第3話The worst fact
彼らはどうやらパトロール中だったらしく、丁度上野まで偶然出てきていたと専用のパトカーの中で説明を受ける。そしてパトカーに揺られては1時間後、ようやく新選組の本拠地であるマンションに着けば、まずは報告をしなければならないと言っては、24階建てのマンションの最上階まで向かい、ドアをノックもなしにガチャリ、と青年――遊佐相似が先頭で入っては今日の報告へ入る。
「第1・第3部隊只今戻りましたー」
すると、机に向かっていたガラの悪い男こと新撰組のナンバー2である土方がこちらに振り返っては「うるせぇ!」と怒鳴る。
「てめぇ、もう夜中の3時だぞ!もう少し大人しく入ってきやがれ!後、間違ってもオーナーを起こすんじゃねぇ!」
「…何で今日の僕はこんな扱いな訳?」
「知るか、阿呆。んで、報告は?」
「上野にて強奪犯と遭遇。捕縛に入ろうとしましたが、第1部隊のミスで奇しくもその場では逃がしましたが、後に第3部隊で回収しました。」
突然聞こえた声に遊佐は「わっ」と驚き
「所以さん、いつの間にいたの!?…というか、貴方いつもいいとこ取りだよねー。本気で殺したくなるよー…じゃなくて」
「んで?そこの小娘は?」
「強奪犯を追っている最中、『大鳥』と名乗った為、ここに連れてきた次第です。」
「もういいや。…という訳で連れてきたんですけど、まだ名前も聞いてなくて。」
遊佐の発言にズッこけそうになった、土方は少女へと視線を移す。
「名前は?」
「大鳥家193代当主・大鳥敬禮の妹、大鳥母禮と言えばよろしいか」
「妹だと?」
少女――母禮の一言に土方は怪訝そうに眉を顰めては、どこか質問をしたげな少女の意見を聞こうと、煙草に火をつけては促す。
「で?聞きたい事は何だ?ガキ」
「おれの兄が東京へ下ると4月に会津を出たのだが、何か心当たりとかはないだろうか?」
という問いかけに対し、遊佐はスローな声でソファーにごろん、と転がりながら呟く。
「いたよ、でもすぐに脱退。」
「よいしょっと」と言っては今度はテーブルにある菓子に手をつけながらも話を続ける。
「今年の4月頭に入隊、けど5月中旬に脱走。だからこうして探してるんだよ。あ、『母禮』って響きがしっくりこないから、れいちゃんって呼ぶね。」
ドクン、と一瞬心臓が跳ねる中、リールの様に話はまだ続く。
「でも事あって尻尾を掴んでもすぐ逃げる」
ドクン、と心臓の嫌な響きは収まらない。
「正直言えば死者も腐る程出てるんだ」
(嘘だ)
信じがたい話だった
大鳥家は代々、人々の暮らしの安寧を願い、自ら手を汚す一族であり、1度正義であると決めた事は決して曲げずに最後までその命が尽きるまで尽くすというのを信条としている。
当然そこに人を殺すという過程はあってもおかしくないが、母禮の中では否定したい言葉ばかりだった。
あれ程国を思い、わざわざ単身東京まで下っては掟の為に戦うと告げた兄はとても優しく、人を殺すどころか虫さえ殺せない程、優しい心根の持ち主だった。それだというのに何故そんな兄が妹と自ら決めた信条を曲げてまで大量に死者を出すのか。それが信じられなかった。
「馬鹿な……」
全てはこの血の宿命と国の為――
「現当主が『大鳥』の掟を破り逃げるのか」
此ノ身ニ宿ル血ノ宿命ハ絶対ノ掟
「ん?よくわかんないけど、そうなるね。あ、お饅頭食べる?」
(嘘だ)
「まぁ、こうなったからはテメェに逃げられるとコチラは困るんだ。」
ナラ代弁者ヨ
「だから情報提供者として……」
血ヲ
「我が兄……」
――解放セヨ
「敬禮ッ!!」
ビキッ、という音と共に怒声が響いた瞬間に遊佐と斎藤は異変に気づき、腰に下げたままの剣を手に取る。これ程までない殺気に思わず冷や汗を流す遊佐に対し土方は呟く。
「ごめん、冗談言ってらんないね。」
「当たり前だ。コイツ、化物か?」
一瞬だが、彼らの目には不吉なモノが目に映った。それは人間の神経らしき物が異様なまでにはっきりと浮かび上がる様。
ダンッ、という音と共にヒュンッと母禮の身が沈むと同時にドガガガッという音が響けば、ズンッとマンション自体が揺れる。
「地震、か?」
「否、マンションの下を。」
斎藤の言葉に急いでベランダへと出てみればそこにはクレーン車で地面を抉ったかの様に地面が抉れていた。
「地面まで割れてる……だって?」
「そして俺も、食われ……」
グラリ、と斎藤の身は倒れる。
「斎藤ッ!」
「所以さん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます