1.トカゲと少女

 真上から照りつけていた太陽は、あらかた西に傾き、森の中は涼しくなってきた。レディバは改めて周囲の音、空気、匂い、そして、視界と、全ての五感を使って危険がないかを確認したが、ひとまず、一息ついても問題なさそうだ、と判断した。

 傍らの少女は、固く表情を変えないが、疲労はしていたのだろう。レディバが休憩を指示すると、腰から革の水筒を取り出して、ごくごくと飲み干した。うっすら聞こえる川の音を確認し、後で水を汲みにいってやろう、とレディバは考えた。

 レディバは被っていたフードを外し、口の突き出した、ゴツゴツと緑の鱗に覆われたトカゲの顔を表に出した。少女は、初めから彼の顔を見ても、眉一つ動かさなかった。人間と関わることの少ないレプティリアンの顔は、彼女にとって、見慣れたものではないはずだが、気丈な性質の彼女の動揺を誘うものではなかった。また、突然、彼女に降りかかった運命の波の上では、それ以上に、先の見えない暗闇の道に慣れるのでいっぱいだった、ということもある。

 彼らは突き出た岩が天井となり日差しを避けられる、広い岩陰の中に腰掛けていた。この岩陰は、暑さを避けるだけでなく、周囲から隠れる場所としても、最適の場所だった。少女は奥の岩壁にもたれかかり、レディバは日と影が境界を作る少し手前の影の部分に、外界を見張るように座っていた。


 ウィスタの街で斡旋屋から紹介を受け、その日の午後には、レディバはその少女と出会っていた。

 ウィスタは検問が厳しく、レディバのような異型の旅人が出入りするのは、容易な街ではない。しかし、有力な商人の多く住むこの街では、多くの物資が手に入るため、なるべく馴染みの顔売りーーー旅人が街や村へ出入りする際、安全を保証する職を行う者ーーーに頼んで、寄るようにしている。

 顔売りは、旅人と街の人間を繋いで、旅人に仕事を斡旋することもある。ウィスタの街に入る代償は、危険な仕事を受けることだと分かってはいるが、これが、彼の生きる道であった。

 顔売りの保証の下、街中に踏み入れた者には、街の人間も最低限の愛想は振りまく。特に、商売人にとって、これらの旅人は、一度に大量の購入が期待できる良客だった。余計なトラブルを避けるため、トカゲの顔はフードで隠す必要はあったが、午前のうちには、必要な武器と保存食、なくなりかけていた救急道具といった、必要品を調達することが出来た。

 路上の屋台で簡易な昼食を済ませた後、レディバは待外れの古い屋敷に招かれた。館の周囲は、人払いがなされており、がらんとしていて誰もいなかった。屋敷の中にいたのは、顔売りとツイードを着た白ひげの老人、少女の三人だった。少女はサラと名乗った。

「人間か。」

「ああ、お手軽だろ?なんせ、自分で動くから、持ち運ぶエネルギーが必要ない。」

 ヒキガエルを潰したような声で、今回の仕事を紹介した顔売りが、そんなことを言う。ララスという名のこの男は、いつもにやりとした笑顔を振りまき、センスのよいとも言えない冗談を言ったりするが、あまりに笑顔を崩さないので、仕事については信頼出来ても、人間としては、かえって胡散臭さを感じさせた。背は小柄で百五十を少し超える程度。イボがぶつぶつとついた顔は控えめに言っても不器量だった。

「あなたの仕事は、この娘を隣の国のオルジークまで届けることです。」

 レプティリアンとは、余計な会話などしたくもない、というように隣の老人は無愛想に言った。レディバにとっては慣れたものだが、依頼人なのに、名前も名乗らない。

「道中は、極力、他人には会わないようにしてください。南の丘を超えて、バゼルの森に入るといいでしょう。川沿いに西の出口を出れば、オルジークです。」

「国越えか。随分なお嬢様だな。」

「・・・余計なことは聞かないものと聞いていましたが?」

 老人はレディバでなく、ララスに言う。レプティリアンを嫌う人間は珍しくもないが、個人の感情を隠そうともしない態度から、あまり情報を隠すのも上手くない人物だな、とレディバは思った。

 ララスは、仕事には誠実ですよ、とガラガラの声で返す。余計なことを言うと、必要のない情報が漏れてきそうで、レディバは黙った。だが、老人もむっとしたまま黙った。話はそれで終わりだということらしい。

