第29話equivocalness


 ドゴォッ、と突如響く轟音にアマンテスは一瞬だけそれに目をやる。すると目の前にいる高杉影踏はアマンテスへと言葉を投げかけた。

「そこまで仲間が心配?」

「ふん、別に仲間ではないがな。しかし、向こうにいるのが本当に多数であるならば幾分か苦戦しそうだ。だから、5分で片付けてやろう。」

「上等だよ。科学と魔術の混合っていうのを見せてやる。」


 互いに啖呵を切りあった瞬間だった。その瞬間、グワンッとその場の景色が変わる様子にアマンテスは心中で舌打ちをする。


 そこには青空が広がり、なんともない光景だが、アマンテスは確信する。相手の打った手立てを。

(先手を打った上に出してきた魔術は幻覚か。しかし次の仕掛けはあるはず。だが、時間がない、後――)


 後方に控えられた本命の攻撃が発動するまで後、6秒。

「ちっ!」


 これは北欧神話に登場する5感を司る神によったもので、恐らく影踏はここから本格的に動き出す。そう読んだ上で詠唱を唱える。

「A_K_E」


 詠唱を唱え、成功したのか仮初の光景はバキンッと音を立てて崩れるが、そのまま鍍金を剥がされた光源の球体は光線を放つ。

「ふん」


 意とも介さずそのまま杖を振り、光線の軌道を捻じ曲げては、コツコツと影踏の元へと歩を進めれば数多のナイフが影踏へと襲いかかる。

「ッ!?」


 防ごうとするが断然アマンテスの方が速く、瞬時に盾の魔法陣を描くが、やはり完全な回避などとは行かず、所々にナイフは突き刺さる。

「どうしたよ、軍神。このまま俺の攻撃を受け続けるつもりか?」

「まさか」


 ニタ、と小さく笑っては、瞬間アマンテスの首元、頭部、腹部を狙い光線が走ると同時に辺りが炎上する。

(ムスペルヘイムと粒子型高速光線砲だと!?)

「ニュンヘー!」


 回避として高速詠唱を唱え、妖精を使役し森を形成させるが、不完全な物で半分は粒子型高速光線砲で消し飛ばされてしまう中で相変わらず、影踏は笑う。

「生粋の魔術師なのにこんな基礎的な事も分からないのか?」

「何だと?」


 ピクッ、とアマンテスが反応する中で変わらず影踏は呟く。

「軍神テュールはかの凶獣フェンリルを討伐する際に片腕を食われた。つまりお前が俺にナイフを浴びせた時点で俺は自分自身の血液を失う事によってようやく軍神としての能力を慄える……つまりここからが軍神の本領だ。」

「抜かせ!」


 顕現させた森の中から蔓を影踏へと向けるが、血を盾にされた上で、地面から鎖がアマンテスを掴もうとするだけでなく、回避しては空気を掠ったと同時に衝撃波が襲ってくる。

「しまっ――」


 回避を誤り、衝撃波を食らってはノーバウンドで吹き飛ばされ、更には鎖でギリギリと身体を縛られれてしまう。しかも、それはどんどん力がかかり、ついには右腕がバキッと軋んだ。

「ぐァアアアあああああああああああああ!」


 叫び声を他所に影踏は腕時計にチラリ、と目をやるが、戦いを開始して丁度3分が経過していた。そして掴みかかるようにアマンテスへと言葉を投げかけた。

「今、戦い始めて丁度3分だ。お前は5分で終わらせると言ったが、惨めな物だ。どう?これが科学と魔術の本領だ。結局は、世界で指折りの魔術師だろうと、空想に空想をぶつけようと現実と非現実の曖昧なバランスこそが丁度いい。日本で言う太極が1番いい例と言っても構わない。さて……どう潰すか。」

「ッ……!」


(死ぬのか?)

 心中でアマンテスは呟く

(このまま何も守れぬまま、欧州に残してきた民の元に帰る事なく俺は死ぬのか?)


 それだけは絶対に望まない。


 そもそも『生命の樹』にもイギリスやフランス出身の魔術師が所属しているのだ。今は敵同士と言え、全て終わった後で彼らを残して死ぬのはどうしても嫌だった。だからこそ考える この曖昧なバランスの弱点を。


(必ず答えはあるはずだ)

 と思った瞬間に、ある事を思い出した。そう、あの時南條の言っていた演算方法についてだ。


 複雑すぎる故に人間1人の脳では賄えないという絶対的な弱点と同時に血液を代償として魔術も扱っている。無論魔術の発動とて楽ではない。時と場合に応じて発動しなければ何の意味もないからだ。だとしたら、その脳味噌は果たしてどこから持ってきているというのか?


 それと先程見えた紫電。

 花村程の実力を持った者にただの武力兵団や魔術師が派遣されるだろうか?それだけはないはずだ。花村は自身の身体自らの手でサイボーグとして変えているとすれば、誰より人体や科学に特化しているとも言えよう。


 だけではなくにサイボーグだからこそ生身と戦えば、よほどの事がない限り負ける事もないだろう。


 では、相手は恐らく科学に特化した人間のはず。アマンテスはこれに賭けた。


 もし賭けに負けたら自身の負け。しかし、もし思惑通りであれば勝つ可能性は十分にあるが時間はない。故にゴホッと咳き込んでは挑むように話を振る。

「曖昧さが丁度いいと言ったな?」

「……」

「だとしたら貴様の曖昧さはどこにあるんだろうな?」

「何が言いたい?」


 更に鎖に強く身体を縛られ、身体は軋むがアマンテスは笑ったままだ。

「先程気になっていたんだが、貴様は粒子型高速光線砲と衝撃波を使っていたが、もしかしてマスターは他にあるのか?……例えば、そうだな。外部のスプリクトなどな。」

「……だから何だ?」

「簡単な話だ。貴様の兄は本物の傾国の女を持っているそうだな。だが、あれはただの象徴であるが故にその力は異端そのものだ、国を動かすだけの作動効果と計算能力、そして掴んだ霊脈などの制御も可能だ。だが、それを1つで行う事はまず不可能。貴様が傾国の女の計算能力を借りているのだとしたら、今頃京都では広範囲の霊脈の霊気が抑えきれずに漏れ出し始める。それが確認されれば、勿論魔術師である貴様らは今ここにはいない。」

「……」

「そして、だ。傾国の女が霊脈の制御として作動している以上、計算能力はゼロに等しくなる。だとしたらお前は、科学側の何かを外部から取り入れなければ、能力は使えんだろうなぁ?」

「それがどうした?」

「……時にその腕時計。普通の腕時計と設計が違っているように見えるが?」

「――ッ」

「やはりそいつか」


 読みは当たった 残るは答え合わせのみ。解答は、あまりにも悲惨な物だった。

「黙れ」


 粒子型高速光線砲を撃つつもりか、照準を合わせているが、どうも粒子の大きさからして、撃つのではなく、そのまま直接投げつけてくるのだろう。その瞬間だった。


「が?」


「が、ガガガ……wprw/return がァアアあああああああああああああああああああああ!!」

「な、何だ……?」


 突然の発狂と崩壊。そう、曖昧さを肯定し訴えた少年はこれが仇となり、今若くしてその命を終える。



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