第17話Duties communication


 その日、朝から悲劇しか起こっていなかった。

「どういう事だね?まさかここまで……」

「しかし我々警察は新選組に確実に襲撃命令を出しました。ですが、まさか既に後手に回されていたとは……」

「返す言葉もございません」


 午前10時47分。現在警察庁本部で、警察庁各部署と公安庁、そして『生命の樹』の処分を任されていた新選組のナンバー2である土方幹行、そして、日本に招かれたアマンテス=ディ=カリオストロは朝から苦渋を噛まされていた。


 今朝の速報で、東京だけでなく京都の二条城、金閣寺、比叡山延暦寺が襲撃された事もまたニュースとなり世間を騒がせている。無論それを行ったのは全て『生命の樹』であるのだが。

「まぁ、ご老体共。あまり新選組を責めるな。今まで緻密に作戦を考慮し作戦に至った末路は痛手だが、向こうの方が我々早かったとなれば、ここの全員に非があるのは明白。だったらこの先どうするか考えるのが先だろう。」

「ッ……」


 アマンテスを睨みつける各所の者共に対し、アマンテスは次々と話を続ける。

「このガキが何を偉そうに……と言いたげな顔だが、『地を這う蛇』に協力を依頼したというのなら当然の事だと考えろ。……で、土方。新選組の方の他の報告はどうなっている?」

「他にマークしていた慶應大医学部にも研究材料どころか装置、資料も全て破棄済み。そして関連されていたと睨んでいたビルも全て蛻の殻だったそうだ……と同時に、向こうに忍ばせておいた諜報員も全て死亡が確認されている。」

「ふむ。被害も最悪ということか……。そういえば第1部隊の隊長も怪我を負ったそうだな?」

「ああ。あんだけの爆発に巻き込まれりゃな……。」

「……で、この先どうするというのだ?」


 そういう警察庁に対し、アマンテスは呆れた顔で答える。

「奴らの本拠地を抑えるのが先決に決まっているだろうに」

「ではカリオストロ様はどうお考えか?」


 そう返す公安庁に、「いいぞ」という顔をする人間ばかりだったが、アマンテスはつまらなそうに……というより、欠伸をかきながら呟いた。

「地図を用意しろ。京都のな」

「は?」

「だから地図だよ。考えろ。何故奴らは本拠地を東京に構えていると匂わせながら、遠く離れた京都を攻撃したんだ?これは魔術師である俺だからこそ言える意見だが、これは魔術に関する可能性も考えられる。」

「馬鹿な事を……!」

「おいおい、土方さんや。日本の公安っていうのはカルト集団やそういうテロ組織から国を守る為の組織なんじゃないのか?」

(……それをここで俺に振るかよ)


 魔術の有無に関して戸惑う公安庁方に呆れた様にアマンテスは言い放つ。それこそ本当に無能な奴隷を見るようかの目で。


 その態度に対し、流石にいくら胆が据わっている土方でさえ、このアマンテスの言い様には驚くばかりだった。ピッ、とリモコンでモニターに京都の地図を映す。一応事件現場となった三ヶ所には赤い丸がついており、アマンテスはそれを見て「ふむ」と呟いては一言。

「もういい。ご苦労だった、土方。」

「これで事件が分かったとでも?」

「いや、奴らが何故こんな事をしたか分かっただけだよ。そう焦るな。当分奴らは動きやしない」

「は?」


 思わずその場にいた土方以外の全員は口を揃えて言葉を漏らすが、どうやらアマンテスと土方の読みは同じらしい中で、アマンテスは土方に対し、「土方、説明。」と促す。


 ちなみに正直ここまできていうのも難だが、自身よりも歳が軽く10歳以上も下であり、ここまで礼儀のなってない様子に土方は腹を立てているが、それをお偉いさんの前で出すわけにもいかず、渋々説明をする。

「カリオストロの言う、今回の事件が如何様によって行われたかの詳細は分かりませんが、恐らくこれは国家への威嚇かと。もう奴らはこの国1つ消し飛ばすことができるという意思表示です。結果、今も早朝から皆々方で集まり、ニュースでもこの悲惨な状況が流れている以上、奴らはまたこちらの出方を伺うでしょう。」

「遅くて1ヶ月だろうな、奴らが大人しく待っているのは。それを過ぎたら今回は国会でも吹き飛ばされるだろう。しかも議会が行なわれている最中という出血大サービスでな。……で、何で京都がこうなったのか説明するとだな。奴らはこの日本の霊脈を全て抑えている。」

「霊脈……だと?」

「大掛かりな魔術を行使するに中って、霊脈というのは大事なキモとなる。恐らく、奴らは科学だけでなく、魔術も行使しようとしている事になる。しかも詳細までは読み取れないが、ちゃんと場所も指定してあるじゃないか。さて、土方。俺は昨日も言った通り科学には無知だ。何か大掛かりな魔術の行使と並行して科学で大掛かりな事をする動きはあったはずだと思うが?」


大掛かり、そして処分されていた資料が裏付ける『生命の樹』の最大兵器と言えばアレしかない。

「あの生命装置か……!」

「それはどういった条件で発動される?」

「それに関しては分からない。何せそれを掴んでいた大鳥啓介は既に粛清したしな。だが、大方の仕組みとしては人間の動きのオンオフ――つまり、自動的に生かすも殺すも自由にできるっていうモンらしい。」

「という事はだ、ご老体共。奴らはこの大掛かりな術式と生命装置で日本を一掃させる気だろうだぞ?さてどうする?」

「どうするも何もそうと決まったのなら、後は新選組の方に任せよう。我々も今後以上に連携してサポートはする。」

「結論は出たな。それでは頼むぞ、土方。」

「はい、了解しました。」

「では我々も忙しい。ここでお暇させてもらうぞ。」

「はい、お疲れ様です。御足労お掛け致しました。」



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