 やや極端だが、このような依頼人も珍しいものでもなく、レディバは、あっさりと仕事を引き受けた。

 サラは黙ってこのやり取りを聞いていた。隣の老人と違って、凛とした立ち姿で、レディバを見つめていた。背筋は真っ直ぐ伸び、優雅とさえ言える細い二本の足を前に向け、肌こそ青白くやや活気に欠けていたが、その青い目ははっきりとレディバを見上げて、彼という人物を観察していた。その姿勢は、十になるかどうかの、幼い少女のものとは思えなかった。レディバの知らない、彼女の運命に立ち向かう決意が、日の光のように透けて見えるようで、レディバは内心、感心した。

 夕方のうちに出発し、その日は夜通し南に向かって歩いた。翌昼の小休憩の後は、夜になるまでに丘を一つ超え、用意されていた舟で川を超えて、バゼルの森に入った。

 サラはレディバの言うことをよく聞いた。それが、この道中を乗り切る最善の手段だと分かっているようだった。人を運んだことはこれまでにもあったが、大体は自我が強く、レディバのようなレプティリアンに指図を受けるのはイヤだ、と口に出す者もいたが、この少女は態度にすらそれがなかった。レディバは、極力、彼女を子供扱いすることなく接しようとした。それが、彼女への礼儀返しのように思えた。

 レディバが気をつけるべきは、彼女を害そうとする何かから守ることだった。あれだけの説明では、彼女の事情も、何が敵になるのかもはっきりしない。他人と会うなという指示も含めて、なるべく、この少女の動向を他人に知られたくない、ということだろう。この仕事は、そういう趣旨を含めての仕事ということだった。

 彼女は、恐らく彼女自身の意図とは無関係に、他人の敵意にさらされている人間だった。そして、その敵意は、あらゆる手段を使って、対象に向けられることをレディバは知っていた。だからこそ、想定を超えた事態にも、迅速に対処できるよう、気を張り過ぎるということはない。

 レディバは己の五感をフルに使って、脅威の接近に備えることを日頃の風儀としていた。


 しばらく、鳥の鳴く声だけが辺りに響き、森を駆ける風の精霊が、木々を揺らしていた。影の中で瞑想していたレディバは、ふと、細いまぶたの中にある黄色い目をすっと動かし、木々の向こう側を見た。

「どうしたの?」

 サラが尋ねた。

「音が聞こえる。」

「音?人間の?」

「分からない。だが、生物だ。」

 レディバは、レプティリアンの性質上、あまり優れた聴覚を有してはいない。残った四感も駆使して気配を感じようとするが、ザクザクという、木々を分け入るような音はわかっても、生き物の種別までは判別がつかなかった。

 彼は一度、目を閉じ、次いで、大きく極大まで瞳孔を開いた。彼の瞳孔は光のない赤色に変わり、彼の身体は石像のように硬直した。サラも急な変わりようには、さすがに驚き、小さくあっと声を出したが、レディバの方では、サラの声は気にせず、数分、静止していた。

「森トロルだ。」

 再び、元の黄色い目に戻ると、レディバは言った。

「少し、離れてはいるが・・・どうするかな。」

 森トロルは、他種族に友好的ではない。特にレディバとサラのような人型の生物に対しては、縄張りの危機とばかりに、見つかり次第、襲いかかってくる可能性が高かった。

 方向によってはやり過ごせる可能性もあるが、とレディバは考えながら、ザックに入れていた煙草を取り出し、火を着けた。

 自身の装備を再び確認してみる。革の鎧は樹齢百年の木の幹すら打ち砕く、森トロルの力と棍棒を前にしてはほぼ無力だろう。加えて、運動性を重視して、彼は兜も盾も用いない。つまりトロルに対して、彼は何も防具を所持していないに等しかった。加えて、近接用の武器はナイフに近いショートソードしか持っていない。森トロルのような硬い皮膚を持った相手には不利な武器だ。おまけに、傍には守るべき少女を連れている。

「となると、、」

 レディバは右脇に置いていた銃に手を伸ばした。最近、人の世界に普及し始めた、遠距離用の武器だ。これは、その中でも、超遠距離、狙撃用にカスタマイズされた長身の銃である。その発明の初期から目をつけ、武器として活用していたレディバにとって、まさに相棒と言える、最も扱いに長けた武器だった。

 レディバは腰の袋に入れていた銃弾の数を確認しながら、ふっと煙草の煙を吹き出した。

 ふと、サラがこちらの顔を見ていることに気がついた。何か言いたげな顔をしている。こういった表情もするのだな、とレディバが思うような幼い顔だった。

「煙草を吸うトカゲは珍しいか。確かに、俺の同種で、こいつを吸うやつは、聞いたことがないな。」

 レディバは再びすーと煙を吐き出した。

「安心しろ。この距離なら、森トロルには気付かれない。」

「そうじゃなくて。目の色が変わる人を初めて見たから。ルビーみたいで珍しい色ね。」

「あの目は俺のギフトだ。」

 レディバは、自らの意思で目の照準を切り替えることができる。赤い目は、通常よりも視野が狭く絞られるが、その分、遠くに焦点を当て、その詳細をはっきり見ることが出来た。あまり細かな調整は出来ないが、望遠レンズで起こるような視野のブレが起きないため、対象の観察に集中しやすいことが、この目の長所だった。

 これは、レプティリアンを含め、他の生物には見られない。その生体独自の特性であり、この世界でギフトと呼ばれているものである。

 この能力は、狙撃銃との相性がことのほか良い。スコープが開発され、狙撃という概念が一般化し始める前から、レディバは長銃とこの目を使った、スナイパーとしての可能性に気づき、早い段階から狙撃の技術を磨いていた。

 そのような特殊な経緯から生まれた彼の銃は、スコープをつけていない特注品だった。

 ギフトは特に戦いに身を置く者にとって、相手に予想されにくく、優位な特性と言えるが、ネタが割れてしまうとその効力は半減する。レディバもギフトの詳細を、サラに語るつもりはなく、のらりと話題を変えた。

「ルビーを見たことあるのか。相当、希少品だぞ。」

「うん、ちょっと、うちはお金持ちだったから。。」

 少女はさり気なく言ったつもりだろうが、レディバには、彼女の口ごもった様子が分かった。己の素性を、話すことに抵抗があったのだろう。レディバも本来、依頼者や護衛対象の事情を探るような言動は慎むようにしているが、ギフトの話題を止める効果はあったようだ。

 少女が沈黙したのを見て、レディバは再び、赤目を開き、トロルに目を向けた。先程よりも、近づいてきている。

「駄目だな。このままだと、戦闘になる。耳を塞いでいろ。この距離で仕留める。」

 サラは、言われるまま、耳を塞いだ。

 レディバは、銃に弾をセットした。

 トロルまでの距離はおよそ八百メートル。確実に仕留めるためには、もう少し近づいたところを狙いたい。ヘッドショットで頭蓋を撃ち抜かない限り、トロルには、大したダメージは与えられないだろう。一撃必殺か失敗か。二つに一つだった。レディバは脱力をするために、己の呼吸を整えた。

 距離、七百メートル。トロルはこちらに気がついている様子はない。のんびりと木々をかき分け、こちらに進んでくる。目的はなく、縄張りを見回っているようだ。観察できる範囲では、ニメートルを超えるサイズだが、トロルの中では平均的な方だろう。トロルは最大で、四メートル近くまでのサイズの報告がある。

 少し、強風が吹いたが、すぐに止んだ。木々は幹を太く備えているが、障害になりそうなほど、密集はしていない。風は微かに木の葉を揺らし続けているが、レディバの腕を持ってすれば、この程度、問題はない。

 六百メートル。レディバは狙撃銃を構えながら、目を赤くした。スコープ代わりの彼のギフトが、狙いを絞った。

 指と銃身を並行に保ちながら、赤目の視線を銃口の先に重ねる。何度となく、実践したこの動作はひと呼吸の間に済ませられるほど、滑らかだった。

 風が強くなる。

 五百五十メートル。風を読んで、少し左上に狙いを定めた。

 五百メートル。風が凪かける、一瞬の時の隙間を、彼は縫った。


 サラに聞こえた音は、花火が咲いたような発砲音と、鳥や獣が跳ねて逃げる草の音だけだった。トロルの倒れた音も断末魔も聞こえなかった。レディバも何も言わなかったが、ゆっくりと銃を下ろす所作が、狙撃が成功したことを物語っていた。

 夕行性のアカネサルの、互いに警戒しあう声が森に響いた。突沸した異音に平穏をかき乱され、森の代弁者として、抗議しているかのようだった。

 サラには撃たれたトロルがどのようになっているのか、確かめる術がない。ただ、時間が立てば、森を彷徨う死肉食いの獣、モルスの養分となって骨だけになるのだろう、と思った。今よりも幼い頃に見た絵本の、身体が黒い影に覆われ、頭部の輪郭しか描かれていなかった、鋭い目つきのキツネのような生物の絵を思い出した。

