第31話moment Ⅰ
一方、新選組の本拠地の近くで母禮は突然消えた花村とアマンテスを探しに飛び出ていた。
先程聞こえた大爆発からして近くなのは確かだと路上へと出た瞬間だった。そこには倒れた遊佐の姿とサイボーグとしての姿を見せる花村に樹戸が対峙していた。
「遊佐さん!花村さん!」
必死に叫ぶもその声は届かない。例え聞こえていたとしても、彼らには聞こえない。取り残されたままの母禮はそのままその光景を見ている事しかできなかった。
花村は思い出す。遠いある夏の日の事を。
数年前。暑い中、冷房の効かない部屋を抜け出し、マンションのロビーで比企に頼んで作ってもらったかき氷を高杉と花村は「あちー……」と呟いては団扇で仰ぐ。
「こんな時、某猫型ロボットだったら何か得してそうじゃねぇ?」
「そりゃ違ぇねー……」
「なぁ、高杉。」
「ん?」
シャクシャクとかき氷をかき混ぜている最中に高杉は声を掛けられ、目線を向けず相変わらずかき氷に夢中なまま返事する。
「そういやお前さ、惚れた女の為に新選組の頭やってんだよな?」
「あー……まぁ、間違っちゃいねーよ。それがどーした?」
「ん?クサイ上にカッコイーとか思ってよ」
「なんだよそれ?馬鹿にしてんのか?」
ムッと顔を顰める様子に花村は笑っては「冗談だっての」と笑い飛ばすが、高杉は声のトーンを低くしては呟く。
「けどよ、やっぱそう簡単にいかねーよ。疲れるし、めげそうになる事もある。」
「お前でもめげる事なんてあんのかよ?しっかしいいねぇ、そんな守れる大事な何かがあって。」
「お前にはないのか?」
「生憎だがそんなモンはねぇ」
「ふーん……まぁできたら教えろよ?ヒーロー志望さんよ」
(守るモンなんてもう記憶の彼方に飛んじまったけどな)
親友であった男の信念を守る為、大事だった過去を風化させまいと決めて自身をサイボーグとまでして守りたかったモノ。フッ、と軽く笑っては、そのままコネクトに張った電流を迸らせる。
「かかってこいよ、お前さんのその能力全て打ち返してやるから。」
「戯言を!」
電流が樹戸の元に降りかかる前に、ピッ、と取り出されたスマートフォンが操作され、花村はドクンッと心臓に痛みを覚える。
カシャン、ピーッ、カチカチ……と色んな箇所から不吉な音が響くも花村は笑ったまま樹戸へと宣言する。
「俺の勝ちだ、クソったれ。」
「何?」
と短く呟いた瞬間にドスッと何かが樹戸の胸を貫く。胸へと視線を移せば、そこには花村の張ったコネクトが樹戸の身体を貫通しており、ゴポッと血反吐を吐き出しては地に伏せては笑う。
「はは……、まさか体温調節や脳の電気信号さえ改造してあるとはね……。これだとこれは通用しない。」
樹戸の使う生命装置のトリックはこうだ。
1度、人の体温を分子レベルで一気に血液を逆流させ、脳にショックをあたえると同時に体温をマイナスまで温度を下げる事によって対象は死を迎える。
逆に生き返させる方法として脳で電子信号を送る事によって、脳内の熱量を引き上げ、視覚を使い促進させる事で、脳と視覚をリンクさせる事で完成させる事――これが全てのトリックだ。ちなみに未だ仮死状態となっている場合も視覚を使えば十分生き返させる事は可能なのだ。
「これをまさか空中に撒き散らす事によって特定の人物を殺すたぁ相当な技術だぜ」
すると、樹戸は痛みに苛まれながらも薄く笑っては告げる。
「ああ、本当にね……。勝負は君の勝ちだ。さぁ、早く止めをさしたまえ」
「それはお断りだな」
「何?」
すると貫通したコネクトを展開させ、身体の内部で血管が破れているならば樹脂でできたゴムでカバーするなど応急処置を施す。
「俺は結局甘いんだよな。何にせよ、お前もアイツの側で国に喧嘩を売ろうとした大馬鹿野郎だ。アイツがお前を救わないなら俺が救ってやる。まぁせいぜい今度は国家転覆とかじゃなく、人の為にその知恵を慄えよ、天才。」
「……君は灯影がヒーローであろうように言っていたが、君自身十分その資格はあるんじゃないのかな?」
「さぁな。おい、母禮。コイツの応急処置も頼むわ。コイツがある以上、相似の様子は俺にでも戻せそうだからな。先に行っておけ。」
ようやくここで母禮の存在に気づいたのか、そう吐き捨てる様にいうと母禮は「だが!」とつっかかるように答える。
「まだアマンテスが見つかってないのだ!」
「あのガキなら大丈夫だろ」
「え?」
「相手してるガキももうとっくにやられてるし、もし生きていたとしても欧州一の魔術結社とやらのボスの実力はそんなにも安いモンなのか?」
「いや……それは……」
「だったら信じろ。絶対に戻ってくるってな」
クシャッと頭を撫で、微笑む様子に母禮も笑っては
「ああ、信じるよ。」
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