第19話silhouette


 そう苦笑する遊佐に対し、母禮は質問を投げかけた。

「あの人、とは?」

「ウチの情報課でありながら、国際指名手配犯。南條都筑。自身で完成させたプロテクトサイバーという特殊な回線を生み出した天才でね。あの人の愛称から取って他所からの傍受を阻止するナンシーシステムって呼ばれてる。多分この世で起きた事件の情報なんて常に掴んでるんじゃないかな?ネトゲやソシャゲばっかせずに仕事をちゃんとしてれば」

「……凄い人なのか、それともダメ人間なのか……」

「多分後者だと思う。けれど今頃は土方さんから指示が行ったんじゃないかな?」

「だろうな。だとしたら決戦は……」

「早くて、後3日。妥当な所じゃ5日後がヤマだと思う。」

「待て、遊佐さん!その怪我をたった5日で治る訳がないだろう!」


 すると、ビシッと母禮の額に遊佐のデコピンが当たり、思わず額を抑える。

「誰に対して物言ってんの?僕は新選組の第1部隊の隊長だよ?怪我なんてただのハンデ。今まで負けた事なんてないし、そこにいる所以さんと同じぐらい……いや、それ以上かな?それだけ強いんだからさ。」

「遊佐さん……」


 などと呟いていれば、コンコンとノックが鳴り、「面会時間終了ですよ」と言われれば、母禮は遊佐に手を振りながら言った。

「では、またな。遊佐さん」

「うん、じゃあね。」


 バタン、とドアが閉まると同時に斎藤はどこか影を落としたままな状態が続いた母禮に「大丈夫か?」と声をかける。

「うん、多分平気。少しでも私達にも救いがあるんだって思ったら落ち着いた。」

「そうか……」

「そういえば」


 病院の廊下を出てから、入口に向かう中で1つ疑問に思う事があった。というよりも出来てしまった。

「新選組では確か、第1部隊から第3部隊までが相当な実力だと聞いたけれど、斎藤さんは結局遊佐さんより強いの?」

「どうだろうな。だが経験では恐らく俺が1番多いだろう。遊佐は確かに天才だが、俺よりも歳が上でもあるせいで、新選組一の剣腕だと噂される。巷の噂によれば、昔は剣道道場で免許皆伝を取ったとかなんだとか……。」

「え?遊佐さんって斎藤さんより歳が上なの?」

「ああ。俺が18で遊佐は確か22のはずだ。」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」

「……煩い」


 キーンとする耳を抑える斎藤を他所に母禮は酸欠状態の金魚のように口をぱくぱくとさせる。

「斎藤さんて、私より2歳上だったんだ……」

「アンタの想像ではどれくらいだと思った?」

「25くらい」

「………………………………………………………………………まぁいい」


 長い沈黙の後に不機嫌そうな声に苦笑しては、話は先程の内容に戻る。

「『生命の樹』との全面戦争……か」

「嫌か?」

「少し、ね。何せ新選組も『生命の樹』も根底的な思想は一緒ではあるし、それに今日の話であの高杉灯影が本当に元新選組のリーダーであるならば争う必要なんかどこにもないのに、って。」

「争う必要ならば、存分にあるから安心して欲しい。」

「!」


 突如聞こえた声を辿り、今通り過ぎた病院の入り口に視線を移す。

 そこには有名私立高の制服を着た少年が立っていた。歳は恐らく斎藤や母禮と同じだろうが、纏っている雰囲気が違う。

「……誰だ?」

「『生命の樹』所属、高杉灯影の実弟。高杉影踏。少し、そこの女性に用があるんだ。」

「用だと?」

「大鳥母禮」

「何だ?」


 名を呼ばれ、返事をすれば少年は少し首を傾げこちらを見た後に言葉を続ける。

「例の傾国の女はどうした?今は所持していないみたいだが。まさか新選組で1、2を争う剣客が傍にいるから不要だと思ったのか?」

「答える義理などない」


 母禮の代わりに斎藤が答えれば、斎藤を一瞥しては呆れた様に呟く。

「……ああ、そう。」

瞬間、ドガァッと2人が立っていたすぐ横の地面を抉る。

「アンタ、一体何をした?」

「簡単な手品の一種でね。挨拶代わりに後、2発はどうぞ」


 と同時に浮かび上がった2つの光線が斎藤の首と脇腹を掠める。

「――ッ!」

「斎藤さん!」


 斎藤に手を伸ばした瞬間に今度は母禮をめがけて、幾つもの光線が降り注ぐ。

「避けろ!沈姫ッ!」


 それは一瞬だった。母禮が動くよりも速く幾つもの光線がそのまま、母禮の肩と足を射抜く。

「なッ……?」

「沈姫ッ!」


 斎藤は叫ぶも、同時に懐にある拳銃を抜くが、射程距離から遠く離れている。しかしそれでも撃ち方によれば距離の誤魔化しが効く。高杉が1歩こちらへ踏み出した瞬間に引き金を引く。


 パァンッ、という乾いた音と共に、聞こえたのは薬莢がコロコロと落ちた音だった。

「残念。俺は科学にも特化しているからな、伊達にそう破られるような手段は選ばない。」


 斎藤は思わず目を疑った。確実に隙だらけである瞬間を狙ったのに、何故両手を使う事無く攻撃を避けている?

「アンタは一体何を……」


 拳銃の引き金は確かに引いたし、頭を正確に撃ち抜いたはずが、何故弾かれたのか?

「粒子型高速光線砲、と言っても理解できないか。じゃあ、さようなら。次会う時はきっと決戦の日だ。」

「待て……」


 そして高杉は1歩のみで斎藤の横に並び、倒れた母禮を抱え、もう1歩足を進めた瞬間には、既に20メートルは離れている。


 あまりにもこの短い間に度重なる驚きばかりが斎藤の動きを止めてしまった。斎藤が後ろを振り向いた瞬間には既に遅い。


『だからアンタが貴女が俺の心を殺すというのなら喜んで死のう。』

(待て……)

『貴女が俺の免罪符になるというのなら、喜んで受け入れよう。』

(待ってくれ)

『俺は貴女を守り抜いて死ぬ。』

「沈姫ィイイイいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

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