 一方、レディバは、既に別のことを考え始めていた。森トロルは、昼のうちは群れで活動することは少ないが、夜になると、集団で食事と睡眠を取る。これは、夜目がきかないトロルたちが、集団でお互いを守りあうためで、昼の単独行動する姿から想像されるほど、彼らの絆は浅くない。仲間が攻撃を受けたと知られれば、怒り狂った他のトロルと鉢合わせる可能性もあった。

 悠長にここに居残るのは得策ではない、とレディバは考えた。サラにすぐ出られるよう、身支度を指示し、自分は、先ほど聞こえた川音に向かって、水汲みに向かった。

 川はほどなく見つかった。小型の狐種の先客が一匹、川に口をつけていたが、それ以外は生物の気配は感じなかった。レディバはサラの水筒いっぱいに水を汲み、清浄石を入れておいた。この石は、他にはない特殊な穴の空き方をしており、しばらく水に浮かべておくだけで、複数回ろ過をしたのと同じ状態になる。効果の割には安価で、大きくても握りこぶし大ほどの大きさしかないことから、旅人の必需品となっている。

 狐はすでにいなくなっていた。レディバが水筒に水を汲んでいる間に、さっと森の奥に走り去っていった。唯一の生物の気配も消え、あたりは静穏の時となった。

 安物の清浄石特有の、カラカラとした軽い音を鳴らし、レディバが踵を返して、戻ろうとした時だった。

 その時、それに気がつけたのは、ただの偶然だった。

 人の足跡が一つ残っている。それは、先程、水を飲んでいた狐種が走り去った後の、落ち葉が数枚、飛んだ下にあった。足跡はきわめて薄く、一見しただけでは分かりづらいが、狐種が付けた足跡と交じると、浮き出るように違和感が出てきた。

 レディバは這いつくばるように、辺りの地面を見回した。目をこらすと、他にもいくつかの痕跡が見つかった。どれも、注意深く見なければ見つからないほど、うまく森に溶け込んでいた。

 人間の痕跡があることは、問題ではない。レディバたちは、決して、誰も通らない未開のルートを歩いているわけではないのだ。

 問題は、これらの痕跡に、明確な意図の元、気配を消そうとした形跡があることだ。自身の痕跡を薄めることに長けた人間が、ここを通ったということだ。それも、かなり最近の出来事だろう。足跡はどれも、隠すように、しかし、不自然でない程度の落ち葉や石に覆われている。それだけでなく、これは靴そのものに細工がされているのか、軟泥質の場所でなければ、その跡をもう追うことができなくなっている。

 森の機知に富む、相当な手練だ。何者かは不明だが、これまで、数々の修羅場をくぐり抜けてきたレディバの嗅覚は、サラの背後の敵意、霧のように彼女を覆う運命の影を嗅ぎ取っていた。見知らぬ影が、輪郭のはっきりしない靄のように彼らに近づいてきている。レディバはその靄が目の前で人の姿を取り、立ち上がる姿をイメージした。

 彼は急ぎ足でサラの元に戻った。まずは、サラの姿が見えたことに安心し、出られるか、と確認した。

 サラは既に準備を済ませていた。

「···何かしたか?」

 レディバは違和感を感じて聞いた。

「レモングラスの油を少し辺りに振りかけたの。煙草の匂いを、消しておけるように。痕跡は少しでも消した方がいいでしょ?」

 その用心は何のためのものなのか、とレディバは心の中で問うた。この少女は、自分たちの立ち向かっている相手を知っているのだろうか。レディバは聞くべきかどうか、迷った。

「十の娘にしては、殊勝だな。」

「これでも十二よ。」

 レディバはふと、レモングラスが自分の肺の煙草の匂いも取り去るような、不思議な感覚を感じた。自分の奇妙な感覚に若干とまどいつつも、まずは、先にいる敵の可能性に、頭を割いた。サラに話を聞くのはやめた。何も聞かずに、依頼を遂行する、ただ、それを繰り返すのが、彼のこれまでの人生だった。今回もそれは、変わらないはずだ。

 レディバはじっくりと、しかし俊敏に頭を動かした。こういう時は、あらゆる事態を想定しても、しすぎるということはない。だが、無数の可能性に対して、彼がその場で選べる選択肢は一つしかない。レディバは、正体不明の、霧のような相手の対策を、すぐにまとめて、決めなければならない。風が、サラの髪を数回なびかせた。その数瞬で、レディバは考えをまとめ、彼はサラと出発した。


