第4話Consciousness ambiguity
上がる叫び声に、ハッ、と意識が戻れば、そこには膝を抑えている斎藤の姿を見ては本能が告げた。
(あの出血の多さ……)
「この程度……」
「バカ言ってんじゃねぇ!!」
「誰か医者を!」
「平気だ……」
弱々しく聞こえる声に慌てて母禮は鞄から布タオルとクリームが入ったような缶を取り出し、それを布タオルに塗っては斎藤の膝に当てる。
「大丈夫だ。会津にある薬草から出来た血止め薬だ。傷は浅いが、出血量がこれだ。大人しくしてろ。」
「……かたじけない」
斎藤の言葉を他所にてきぱきと治療を済ませ、包帯を巻き「ふむ」と母禮は呟く。
「これでどうにかなる。それとすまない、途中で意識が途切れ……」
「別に構うな」
母禮の言葉につん、とする斎藤だが、「ねぇ、所以さん。」と遊佐が問いかけた。
「所以さんには見えた?」
「ああ。あの時、その剣は柄で地面を叩きつけたが、地割れを起こす強力な力点となったのはわずか30センチ。あの時、俺自身で床を叩き、威力を相殺させてみたものの、足1本は犠牲になったか……。」
「へぇ、床叩いてたんだ?通りで少し床が斜めってる訳だ。相変わらず判断力の早さだけはすごい早いね。」
にこにこと遊佐は笑うが、先ほどの言動といい今の笑みといい、それを現すのは皮肉なのか、それら一切無視をして土方が「とにかく」と声を漏らす。
「とにかく今さっきテメェはテメェ自身で意識が途切れたと言った事と安全性を考慮し、斎藤が監視にあたるが、俺らがテメェに求めてんのはテメェの兄貴探しの為。だから巡回には出てもらうぞ。但し戦闘になったら下がれ。
こちらで捕縛する。それまではここにおいてやるよ。相似、適当に空き部屋を見繕ってやれ。」
「別にいいですけど、詳しいここの構図についての説明は明日でいいんですよね?」
「ああ、今は適当に部屋に案内しろ。時間も時間だ。お前らも部屋に戻ってさっさと休め。」
「はーい。んじゃ、行こっか。れいちゃん。」
「あ、ああ……。」
先程から、こちらを見ている斎藤の視線を気にしながらも、遊佐の後に着いていく。
(あの斎藤とかいう男……もしかして……)
「れいちゃん?」
ふと突然名を呼ばれ、ハッと我に返ってはこう返した。
「な、何だ?」
「ここ、階級によって部屋の位置とか関してくるんだけど、一応れいちゃんは捜査協力者だし、女の子でもあるから僕の隣の部屋でもいい?ちょっとばかし広いのが逆に難点だけど。」
「そんなに広いのか?」
「うん、まぁね。」
そんな会話を続けては、エレベーターが停止したのは20階であり、案内された部屋のドアノブを遊佐が掴む。
「後は自分の目で確かめてごらん」
と言われ、玄関から部屋を見た先には果てしない広い部屋があった。説明曰く、1LDKだが、下手すると普通のマンションより広いのではないであろうかと錯覚する程だ。キッチンや洗面台、シャワー室も設備され文句なしの部屋に対し「おおおー」と母禮のテンションは上がりに上がる様子に遊佐は「よかった、よかった」と笑う。
「監視役の責任者は所以さんだけど、なんか困った事があったらいつでも聞いてくれて構わないからね?」
「あ、ああ。助かる。よろしく頼むぞ、遊佐さん。」
「嫌だなぁ、相似でいいよ。うん、よろしく。それじゃあ今日はゆっくりとお休み。」
ガチャリ、と無機質な音が鳴り響き、一応後ろを振り返り、誰もいないか確認した後に備え付けである小さなソファーに荷物を置いては先程の事を考える。
暴走と混乱
大鳥家は代々会津の地に身を構え、国の為に尽力し日本の政策の暗躍を買う一族なのだが、それはあくまで建前であり、世間から恐れられるのも今まで挙げてきた数え切れない偉業よりも、その絶対的な力が原因である。
まず1つ。大鳥の血を引く者は、例外なく『呪い』を背負わされる。
これは民を憂い、民の為なんの理由があろうとも守り抜くという掟。
2つ。その為、幼い頃から自身の持つ能力と言う物が決定される。これは各個人によって異なり、自身が願った事が大きく反映されるが、どれも現実的な物に限定され、例えば空を飛ぶなどという非現実的な願いは一切通用しない。あくまで人体に影響を及ぼさない範疇での反則技を持つ事が可能なのだ。
そして3つ。だからこそ人の感情とは常に隣合わせで、主に負の感情を背合わされる事が多く、その大体を占めるのは支配欲である。
それと比例するかの様に、大鳥家は家督相続で揉めたりする為、一時期はその負の連鎖が、殺害という手段で埋め尽くされていた。それを防ぐ為に今は前当主が存命の内に予め、次期当主を任命し、前当主が一生を終えるまでは副官として、見習いをする訳である。
しかし、これらの事もあり、昔よりか負の感情から遠ざかったとも言えるのだが、大鳥母禮だけは違った。
彼女は10年前の6歳の時に両親を殺され、亡くしている。原因はなんなのかは特に分からなかった。何せ、全てを守ろうとする者には見える見えないの問題を超えて敵は多く存在するのが常だ。だからこそ犯人は分からない。
母親に押入れの中に放り込まれ、目の前で父の首が斬り落される光景を見た彼女は、あの日とてつもない恐怖に襲われると同時に多大なる『呪い』を身に宿してしまったのだ。
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