第15話annunciate


 大鳥沈姫は斎藤所以の救世主である。この事実に変わりはなかった。ただ、その幸せがいつまで続くか――…

「分からないだろ?」


 同時刻。東京のとある所に構えた『生命の樹』の本社で高杉灯影はワイングラスを揺らしては呟く。

「理不尽な事に時間っていうモンは平等だ。そんな中で幸せも不幸も刻まれる。大方人間っていうのは負の感情に敏感だから、例え人生が99%幸せで出来ていても、残り1%の不幸があれば、それは不幸が多く取れた人生であると錯覚するモンだ。なァ、そう思わねーか?影踏」

「感情論を気取った詭弁には興味はないよ、兄さん。」


 高杉の独り言がオフィスで響く中、突然許可もなく入ってきた高杉灯影の実弟である高杉影踏はその感情論を気取った詭弁とやらを、くだらないと吐き捨てる。


 それに少し気を悪くした灯影はワインを飲み干しては「で?」と尋

ねる。

「そろそろ完成するのか?」

「もう少し、と言った所だな。樹戸さんの生命装置も完全に完成したそうだし、後は狼が上手くやってくれれば下準備は全て終了。それと小耳に挟んだ話なんだけど。」

「何だ?」

「あの大鳥啓介が新選組の手によって粛清されたとさ。生命装置の事を話したかどうかは知らないが、恐らく今は平和ボケでもしてると思う。」

「やはり俺様の読んだ通りだな」

「……流石にそれは本物らしい訳、か。」

「まぁな。片割れは大鳥の妹が所持してるっていう話だったが、まさかアイツも新選組に身を置いてんのか?」

「恐らくね。大鳥啓介の件で分かった事だけど、『大鳥』の一族は年中動く事しか頭にないらしい」

「へぇ、流石ヒーロー様だ。」


 口笛を吹きながら、そう呟いてはワイングラスをテーブルに置く。

「だが、本物のヒーローってモンはもうちょっと違うはずだ。まぁ見てろよ阿呆共。本物のヒーローの腕前を見せてやるからよ」



 時刻は午後7時。9階のロビーで第1部隊から第3部隊まで招集された中で、話し合いは行われようとする中で、土方は早速本題へと入る。

「さて、今回集まってもらったのは他でもねぇ『生命の樹』についての話だ。俺らが今までひっ捕まえてきた泥棒だの犯罪者だのそんなモンは今はいい。大鳥敬禮こと大鳥啓介の粛清を終えた故にようやく上からお達しがきた。任務内容はそれぞれ第3部隊までが、奴らの完成させようとしている生命装置の回収及び破壊だ。」


 重く真剣な空気に全員が身を縛られる中、唯一指揮を担当する土方だけが淡々と話していく。

「知ってると思うが、新選組達も『生命の樹』も根底は一緒だが、手段が違う。今のろのろと役所や議会で働いている野郎共や国の改革の遅さに痺れを切らしてっから、だったら俺達がやってやろうと先陣を切るのはいいが、生命装置やその他にも危険なブツもあるかもしれねぇんだ。これは最も俺達が警戒しなきゃならねぇ事態だ。だから、片っ端から片付けるぞ。」


 と言っては、地図をそのままセットしてあったスクリーンへと映してはタンッ、と一箇所に指を立てる。

「ここだ」


 指しているのは四谷付近にある慶應大医学部であった。

「奴らはここで生命装置の実験を密かに行っていたという。開発者の樹戸榊もそこで教授を務めている。まずはここを制圧するぞ。そして、残りはここ3つだ。」


 そのまま慶應大学を中心に囲うかの様にそびえ立つ建物をマークする。

「ここは奴らの本拠地ではないが、関連されているとされる建物3つだ。これを第5から第8部隊に一隊一箇所配備して制圧。第2部隊はそこの責任を頼む。第3部隊は慶應大医学部に。第1部隊はここ……最終目的地である東京タワーを攻めるぞ。そこの責任としては俺と予備部隊を連れて行く。大まかな作戦は以上だ。各隊隊長はプランB-5を発動準備。作戦は明け方4時30分から。他の各隊隊長には俺から話を伝えておく。分かったな?」

「はい!!」

(もうここまで分かっているのか……)


 会議の後に部屋に戻った母禮は、シャワーを浴びては作戦に備えていた瞬間、突然聞こえた呼び出し音に思わずシャワーを止める。


 音からしてこれは備え付けの電話ではなく携帯の方だ。身体にタオルを巻き付け風呂場を後にして恐らく同僚でないと思い、着信履歴を見ればアマンテスであった。こんな時間に何であろうかと思い、ピッとボタンを押す。

「もしもし。どうしたのだ?こんな時間に」

「母禮か。すまんが、今から東京駅まで迎えに来てくれ。」

「は?」


 突然の申し出に呆気を取られていれば、「ふう……」と溜息が電話越しに聞こえる。

「折角貴様ら新選組の力になろうと思っていたのだがな。助け舟は不要か?」

「……事はそんなに深刻なのか?」

「疑問を疑問で返すな。まぁ、そうだな。日本としては最悪な事態を招く事になるだろう。続きが聞きたければ、途中で話す。」



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