第10話Suddenly
1歩、1歩歩んでいく。
時間は午後9時だと言うのに休日のせいか、流石の地下鉄も混んでいるのが分かるが、そんな事を考えていたら何もできやしない訳で、今日もひたすら歩く。とある願いを叶える為に。
「全ては俺自身の復讐の為にな」
鼻歌を歌うように呟いては闇の中を歩く。
その瞬間、人が 消えた。
午後9時 脱走した大鳥敬禮が出てくるとされる都営新宿線付近を歩いていれば、比企は「おかしい」と呟く。
「え?」
「今日は休日で、一応ここも東京では人通りの多い場所だ。だと言うのに、人どころか、タクシーすらないのはおかしいと思わないかい?」
「確かに、そうだな。」
小さく頷いた瞬間に、横にいる比企がスラリと剣を抜く。
「来るよ」
瞬間だった。バキバキ、ガシャァンッという物凄い音を立てては、地面から幾つもの鎖が地上に放たれる。
「緊急回避!相手からなるべく距離を取れ!」
比企の一言に隊員も、母禮も距離を取った中で暗闇の中で誰かがこちらへと向かってくる。
黒く、長い髪。
一見女と見間違えるような顔立ち。
そう、彼こそが。
「兄上……ッ!」
「おや?」
突如現れた彼ではあるが、彼――敬禮も母禮の姿に気がついたのか声を上げた。
「母禮、お前もいたのか。あれほど会津で待っていろと言ったはずなのにな。まさかこの俺を探す為に遥々ここまで来たという訳か。」
「心配などではないッ!」
母禮も傾国の女を抜くと、仮にも『大鳥』の当主であった兄へと問う。
「我々『大鳥』の矜持を主たる貴様が忘れたか!最初は国を守ると豪語しておきながら、仲間を裏切り、寝返っては幾人もの死者を出した!貴様が決めた矜持とはそこまで安い物なのか!?答えろ、敬禮!!」
「当主に向かって……貴様とは口を慎めッ!!」
1度放たれた鎖がまた地面を走り地上へと渦巻くが、ガキィンッと母禮はそれを振り払う。
「なッ……!」
「アマンテスは言っていたぞ」
先程、直々に聞いた話を母禮はそのままそっくりと返してやる。
「その鎖は北欧神話にてかの凶獣であるフェンリルを縛った鎖、ドローミである事。その縛った形となった魔法陣はたった1つしか存在しない事も。だから法則さえ読めてしまえば、何の問題もないのだ。」
「だから何だというのだッ!」
地面を走っていた鎖は今度は隊員達を捉えようとするが、それを比企と母禮が止める。
「こっちだって馬鹿じゃないんだ、大鳥。軌道さえ読めてしまえば後は自力が上の奴が勝つに決まってる。」
「クソッ!」
「終わりにさせてもらうよ」
ダッ、と比企が他の隊士と共に敬禮の懐へ入り込もうとした瞬間だった。まるで、死神が哂うかの様に口角を上げたのを母禮は見逃さなかった。
「下がれッ!」
瞬間、ガシャァンッという音と共にコンクリートさえ抉れる。母禮の声に反応できた比企と2人の隊士は回避できたが、1人はそのまま巨大な腕らしきものに押しつぶされていた。
「くそッ!土方さんが言っていたのはこの事か!」
それは背中から生えた巨大な腕であり、ここで母禮はある事が引っかかる。そう、これは大鳥家にあった歴代『大鳥』の当主の呪いについての文献による一文に確かこうあったはずだ。
「その腕は確か3代目当主の……貴様も『呪い』を背負っている、と?」
「目敏いな。確かに俺も『呪い』を背負っている。さて、それは何故だと思う?」
「まさか……貴様が……」
声が震える。
大鳥家に伝わる『呪い』とは大鳥家の血縁を引く全員が対象な訳ではない。
『呪い』を引くのは本家直系の者だけであり、分家の人間は例外となる。
それと当主となる者は男のみと限定されている故に、この大鳥敬禮は分家から連れて来られた人間であり、母禮とは本来従兄弟に当たる。
と同時に、大鳥家は魔術や科学を良しとせず、純粋にその力腕で戦ってきた一族であり、こうして見ればこの大鳥敬禮が如何に異端であるかは明白。
では何故、この男が『呪い』を継承できたのか?
それも3代目という大昔の人間でありながらも、これもまた『大鳥』として異端な『呪い』を使いこなすのか?
母禮はアマンテスから聞いた事があった。あるインドや日本で伝わる呪術では生贄の髪や爪、臓器を生贄に自身の身体に直接何かを影響させる事ができるという事を。
つまり敬禮は大鳥本家の誰かの臓器を使ってはその術式を完成させた事が妥当であって、現にそれを成功させた事は今、母禮達に見せつけたばかりである。それが示す意味はただ1つ。
(ああ……そういえば)
父は言っていた 「何故お前が」と
そして父が亡くなる前に当主は未だ確定されておらず、敬禮が当主候補として挙がっていた事。
「父さんと母さんを殺したのは貴様なのかァアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
夜闇に哀しき少女の慟哭だけが響く。答えたのは報復を誓った男の嘲笑しかない。
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