 レディバとサラは隊列ーーーといっても、もちろん二人だけのだがーーーを整え、レディバが前を歩き、サラがその後を着いていくという形式をとった。

 足跡を川で見つけたことから、十中八九、その主は、彼らより前に進んでいると予想できた。となると、敵がいれば、待ち伏せをして襲いかかってくる可能性が高い。レディバが前を警戒しながら歩くことで、奇襲のリスクを極力下げる試みだった。背後からの攻撃には弱くなるが、それならば、後ろから追ってきて、彼らを抜き去って前に出た理由はなんだろうか。今の時点で、攻撃が実行に移されていないことを考えると、そもそも、この森で待ち伏せされていた可能性が高い。レディバは、先日の無愛想な老人の顔を思い出していた。

ーーーなるほど、この森を指定したのは、あいつだったな。

 レディバには、方向を変えて、全く違う街に向かう選択も考えたが、それは難しかった。なぜなら、これは、顔売りからの依頼であるのだ。彼らの仕事は、人の街への出入りを管理することだ。レディバ一人ならどうとでもなるが、サラの安全を確保するには、ララスの指定した、オルジークでなければ、紹介もなしに街に入り込むのは、困難を要する。

 入る前に迂回出来ていたならともかく、この森に入り込んだ以上、彼らは狩人から逃げる獲物役を演じながら、ここから脱出する他なかった。

 間もなく日は完全に沈み、夜の刻がやってくる。レディバは夜を超す野営地をどうするか考えた。本来なら先程の休憩所が、ちょうどよい場所であったが、トロルの危険に備え、前方の姿なき影に気を張らなければならない状況が、あの場所に留まることを許さなかった。

 トロルは追ってきているかしら?とサラは言った。早々に追いつかれることはないと思うが、レディバには分からなかった。

「木登りはしたことがあるか?今夜は、木の上で寝る可能性もあるぞ。」

 冗談ではなく、レディバはそう言った。己はともかく、サラは休ませなければならない。この先、どれだけ続くか分からないこの緊張に、この少女の気力が尽きてしまうことは、危険の一つだった。

「どこでも構わない。」

 サラはぶっきらぼうに答えた。

 しかし、これまで通りの強さの中に、少しばかり自暴の色が響いている。不平不満を言わない彼女だが、だからこそ、危険でもある。

 レディバはここらが限界だと考えた。今夜の野営地を決めなければならない。彼は選定するように、木々の上に目配せをした。

「待って、あそこ。」

 レディバの視線が、サラの指す方向に向く。遠くに、土が隆起した地帯があり、その一箇所に、暗くて分かりづらいが、人が入れるほどの穴が空いているのが見えた。二人程度なら野営には丁度よい大きさだ。

「運がいいな。だが、少しここで待とう。ツキアナグマの巣だったら、もう少しで戻ってくる可能性がある。」

 人間の作った罠の可能性も、とレディバは心の中でつぶやいた。

 サラは、落ち葉が積み重なって出来た自然の絨毯に、三角座りで腰かけた。レディバも頭を下げる格好で、その横に座り、辺りの様子を見た。

 夜気が漂い始めると、夜行動物が活動を開始する。姿は表さなくとも、わずかなからザワザワとした空気が森の中に漂う。それは、他の生き物が、活動をカモフラージュしやすくなる時間帯でもあった。レディバとサラもこの時間に携帯乾燥食で、簡易な夕餉を取った。

 レディバは赤目と通常の目を交互に駆使しながら、辺りへの警戒を怠らなかった。また、同時にあの穴の所有者がいるのであれば、探そうとした。

 人間の罠であれば、どんなに遠くとも、赤目の届く範囲から、こちらを伺っているはずだ。この能力を知らない限り、こちらが罠を見抜ける、と敵には分からない。しかし、今回は、どこを見てもそれらしき人影は見当たらなかった。

 その後、しばらくしても、生き物が穴に戻ってくることはなかった。この辺りで、穴に住む動物はツキアナグマぐらいだが、昼行性のツキアナグマならば、とうに戻ってもよい時間だ。

 二人は慎重に穴に近づいていったが、中を覗いて見えるのは、積もった落ち葉と細かい枝が乱雑に落ちているだけだった。ツキアナグマの古い巣か、旅人の掘り起こした一晩の宿か、少なくとも、今現在、何かの生物がここを寝床としていることはなさそうだ。

 夏に差し掛かるとはいえ、夜の森は冷気が漂う。サラは全身を覆う大きめの上衣を羽織り、横になった。レディバは穴の出口に陣取り、タバコを吸っていた。ひやりとした空気の動きに乗って、タバコの煙も上空に消えた。フクロウが夜の活動を知らせる声を上げている。

 心を空にして、レディバは夜を感じた。しばらくして、タバコの火が消えると、辺りはさらに暗くなり、レディバも静かに目を閉じた。


 目が開いた時、辺りはまだ暗かった。月は西の空に浮かんでいたので、夜の時は終盤に差し掛かっていることを示していた。レディバの意識は完全には覚醒しなかったが、背後の物音に身体が反応して振り向いた。

「起きているのか。」

「ごめんなさい。起こした?」

 振り向くと、サラが布団替わりにしていた上衣を脱いで、静かに佇んでいた。

「何をしている?」

「少し、気分転換。」

 見ると手元に、何か黒いものを持っている。それは、鉄の細い棒が複雑に絡み合って、牛の姿を象った像になっていた。サラがそれぞれの棒をカチャカチャと動かすと、絡み合った鉄が動いて、ほどけそうになる。だが、それぞれの棒はお互いに計算された絡み合い方をしているようで、ほどけそうで、ぎりぎりほどけずにいた。

「そんなものを持ってきていたのか。」

「昔ね。母さんが買ってくれたものなの。」

 サラは鉄の棒を触り続けながら言った。

「荷物を用意しなさい、って母さんに言われた時、これだけ、わがままを言って、持ってきたの。これを触ってると、余計なことを考えなくって、気分が落ち着けるから。」

 サラはもう一度言った。

「知恵の輪、っていうらしいわ。前から色々試しているけど、なかなかばらばらにならなくてね。時間がある時、これを触るのが癖みたいになってて。」

 サラは手を止めた。レディバに遠慮をしたようだった。

「気にするな。お前が落ち着くなら、止める必要はない。」

「大丈夫。」

 今度は、それを荷物入れにしまった。空が少し明るく、夜明けの様相を呈してきた。自然の明かりの中に、サラの姿が見える。ベージュの服は大分汚れていたし、ブロンドの髪も出会った時のような整ったものではなくなっていた。だが、相変わらず、芯の強い目線は変わらなかった。いつも、彼女はレディバを真っ直ぐに、はっきりと見つめてくる。

「オルジークに着いたら、何をしたいか、考えておけ。」

「え?」

 不意をつくレディバの言葉に、サラはきょとんとした。

「お前の身の上は知らないが、お前の心の強さは分かる。何にでも立ち向かおうとする強さがある。ちょっとやそっとじゃ、折れない強い芯を持っている。」

 いつのまにか、レディバはタバコを吸っていた。煙が空中に漂う。

「だが、それでも、お前はまだ若い。その強さを、何に向ければいいのか分かっていない。このまま、それが続けば、お前は何かのために生きるのではなく、生きることが、目的になっていく。俺がそうだった。」

 自分でも、こんな話を始めたことに驚いた。日の光はさらに強くなり、朝鳥のなく声が、森の中に響く。緩やかに、風の音が夜を追いやっていく。

「霧の中を無闇に前に進んでいくと、自分の立っている場所が分からなくなるんだ。そして、戻ろうとしても、進もうとしても、もうどこにいけばいいのかも分からなくなる。そうなる前に、道標が必要だ。自分がなんのために生きるのか、難しいことじゃなくてもいい。美味いものを食べるのでも、そのパズルを解くことでも、何でもいい。ささいな、生きる目的があるだけで、迷うことなく進むことができる。」

 レディバは続けた。

「過去には、魔獣に会ったら、俺を突き出して、逃げようとした人間もいた。だが、俺はそういう人間を恨んだりしない。生きたいと願う意思があるやつが、そういう狡さを持っているのは仕方がない。」

 レディバはタバコを地面に押し付け、火を消した。

「街までは、俺が責任を持って届ける。その後は、お前次第だ。」

 既にレディバの身体には、真横から朝日が当たっていた。サラは、何度も見ているはずの、その姿が、急に大きくなったように思えた。光に当てられた顔は、鱗が反射し、黄金色に光り、濃い青色のマントが風に翻った。黄色い目が一瞬、真っ直ぐにこちらを向き、目が合ったかと思うと、すぐ、外を向いた。その一瞬の目は、鋭くサラを捉えた。これまでに出会ったどんな人間とも違う、それまでの人生の重みを瞬間で伝えるような視線だった。それは、先程の彼にとっては饒舌な弁以上に、多くのことを語りかけてきたようにサラには思えた。


