第36話impact
少女と青年は決戦の場へと向けて走り出す。春を過ぎた風が頬を撫でる中で、母禮は問う。
何故指揮役である土方がここにいるのか?これで本当に勝ち目はあるのか?ヘルメット越しに「土方さん」と呟く。
「何故こんな所に……新選組の方はいいのか?」
何せ、母禮の前に現れてから土方は「乗れ」と言っては強引にヘルメットを押し付けてきたのだ。確かにこれでは真意は読めない。するといつもと変わらぬ声で「いいんだよ」とぶっきらぼうに呟き返す。
「新選組の方は予め指示は出しておいた。だがテメェそれを無視をした挙句、無謀に1人で挑もうとしやがって馬鹿が。」
「否定しきれないな……」
苦笑する声音に「それとな」と土方は付け加える。
「俺もアイツの面が見たくなってよ。幾らどんな理由があろうと俺に仕事押し付けるならまだしも新撰組を見捨てやがって。だからぶん殴りにいくんだよ。1番ぶん殴りたかっただろう花村は片腕しかねぇし、身体中の電流も上手く操作できないっつーなら、誰がアイツを殴るってんだ。」
「土方さん……」
「それと上を見てみな」
「上?」
言われるままに上へと視線を移せば、そこには空を翔けるアマンテスの姿があった。
「魔術師はアイツに全部押し付けちまうが、あのガキだったらできるだろ。数じゃこっちが劣勢だろうが、俺も命を賭けてやる。今までアイツらが命を賭けた分な」
「なら、大丈夫だな。」
これ以上に心強いものはない、と母禮は思う。
遊佐は自分の居場所を守るために
花村は昔の友に誓った約束の為に
土方は親友と国を救う為に
立場は違えど、あくまでこの3人は高杉を救う為だけにプライドを賭けている。無論母禮も同じくだ。だからこそ伝えに行く。
(待ってろ)
北千住まであと少し バイクのスピードは速度が上がる中で、ちらほらと人影が見える。
「まさか……もう『生命の樹』がすぐそこに!?」
「だったら、ちゃんと捕まってろ。」
「?」
土方の言う言葉が理解できぬままに捕まっていれば、バイクはそのまま人混みの中を突っ込んでいく。
当然威嚇である事は誰でも分かる。だが、人を越えたその先に銃撃隊が姿を現し、拳銃を向けていた。が土方は背中からガシャンッと何かを取り出す。
「な、なんだそれは!」
「アメリカで最新式のガトリングガンをライフル近くのサイズに縮めたヤツだ。いいか?俺が撃ったら、アマンテスの奴がお前を上に上げる合図だ。ここは俺が囮になってやる。」
母禮の返事もないままにガルルルッと撃ち始めると同時にアマンテスが母禮の手を取って、そのまま母禮の身体は宙へ飛ばされる。
「土方さん!」
その声に応えるように、こちらを見ては微笑んでいる。彼もまた託したのだ。母禮に自身の全てを。宙を急いで飛行する中で2キロ程飛行した所で矢がこちらへと迫る。
「どうやら俺の案内はここまでだ」
とアマンテスは一言だけ言うと、輪ゴムを弾くかの様に母禮の身体を弾かせる。
「アマンテス!死ぬなよ!」
「ふん」
母禮の安全性を優先した為、先程放たれた梓弓をモロに喰らうが、それでも杖を構えては宣戦布告をする。欧州一の魔術師として。ここにいる子供らへと向けて
「かかってこい、俺の子供達。相手なら俺1人で十分だ。」
「これを使うといい」
ここに向かう前にひそかに樹戸から渡されたメダルと磁石板を手にする。アマンテスが上手く弾いてくれたおかげで、今母禮の身体は落下をしている中でメダルを飛ばし、紫電が走ればグンッと一気に母禮の身体が更に上へと放たれ、横を見れば丁度最上階近く。
持っていた傾国の女を思い切り窓へと振りかざし、ガラスの割れる中、なんとかスカイツリーの中へと入り込む事ができた。無論、この為に樹戸の脳借り、演算した訳だが。辺りを見回し、部屋の外へ出ては高杉のいる部屋へと走り出す。
一方で、この爆音に気づいた高杉は窓から後ろへと振り返る。
「ようやく来たか」
恐らくここへ乗り込んできたのはたった1人――大鳥母禮である事は分かっていた。
「成程な、樹戸さんの力も借りてここまで来たってか。」
高杉は知っていた。彼女は単身で自分に挑んでくるだろうと。その瞬間、部屋のドアが開く。
「よう、よく来たなお嬢さん……否、大鳥沈姫。この俺様の前に立つ意味は分かってるよな?」
対する母禮は迷う事のない瞳で答える
「当然だ。私はここに立っている理由は――」
「貴方を救う為だ!高杉灯影!覚悟しろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます