第37話Numerical inferiority
「はぁ…ッ、はぁッ……」
場所は東京スカイツリー前。ガトリングガンを持った土方は身体中血塗れでも尚立っていた。
「お前がかの新選組の土方か。分かっているんだろう?そっちの残存兵力では我々に勝てないと。しかし、知っていながらもお前らは俺達に挑んできた。その勇敢さは認めるが、あまりにも愚劣すぎるぞ。」
「……るせーな……俺は新選組の代理とは言えリーダーだ。いつも怯えて後ろで指揮してる訳じゃねェんだ。ここだからこそ俺は身を呈してでも戦う。」
その言葉が可笑しかったのか下卑た笑い声が飛び交う。
「何だそりゃ!?全く、カッコいいね……」
と言いかけた瞬間だった。
「アンタらには分からないだろうな、この意味が。邪魔だ、どけ。」
「え?」
暗く澱んだ声がその場に響いてはぐらりと相手は身体の自由を失う。しかし土方自身の読み通り、この場に現れたのは斎藤だった。
「……ったく、遅せぇんだよ。斎藤。」
「それは悪い事をした。残りの隊士も到着した。お下がりください。」
「……じゃあそうさせてもらうぜ。それとよ、斎藤。」
「なんでしょう?」
「大鳥は随分と前に向こうに向かった。テメェもさっさと行け。」
その言葉に頷く事もせずに斎藤は土方を一瞥しそのまま走り出す。
「……ったく。オイ!いいかテメェら!ここからが俺達の真価だ!やってやろうじゃねぇか!」
斎藤が連れた応援部隊に呼びかけるも、土方自身は立つことさえままならない。恐らく自分はここで死ぬ――それでもと土方は思う。
(最期ぐらいやってやらぁ……)
血に塗れる戦場の中を見やっては、自身の身体が崩れてゆく。
「ここは俺達の勝ちなんだよ、高杉。」
「それは、この場を生き残ってから言え、阿呆。」
「テメェ……アマンテス?そっちはどうなって……!」
「間違っても彼らは魔術師、謂わば俺の子供同然だ。今は暫く森の中で仲良く寝ているさ。」
「……その割には、結構苦労したらしいな。」
「まぁな、手加減はしたつもりだが無傷とはいかなかったらしい。」
白いシャツの所々は裂け、血が滲み、腹部にも打撃を受けたような跡が見受けられた。それでも彼はここに立っており満身創痍の土方の背を叩き、詠唱を短く唱える。
「何してんだ?テメェ」
「回復魔術だ。貴様はここで死ぬと勝手に人生の予定表に書いていたそうだが、いいのか?高杉を殴る前に死んでも。それと今の俺の相棒は誰だったかね。」
「ハッ……よく言うぜ。俺はいい。さっさと大鳥んとこに行け。樹戸の言葉が本当なら、斎藤と大鳥だけじゃ手が足りねぇ」
「分かったよ」
スッ、と何事もないと言わんばかりに、地面を踏んでそのまま階段を昇るかの様にアマンテスは決戦の場所へ向かう。
「黒豆の煮豆が食べたい。帰ったら、母禮にでも作ってもらおうか。美味いんだぞ?それまで死ぬなよ、阿呆。」
互いに睨み合う母禮と高杉。
相手がどう動くか、その様子を破ったのは高杉の方だった。閃光がこちらを目掛け走る。
「ッ!」
母禮はギリギリの所で避けるが、避けたその先で真横から蹴りが出てきてはガンッ、と頭を打つと同時にそのまま飛ばされる。
「本当は俺様はお前の母親の遺言通りお前を守らなければならない。戦う事は避けられないと思ってはいたが、できるだけ傷つけたくねーんだ。だから今からでも諦めろ。」
「諦められるか……」
「諦めな」
ガガガッ、と衝撃波がこちらを目掛けて迫るのを無様にもゴロゴロと転がる事で回避するが、ガキィンッと刃が首元に迫る所をこれもまたギリギリで防ぐ。
「ぐッ……!」
「なぁ、お前は俺様の何が気に食わなかった?俺様のやり方か?それとも何だ?この意思が邪魔とでも言うのか?」
「やり方、に決まっているでしょ……!」
瞬間、身を捩っては蹴りを入れ姿勢を崩そうとするが、タンッ、と軽く飛び距離を置かれては優位である事を見せつけられる。
「それで詳しくは何が気に入らなかった?」
「全てだ!」
そのまま、ガキィンッと傾国の女を振りかざすが、高杉は至って余裕である。
「1人で戦って、もし勝ったとして私の母さんが笑うとでも言うの!?今まで過ごしてきた仲間を見捨ててまで、そんな事をしても貴方は納得できるの!?誰もいないこんな世界で!」
「黙れよ」
ガンッ、とガ・ホーの柄を床へと叩きつけては魔法陣が描かれ、全てが焼き尽くされるような感覚に襲われる。現に焼かれる様な痛みに、あまりの苦しさに声を漏らす。
「がァアアああああああああああああああ!」
一方母禮の悲鳴を余所に、高杉は低い声で呟く。
「もう何も要らねー。仲間も力も何もかも。ようやく俺様が創りだす国に誰1人として有無は言わせねー。だからもう諦めろ。俺様はお前を傷つけたくは――……」
瞬間、ブンッと思い切り肩を傾国の女の柄で殴打されて高杉がバランスを崩した時、そのまま母禮はと柄と刃を持ち変えて剣を振り下ろそうとするが、高杉はそれよりも早く横腹を斬りつける。
「づッ……」
「母禮ッ!」
半壊した扉を開いたアマンテスが母禮の名を呼べば、「あ?」と不機嫌そうに高杉はアマンテスの方へと視線を向けた。
(あれは……!)
高杉の手に握られた黄金の槍と母禮の傷を見ると、アマンテスは素早く詠唱を唱える。
「見下ろせよし神の子よ、ここに裁きを下せ!」
ドゴォッと高杉を目掛け雷が降り下ろされるが、そこに高杉はおらず、アマンテスの背後に潜んではそのまま右腕を斬り落とす。
「づッ……!」
「アマンテス!」
「気を付けろ、母禮!その槍で斬り裂かれれば、2度と傷口が塞がる事はない!近接戦で戦えなどしない!分かったら逃げろ!」
「へぇ、流石生粋の魔術師で『生命の樹』の魔術師100人を1人で相手しても生き残れる野郎だ。こんな短時間でよく分かったもんだな。」
「……ある日バチカンから小さい槍だけ消えたと聞き、サーチしても見つからなかったのは、その傾国の女の中に隠し持っていたからだとはな……。」
アマンテスの言う通り、右腕が斬られた傷口からは大量の出血が出ており、警告を残してはそのままショック症状で気を失ってしまったのを見て、高杉は笑う。
「さてどうするよ、大鳥沈姫。魔術サイドでの希望は潰えたぜ?それに下もようやく静かになったしな。恐らく俺様達の勝ちだ。それでもまだ戦うか?その出血の止まらない傷を抱えてよ。」
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