 バゼルの森を往くのは、二人とも初めてだった。通常、わざわざこの森に入らずとも、より整備された街道を行けば、ほとんどの街に行き着くため、あまり、使われる旅路ではない。そのため、敵の襲撃の危険はあっても、川の側を通るあまり整備されていない小路を外れて、慣れない道なき道を往く危険を負うことは出来なかった。

 僅かにでも開かれたルートは、人が行きづらいというほど、困難があるわけではない。が、やはり、旅慣れないサラにとっては、相当、苦難の道のりとなっている。レディバの助言を守って、体力温存の歩法を試しているものの、溜まった疲労が、ここに来て、重くのしかかってきた。

 レディバもこまめに休憩を取り、サラの回復と周囲の警戒を繰り返しているが、体力を奪われれば奪われるほど、想定外の事態に対しての反応が鈍くなる。

 森の状況と言えば、二人にとってはよくもなく、悪くもなく、変わらない景色が過ぎていった。木漏れ日の差し込む空間は昨日と変わらない暑さが残るが、幾層にも重なる木々の葉が、適度に熱を避ける木陰も作っている。何匹かの動物は見かけたが、トロルのような、こちらを害する獣とは遭遇しない。また、レディバの赤目にも、危険を知らせる情報は映らなかった。

 物見遊山の観光であれば、移ろう自然の機微を楽しむ余裕もあっただろうが、いつ襲ってくるとも分からない敵に意識を集中している二人には、何もない時間だからこそ、小さく長い緊張を強いられていた。

 まとわりつく汗の雫が、不安の結晶のように、彼らの周囲に漂い、湿気た夏の匂いが吐く息に混じって湿出てくるようだった。

 地図で見た大きさから考えて、何もなければ、今日のうちには森を抜けられるはずだ、とレディバは考えている。だが、その望みは薄いと分かっていた。先に待つ賊と鉢合わせなければ、それは幸運だが、レディバは、そう考える射幸性を持っていなかった。

 先手を取ることが大事だ、とレディバは考えている。そのためには、赤目の能力が役に立つだろう。敵の位置を察知できれば、対策も立てられる。敵がスナイパーであれば、さらによい。レディバの十八番での勝負ならば、いかようにもさばける自信がある。この森は樹木の密度が低く、障害となるものが少ないため、狙撃という手段を取ってくることは、十分考えられた。

 先ほどから風の音が強くも弱くもならず、心地よい勢いで、鳴り続けている。日差しの中で、湿気を拭い去るいい風だった。風の動きに合わせて、木々が揺れている。葉同士が重なり合い、こすれ合う音が聞こえる。

 その音の中に、平常であれば、気にすることもなさそうな、小さな違和感をレディバは感じた。鳥かリスなどの小動物が動いているのかと思ったが、目で追いかけても、動物らしきものは見えない。ふと思い返すと、先ほどから木々を生活の住処とする動物たちの姿を見た記憶がないことを思い出す。

ーーー樹上か。

 レディバは神経を上に向けた。雰囲気を察知し、サラも立ち止まる。あくまでも、少し休憩という風を装って。不審と感じる箇所を一つずつ、詳細に赤目で確かめていく。

ーーー・・・一・・・ニ・・・三人か。

 遠目で、木の葉に擬態した衣装を見抜くのは難しい。だが、レディバの赤目はその一つ一つを、仔細に見抜いていく。本物の木の葉を纏った敵の衣服の隙間に、こちらを見つめる目の光が三組、確認出来た。

 敵が、既にこちらに狙いをつけている以上、サラを連れての逃走は難しかった。狙撃銃を持っている様子は見えず、レディバは時間を取ろうと、気づいていることを悟られないよう、タバコを取り出し、サラを近くに座らせた。

 サラもレディバの雰囲気を察知した。レディバが感心したことには、その表情を崩さず、自然な三角座りをこなしていた。もっとも、足を掴むその両手は昨日よりも、ぎゅっと強く握られている。

 レディバは、サラに簡単に状況とこれからするべきことを伝えた。サラは黙って頷いた。

「昨日も言ったが、お前はまず、生きることを考えろ。万が一、俺が不利な状況になったら、川まで走って飛び込め。」

 最後にレディバはそう伝えた。サラは立ち上がり、前に進みだした。これまでと変わらない姿勢と速度で。レディバが彼女を案じるのもここまでだった。今から自分の役割は敵の迎撃になる。腰のショートソードに意識を向けた。

 一歩進むごとに敵との距離が近くなる。レディバは敵の思考を頭でトレースしていった。

 間もなく、下を獲物の二人が通るだろう。懐の短剣に手をやってみる。視線が徐々に下がっていく。風が鳴り止まないのは好都合だ。気配を薄めて事を運べる。もう、三歩だ!剣を握りしめ、まずは、トカゲの首を確実に狙う。風の流れに合わせて、、、今だ!


