第28話Two people who were full of science


 混乱と全てを賭けた戦いが始まった中で、東京スカイツリーのある一室で高杉灯影は呟く。

「あーあーあー……畜生、あの塵芥が。勝手に向こうにちょっかい出してんじゃねーよ。まぁ、こちらも完全とは言わないが、戦争の準備ならとうに出来てたしな。そう変わらねーか。ただ」


 カタン、と鈍色の十字架を持っては自身の自室へと向かう。最高とも言えよう決戦場へ。

「大鳥沈姫だけには手を出すなよ?俺様の唯一守るべき存在にだけは」


 樹戸榊は考える 


 今対峙している男は自らを『オリジナル』と称した。一体その意味は何なのか?ふとそう考えていれば、対峙する花村が「なぁ」と声をかけてくる。

「結局、生命装置って何なんだ?俺はそいつを拝みにここまで来たんだ。早く見せてくれよ。」

「……という事は、君はそこで倒れている自身の仲間さえ見捨てると結論づけて構わないのかな?」

「さぁな。でも噂が本当だとすれば、そいつぁ人を生き還らす事も可能なんだろ?どちらにしろ、コイツは死なねぇよ。」


 ハッタリ、か。と心で呟く。だが反面、あまりにもおかしいとも思う。

 何故、新選組の隊長各であろう人間が部下を連れずにのこのこと自身の前に現れ、生命装置を知りたいと聞くのか。これはもう戦争だ。


 予定より早まってしまったが、ここで引いたらこちらも次こそないだろう。何せ、科学、魔術、武力の内、戦争実戦経験者100人分の価値がある根城は既にこの手で葬っている。


 その1つが消えた以上、科学部門でトップとして指揮している自分も戦前にでなければならないのだが。


 だがこれでやられる程、樹戸も完全な喧嘩知らずのインテリという訳ではない。人の命を扱う以上、人体の構造を調べる為に幾つもの死体を積み上げてきた。


 故にある意味知恵と戦闘能力がある分、根城より厄介な相手な事には変わりはないのだ。そんな自分を目にして怯えないという事に関しては褒めてやりたいが、そういう訳にもいかない。

(ここで相手の口車に乗せられるのも癪。なんならいっそ生命装置を使う事なく、排除させる事としようか)


 懐から取り出した小瓶をバッ、と宙へ放り投げると、中に入っていた粉末が宙を舞う。

「ッ!?」

「わざわざ生命装置を使う必要もない」


 と樹戸が呟いた瞬間、大爆発が起こっては、視覚阻害を防ぐ為に身を守る花村は爆風の中で呟く

「量子変速……!?」

「似てはいるがね。だが、私の場合は量子分解というのが正解かな。何せアルミニウムの成分1つをあますことなく分解しているのだから。」


 続いて、風船が割れるかのようにパパァンッと音が響いては、花村の皮膚に火の粉が付着し発火し始める。

「ッ!」

「おやまぁ、大変なご様子で。」


 爆風の中から、ヒュンッと足が飛び出てきては、そのまま後方へと吹き飛ばされた。ムクリ、と身体を起こしては花村は1つの仮説を立ててみる。


南條の言っていた通り、相手は能力使用において多大な演算能力を使用する事となる。それをただ1人の人間の脳で補う事は普通ではありえないし、できるはずもない。だとしたらこの男も高杉影踏と同じく外部からのスプリクトで補っているのかという考えに基づいた。


 そう、今の蹴りさえもそうだ。足は身体に一切触れていないというのに、190近くもある大男を倒したのだ。だとしたら、普通の格闘術であるはずはない。花村の憶測はこうだ。

「今、お前身体に膜を張ったな?空気と摩擦を相殺させて、相手にぶつけた上で念動力でふっ飛ばすとは……全く、怖いねぇ。」

「それを一発食らっただけで理解する君も十分頭が切れる……いや、科学に長けているのか。」

「まぁな。ただよ、お前。どこで演算している?」


 その何気ない問いかけに珍しく一瞬目を見開いてはくすり、と笑う。

「無論自分の脳でだよ。少しだけ外部からのスプリクトをしているがね、ほぼ9割8分は自前だ。私は元々とある研究の被検体だったのだが、研究者として独り立ちする頃に丁度趣向を変えたんだ。まぁ、こういう事を起こすのにも何百、何千、何億の演算が必要となるからね、少し神経を活性化させるブツを使っているだけだ。」

「まさか神経促成剤、か……!?」


 花村が言う神経促成剤とは、人間が神経を伝い脳に情報を送るスピードを早める薬剤であり、どちらかというと薬という安全に保証された物ではなく、ドラッグに近い。

(伊達にコイツも研究者だけでなく、戦闘要員ってな訳かよ)


 そう言う中でも、粉塵が宙を舞う中で蹴りや拳打は止まない。無論、モロに食らったら腕は折れる程の破壊力には設定してあるだろう。


 瞬間、粉塵の中から光が見え避けるよりも速く、それは花村の身体を射抜く。

「ここで、粒子型高速光線砲かよ。マジでお前人間を辞めてんな。」


 しかし花村は笑う。この絶対的不利な状況に関わらずも、だ。そして粉塵が止んだ頃に樹戸は花村の身体を見ては目を見開く。

「君……その身体は……サイボーグか」


 捲れた皮の下にある幾つもの線と接合金属。火傷を負った皮膚からはゴムが溶けたような匂いが鼻を燻る。

「まさかオリジナルとはそういう事だったか」

「まぁな。騙すつもりはなかったんだが、俺じゃ高杉の弟の相手はできねぇ。だったら、科学を極めた者同士仲良くしようじゃねぇか。」

「それもまたいい事だ。研究者同士が親交を持つという事はこの世の発展に繋がる……だが、遊んでいる暇はないんだ。」

「何?」

「この生命装置はそう易々と出す訳にはいかなくてね。直々に拝みに来て貰ったのに申し訳ないが、私の全力の演算能力を以て終わりにさせてもらう。」


 ピンッ、とカメラ等に内蔵されている薄型のコイン状の物体を3つ程宙に弾いては一言だけ呟く。

「/Delete」


 弾かれた金属が、3メートルに浮遊した瞬間、電撃がショートしたかの様に、紫電が花村へと降り注いだ。


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