第6話provocation


 コンコン、というノック音と共に目を開けては外から声が聞こえる。

「れいちゃん、僕だけど起きてるかな?」

「なんだ……遊佐さんか。」


 そうぼやきながら、ドアを開けると「うわ、すごい顔っ」と言われれば、ムッと顔を顰める様子に、遊佐は笑う。

「ごめん、ごめん。冗談だって。もう朝の八時だし、朝ご飯の時間だから起こしにきたんだよ。ご飯食べるでしょ?だったら、さっさと顔洗ってついておいで。」

「あ、ああ……。すぐに終わらせるから待っててくれ」


 そう言っては洗面台へと駆けつけ、顔を洗う。歯磨きも済ませたかったが、何せここに来たのは約五時間前で、備え付けも存在しなければ、人を待たせている。ので、顔を拭いては鏡を見てフーッと息を吐いては頬を叩く。

「よし!これで完璧だな!!」


 ダダダッ、と玄関まで走りドアを勢いよく開けては一言。

「おはよう、遊佐さん。」

「おはよう ……って、相似でいいって言ったじゃん。」


 「ふー」と言った諦め混じりの溜息の後に、やれやれという調子で首を横に振っては先に歩き出す様子は流石にぐっ、とくるものがある。

「まぁ、いいや好きに呼んでもらって。ここのみんなは僕の事を名前で呼ぶからさ」

「それって、隊長各の人しか呼んじゃいないんじゃないか?」

「え?何で分かったの?」

「何でって……」


『職務上、こんなのはよくないんだろうけど、あまりにもお兄さんが強そうだからこっちの方が有意義だと思って選んだんだけど』


 昨晩聞いたこの言葉

 不謹慎だの、仕事に不真面目だのという問題以前にこんな台詞を易々と吐いてしまう事自体人として何かが違う。変わっているとかその様なレベルではなく、それこそ人の命さえただの玩具としてしか見ていないような感じであ

る。


 積み木よりもパズルの方が面白そうだからそっちをやろうという様な軽さで。無論、こんな台詞を聞いた上で一緒に生活している身となれば、正直いつ自分がその身勝手さで殺されるかどうか分からないのだ。


 だからこそ迂闊に親しくなどできない。できるとしてもほんの一部であり、それこそ昨日であった土方や斎藤といった面子なのだろう。


 しかし、この遊佐相似という男も馬鹿ではないはず。ふと、母禮をじっ、と見てはそっぽを向き、「そりゃそうだよねー」と暢気に答える。

「こんな僕の事、理解ってくれる人なんてそういやしないから。ただ、れいちゃんはそうじゃないのか、少し問いかけただけだよ。」

「遊佐さん……」

「ね?」


 そう笑って首を傾げる様子がとても痛々しく、思わず胸元をぎゅっと掴んだ。

(ああ、そうか)

 とある事を一人で納得しては、エレベーターに乗り、そのまま食堂としてあてがわれている部屋に行けば、そこには何人かの隊士が台所に立ち自ら料理を作っていた。


「ほほう、朝飯は自分で作っていたのか。」

「そそ。昼とか夜は任務が立て続くから、食事は各個人で取るけど、朝は朝方まで続いた任務を担当していた人を除いて、みんなでとってる。」


 辺りをキョロキョロとしていれば、厨房の奥にに見知った姿を見ては心臓が跳ねる。隊服であるYシャツを捲っては、ここからじゃ遠く見えないが、鍋をじっと見ていることから、味噌汁でも作っているのだろう。

「そんなに所以さんが気になる?」

「え?」


 突然の問いかけに対し、裏返った声で返事をすれば、遊佐は「はははっ」と笑う。

「何その驚き方。にしても昨日からずーっと所以さんの事見てたからさ、何か訳ありなのかなって。」

「事情ならば――」

「あるにきまってる……って?」


 母禮が答えるよりにも先に遊佐が答えれば、スタスタと先にテーブルへ向かってはこちらへ向かって手招きする。前や隣にもまだ人はいない。

(要はさっさと来いという事か)


 そのまま遊佐を追い、隣に座っては「で?」と遊佐は聞き返してきた。

「その事情っていうのは?」

「別に深い事はないさ」

「へぇ?そう言っちゃう?」


 喉の奥でくつくつと笑う様子に母禮は遊佐を睨みつけるが、遊佐はそれを一切合切無視を決め込んでは「中々やるじゃん」と呟く。まるで昨日、初めて会った時の様に。


 だからといってこちらが怯む必要はどこにもなく、意図的に黙り込むと遊佐が愉快そうに口を開く。

「もしかして、大事な人を所以さんの手によって奪われた……とかありきたりな話じゃないだろうねぇ?」


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