだけあって似てるな」
声が聞こえた
前に会った時に言われた時に言われた事がフラッシュバックでもしたのだろうか?
キン、と磁石板を宙に放った瞬間にようやく気づいた。
紫電が走るその中で、光の杭と胸を射抜かれ紫電に焼かれそうになった高杉の姿。
「あ……」
『俺様は惹かれたのよ。あの人の直向きさに、その葛藤に立ち向かう勇気に。けど、結婚をしてるのを知ってて思いを告げたら、あの人は苦笑しながらこう言った……この後の日本と私の娘を頼む、って』
ついに、この人を殺そうとしてしまった。
『だが、次会うときは無論敵同士。俺様のやり方が気に食わないなら、剣を向けるも良し。逆に賛同するなら新撰組を脱退しても構わねー。』
あの、無邪気な笑顔に。忘れられぬ歳に似合わない、柔らかい少年の様な笑みに。
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