第8話Sigh


「……」

 すると、1拍置いては一言。

「君もアイツと同じ『大鳥』なんだってね。」

「……」

「今、俺らは全力でアイツを探してる。大体は予想がつくと思うけど、捕縛される理由はアイツが大きな事件に関わっていて、その情報を手にしているからなんだ。」

「大きな、事件……?」

「『生命の樹』っていう融合結社は知ってる?」

「ああ」

 

――生命の樹。それは高杉灯影が束ねる科学者・魔術師の他にも武装した集団や不良グループや外国人さえ受け入れるという異能の集団であり、今1番この国の国民が崇拝している大規模の融合結社である。

 それらは今の日本を完全に潰した後に新しく国を建て替えるという目標を掲げ、政界や各世界機関にまでパイプを持つという新選組とはまた違った立場の集団である。


 だが、それと兄の脱走に何の関係があるのかと思っていれば険しい顔で比企は言葉を押す。

「いい?これは上層部しか知らない情報だから、他の隊員に話してはいけないよ?」

「あ、ああ……」


 思わず息を呑む。すると比企は真剣な趣きで話を切り出した

「あそこは結構自由に行き来できる人間の集まりだから特に問題はないらしいけど、アイツらの中で1人、異様な研究者がいる。名前は樹戸榊。その研究内容は命のオンオフ……つまり、人を生かすも死なすのも可能な研究論文だった。アイツらはそれを科学とオカルトで完成させようとしてるらしいけれど、アイツはその一部を知っている。それを逆手に取って何かを起こそうとしているっていうのが『生命の樹』に潜り込んだ諜報員からの情報なんだけど。」


「その命のオンオフとやらの研究内容を知っているとでも?」

「その可能性は高いと土方さんは睨んでるみたいだよ。そんな事があいつらがする前にこちらに仕掛けてきたら、どうする事もできやしない。だからこそ捕縛しなくちゃならないんだけど、中々……ね。で、さてここで先輩から一言。アイツを探しにここまで来たのなら、もうやる事は決まったでしょ?なら後は迷わずに進むだけだよ。あの相似に思い切りビンタかます程の度胸を持ってるんだから大丈夫。」


 そう言われては、先程渡された包みに視線を落とす。

「大丈夫。君は独りじゃないさ。今晩第2部隊で大掛かりな攻撃をしかける予定だけど、君にも同行してもらうのは土方さんから聞いているよね?なら、その時はよろしく。それじゃあ俺は出勤時間だから、また夜ね。」


 手を軽く振り、去っていく小さな影と貰ったおにぎりが四つ。

「……弱いなぁ、おれも。」


 そう呟いては、話し込んでいた非常口階段で、貰ったおにぎりを頬張る。味は好い塩加減で、何よりおにぎりを包む海苔の感触が堪らない。それを一気に食べ終わっては立ち上がり、「よしっ!」と呟いては部屋に戻る。

「あーあ……結局、比企さんにいい所持っていかれちゃったなぁ。」


 この様子を一部始終見ていた遊佐は静かにそう呟いては、やれやれと息を吐く。

「監視役は所以さんだけど、面倒を任されてるのは僕なんだからさぁ……気使ってよ」


 叩かれた頬を抑えながら遊佐も20階へと戻り、その後、母禮の部屋まで行っては今日は任務が始まる前にこのマンション内の案内と、軽い買い出しをすると告げれば、先程の様な緊迫感はどこにもなかった。


 単純だな、と遊佐も母禮も心の中で呟いては施設を歩いて回った。


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