第30話male and female


 ドゴォッ、という極大の紫電が花村の身に降りかかった瞬間、体内のギアを上昇させ、全身のバネ動かし反射させたが、1歩届かずに右肩が吹き飛び、激痛に苛まれる。

「づァアアあああああああああああああああああああああああああ!!」

「さて、君も流石に限界かな?」

「お前……今何を……ッ!」

「天候とこの空間を結合させただけだ。簡単に言えば粒子型高速光線砲の応用で、電極をベースにして磁力を滞空に存在する素粒子と掛け合わせた。一言で言えば単純だが、紫電1つ落とす為の条件や電圧、磁力の分量と消耗を全て計算しなければ、ここまでの大技は完成しない。」

「野郎……ッ」


 ガシャコンッ、と音が響き花村は右手に義手を再生し天界させては樹戸へと標準を合わせ、高速で矢を放つ。


 しかしそれもキンッと軽い音と同時に念動力の応用で生成されたフィールドに当たれば、ただの煙となって消え失せる。

「成程、空気砲か。よく考えたものだね。ただ先程の攻撃は躱され左腕1本しか持っていけなかったのは残念だ。いい加減、君にも諦めて欲しいのだが。」

「こんな所で、絶対ぇ俺は負けを認めねぇ……俺はこんな所で足踏みしてるような男じゃねぇんだよッ!」

「止めておきたまえ、いくら身体の一部を改造してあるからといって先程の落雷の出力の設定は10億ボルト。死なないのは立派だが、暫くまともに動けやしないだろうに」

「へっ、言ってくれるぜ……。」


 立つのが精一杯な花村はそれでも立ち上がる。

「お前は高杉灯影と長い付き合いみたいだな……だがよ、俺らはアイツが新撰組を立ち上げた時の仲なモンでさ、言っちまえば親友だよ。あの頃は毎日楽しくて仕方なかった……だが、アイツがなんで新撰組を抜けたかお前さんは知っているか?」


 花村は知っていた。あの高杉灯影が失踪した真の理由を。

 親友として、戦友として悩み続け、葛藤に苛まれる高杉の本当の思いを。

「アイツは1人の女の笑顔を守る為だけにこのふざけた国にたった1人で喧嘩売ったんだよ。一から全て始めて、ここまで登り詰めてきたアイツの苦労はそう安いモンじゃねぇ。」

「……ほう?」

「だからだ、だから俺らの誰か1人がアイツの苦労を分かってやらねぇで、何が親友だって呼べんだよ!俺の守りたいモンはたった1つだ!俺がサイボーグになったのもたった1つの理由だ!ダチを救うつもりなら俺はいくらでもやってやる!例え敵同士となってもそれだけは変わらねぇんだ!お前には分からねぇだろうが、アイツは今でも悩んでいる。だったら俺が命を懸けてでも止めてやる。お前の今のやり方は間違ってるってな。」


 語られる花村の心中。そう、何より彼が人間としての形を失ったのは高杉と同じく、たった1人の誰かの笑顔を守る為だけだったのだ。

「英雄気質が狂気になった仇ならあの時力になれなかった俺らを恨んでもいい、それでも絶対に俺はアイツが帰ってくるのを待ってるさ。これが俺のッ、花村密が決めた全ての真実だッ!」


 自らを奮い立たせるかのように花村は叫ぶ。かつての友の辛さを背負えなかった罪をここで贖うと花村は決めていた。


 人間としていくら強くても限度がある。だったら人間を超えればいい。それだけの為に、友を救う強さの為だけに花村は元の身体――否、人間としての全てさえ捨てたのだ。


 だからこそ譲れない。遊佐や今いる隊員だけではなく、今はいない友の為にも。

「それは結構な事だ。だが、今の君に勝算はあるとでも?」

「あるに決まってんだろ。」

ガシャコンッ、と再び義手を動かし、2本程生み出しては呟く。

「俺だって馬鹿じゃねぇんだ。いくら幾百、幾千、幾億の演算をこなす脳を持ってる奴相手でも負ける気はしねぇよ。足元、よく見てみな。」

「何?」


 そう言われ、足元を見ればそこにはバラバラになり焼け焦げた花村の右腕があり、まさかと樹戸は悟った。

「今の俺でもこの腕を使えば量子変速の代わりぐらいは使えるんだぜ?」


 バチッ、と不吉な音が立てては千切た腕は爆発し、そのまま花村は走り出す。

「いくらお前が科学を極めようと――」


 義手の1つを思い切り振りかざし

「人間である以上、負ける気がしねぇんだよッ!」


 バキッ、と音を立てては2人共相応のダメージを負う。

 花村が殴りかかった時、樹戸も咄嗟に防御の為に膜を張ったが為に義手の1つは粉々となるが、樹戸もあまりの威力にノーバウンドで吹き飛ばされた。

「――ちィッ!」

「……ッ、まさかここまでやられるだなんてね。いいだろう、全て終わりにしようか。」

(いよいよ、来るか)


勘が告げる 次こそ生命装置を使うと

正直このまま戦っていても埒が明かないのは事実だ。ならばここは互いに必殺を以て勝負を決めるしか道はないのだが、一瞬樹戸は頭を抱える。

「ぐ……ッ」

「何だ……?」


 あまりにも激しい頭痛なのか、そのまま体勢を崩す。

「……ッ、キャパシティがもう持たない……か……」

「キャパシティだと?」


 フラッ、と揺れながらも何とか立ち上がると一気に青くなった顔のまま答える。

「君は確か最初に影踏君とは戦えないと言ったね?確かに彼は魔術師だ。君のその身体を以てしても勝つ事はまず不可能……だが、彼は超能力者としての能力も秘めているが如何せん不完全だ。その為に外部からスプリクトを取っているとしたら、誰からその情報と演算能力の補助を受けるんだろうね……?」

「まさか……」


 思わず息を呑む。もしこれが真実であれば、目の前に立つこの樹戸榊という男は正真正銘の化物となる。すると、どこか自嘲気味に笑っては口を開く。

「言っただろう?私は昔とある実験の被検体だったと言う事を。その時にとっくに脳は弄られているし、だからこそ複雑な演算も自前で出来るんだ。故に私は彼の足りない演算能力を私の思考を植え付けて補わせるという最終目標を達する事に成功した……無茶苦茶だろう?だがそうでもしなければこの世の中は壊せない。」


 隠された樹戸の真実。花村自身も狂人とも言えるかもしれないが、その花村の目の前に立つ男は更にもう1歩その先へと踏み出しているのだ。激しい頭痛に樹戸は苛まれながらも、気力1つだけで花村を見据える。

「恐らく彼の脳はもう限界だろう。だが、そうだとしても成すべき意味がある。君が灯影の意思を守り抜く為に戦うならば、私も同じようなものだ。彼こそがこの世の命運を決めるのならば喜んでトップの座を譲ろう……全てはこの腐った世の中への復讐だ。」

「だったら、互いに出し惜しみはナシにしようぜ。俺も俺で奥の手を見せてやるからよ。」


 と言っては、義手からコネクトを伸ばし、それを周囲に張り巡らせれば、花村を中心とする一帯は電流とそれによるショートによって、所々煙が上がる。

「最後の仕事だ。」


 一方樹戸もそれを見て、脳内での演算を始めると同時に白衣のポケットに仕込んだスマートフォンを起動させる。


 瞬時だった。科学と科学とのぶつかり合いはこの辺り全てを破壊失くす。


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