第20話line of sight


 母禮が誘拐されてから数時間後。斎藤は急いで新選組本部へと戻り、計画を練っていた土方の元に急いで母禮の事を報告する。

「大鳥が誘拐されただと!?」


 同じくこの時同席していた、比企とアマンテスも思わず目を見開く。

「そいつは一体何者だ?」

「『生命の樹』の構成員である高杉影踏だそうだ。流石の俺でも対処は何1つも……」


 俯き、悔しさから歯を食いしばる斎藤に対し比企が「そんな……」と声を漏らす中で、土方は考える。

(剣術でも射術でも優れた斎藤を撒いたって事ぁ、またしても常套な手段じゃねぇ……。それに何だ?何故あの大鳥が狙われる?こちらに対しての交渉材料にしちゃ、はっきり言って安いモンだ。なら……)

「相手は魔術師なのか?」


 アマンテスの質問に対し、斎藤は首を横に振ると同時に、玄関先からおちゃらけた陽気な声がこの場に響いた。

「粒子型高速光線砲。確かそんなモノを相手は使っていたらしいね。」


 ヒョロヒョロとした体格で黒淵の眼鏡をかけた男が勝手に土方の部屋に上がってくると、土方は思わず目を細める。そう、この男が噂の南条筑紫である。

「南條、テメェ何でそれが……。つかどこから話を聞いていた?」

「なんかバタバタしてたみたいだったからね。勝手に土方さんの部屋に仕掛けた盗聴器で話を聞いたのさ。」

「テメェ勝手に……! って、まぁいい。んで他に仕入れた情報はあんのか?」

「うん。後手に回ってお通夜みたいな状況から始まるかと思ったけど、案外幸先明るいみたいよ?『生命の樹』の構成員の情報を全て手に入れた。あ、勿論僕の作ったプロテクトサイバーからさ。……で、まぁその内容なんだけど。正式構成員は高杉灯影を含めてたった4人。こいつらを先に落とせば僕らの勝ちも同然だね。」

「……で?高杉以外の構成員は誰だ?」

「えっと……ってちょっと待った。あの高杉灯影の事と大鳥母禮の事は関係しているんだ。」

「何だと?」

「高杉灯影は傾国の女という魔術でも使われる特殊な魔剣を持っている。けれども、その傾国の女は贋作も含め、2刀存在する。高杉灯影が持つ物は本物で、大鳥チャンが持つ物は贋作だ。これも、京都での事件と関連性が高いと見ていい。」

「……って事は幸先よくねぇじゃねぇか!バカ野郎!!」

「だから、忘れた?奴らはまだ動かないって。それじゃあ勝手に構成員の洗い流しを続けるよ」

「……ああ」


 項垂れた様子で土方が合図しては、南條はカタカタとパソコンを操作する。

「まず、その弟の高杉影踏について。彼自体かなり過激としか聞かないけれど、今回の事を鑑みると、どうやら魔術と科学両方に関しての知識を持っているらしい。だから所以クンの攻撃が効かなかったのもその所為さ。続いて2人目。かの生命装置を開発した天才・樹戸榊。こいつも科学に関しては一流のスペシャリスト。どうやら、こいつが科学専門の核になっているらしい。非戦闘員かと甘く見ちゃならないんだけどね。何せ、かの生命装置を唯一動かせる人間なんだから。」

「……」

「そして、最後。『生命の樹』でたった1人の女剣客、根城桜。昔どこかで流派を収めたっていうデータはないけど、京都の事件は全てこいつが引き起こしたと言ってもいい。」

「……という事は、相当の手練って訳か。科学、魔術、武力……。全ての部門のスペシャリストを迎えた上で、リーダーはアイツか。南條、データ収集ご苦労だった。」

「けど土方さん。科学と魔術だなんて対処はどうするつもり?こっちにできるのは近接戦だけなんだから。」

「スペシャリストなら、こっちにもいるじゃねぇか。」


 比企の問いかけに関して、土方は口角を上げる。

「魔術ではアマンテス、科学だったら花村。特に花村なんて自分自身でテメェの身体弄ってるから、相当なモンだと思うぜ?」

「あ」


 短く声を漏らしては、思い出す。本当に花村であればこの謎は解けるだろうと。



 暫く時は過ぎて夜。東京の街は今夜もイルミネーションに包まれながら人の心を燻る。その中心地となる東京スカイツリーに母禮はいた。

「まぁ、そんなに怪訝にしないでくれ。」


 あれから母禮は支離滅裂な相手の態度に腹を立てていた。一応、向こうは人質ではなく客として招いた為と言うが、あまりにも方法がおかしい。


 しかし『生命の樹』側からしてはこういった方法は常套手段なのか、今は樹戸と影踏と共にディナーを取っていた。

「私達も確かに目的があるし、成し遂げなければならない事もある。そこら辺は君ら大鳥一族とも変わりはないと思うんだがね。」

「だが我々は国を一掃するべきではないと判断している。」

「ほう?確かに君のお義兄さんは大鳥本家に対しての復讐の為に、私の研究していた生命装置の資料を持っていたのだがね。君は違うという事か。」

「……」

「それと、その傷を負った事に関しても謝罪しよう。できれば無傷といきたかったが、何せあの斎藤所以を相手にするのは我々にとっても脅威だ。そして、ここからが本題なのだが。」


 確かに母禮は無傷ではないが、動けない程の怪我を負った訳ではなく、一時的に動かない程度で威力は下げてあるそうだ。本題と区切っては、樹戸は告げる。

「灯影……高杉灯影と話してみる気はあるかな?」

「話してもいいのか?あくまでも敵同士だぞ?」

「構わないだろうさ。それにこの願いは灯影自身から願い出されたものでね。よかったら、話し相手になってくれると、こちらも嬉しい。」


 カタ、とフォークを置き立ち上がる樹戸と目線が合うと同時にまた母禮も言葉を紡ぐ。


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