 レディバは、敵が樹上から落ちてくるタイミングを狙って、懐から火打ち石を取り出し、素早くタバコの火をつけ、宙に投げた。

 ゴッ、という、火が爆ぜる音が鳴り、樹上から落ちてきた敵は、予期せぬレディバの先制攻撃に驚き、巻き上がる炎と爆風にたじろぐ。

 レディバの方では、その一瞬、火打ち石を投げたと同時に抜いた腰のショートソードを、敵の胸部に突き出した。

 剣は第一の敵の心臓を、一刺しで貫いていた。

 要撃の失敗が分かるや、残りの二人の敵が樹上の待機を止め、地上に降りて、ショートソードを手に駆けてくる。

ーーー全員、ショートソード。それも、、、

 レディバの見慣れた武器が迫る。

ーーー俺と全く同じもの、か?

 レディバのショートソードは珍しい種類のもの、というわけではない。しかし、製鉄技術の発展した隣国で流通されている、少々特殊な製法が使われているものではある。この国の人間が、そう何人も持ち歩くような代物ではない。

 筋書きは最初から描かれていた。俺を殺して、サラも殺す。傷跡は、俺の持つショートソードと一致する。凶賊が異形種のレプティリアンなら、疑う者もまずいないだろう。しかし、最初からそれが狙いだったとすると、、、

 考えるのは後だ。数瞬の思考を終え、目前の敵に意識が向かう。風のように樹木の間をすり抜け、左右から、レディバ達を囲うように近づいてくる。

 レディバは顔の前で、剣を斜に構え、前傾姿勢を取った。

 その時、サラが斜め後ろに駆け出した。

 すかさず、それに反応した敵の一人が、楕円の動きをくの字に変え、サラに狙いを定める。一番の標的を逃がすわけにはいかない。

 しかし、これは、レディバの策だ。

ーーー俺たち、レプティリアンの武器は集中力と瞬発力だ。多勢の接近戦は苦手だが、一対一なら、どうにかできる自信がある。

ーーー最初の一人はあえて奇襲をさせて、カウンターで仕留める。二人目以降は状況を見てだが、、お前にも敵の注意を惹きつけてほしい。

ーーー数瞬でいい。相手が一人になれば、すぐに終わらせる。

 己に向かうもう一人の敵に、神経を集中させる。肺に詰めた息を吐き出す。

「レプティリアンに、スネークバイトで勝つつもりか?」

 瞬間、レディバはさらに姿勢を低くし、呼吸を吐いたまま、剣を繰り出した。

 最短の軌道、最速の斬撃。

 蛇のアタックを思わせる、俊敏な攻撃は、敵の予想速度をはるかに超えて襲いかかった。

 敵の右腕が宙に飛ぶ。腕が地面に着く前に、レディバはニ撃目を放っていた。

 血しぶきを上げて、敵が倒れ込んだ。

「・・・!」

 サラに狙いを定めていた三人目の敵が、こちらを向く。想定外のレディバの早さと強さに明らかに動揺している。サラを狙うのを止め、飛ぶようなバックステップで距離を置いた。

 少しの間、にらみ合いが続く。

「俺に罪を被せるつもりなら、武器はショートソードだけだな?残念だが、お前の任務は失敗だ。この状況で、負ける気はない。」

 喋りながら、敵の反応を探る。動揺を一瞬で切り替え、無反応。情報は与えない。敵もプロだ。

 じりじりとレディバが詰め寄る。しかし、敵も円を描くような動きで、間に木を挟むようにして、距離を取る。

 同一武器の剣技において、敵とレディバの間に大きな力の差があることは、明白だった。ならば、距離を取るのではなく、すぐに逃走して、体制を整え、再び、要撃を考えるべきだ。

 巧妙に誘導されていることに気が付けなかったのは、疲労ゆえか。

 下!

 サラの叫び声に、反射的にレディバは後ろに飛んだ。空中で、目の前の地面が盛り上がり、剣先が飛んでくるのが見えた。土の装具を着けた四人目の敵だった。レディバの左肩から血がほとばしる。

 一瞬早く反応したおかげで、致命傷ではなかつたが、肩は深く出血し、腕を動かす力が入らなかった。

 レディバは左肩を抑えて、苦い顔をした。奥の地面が隆起する。さらに二人、地面から敵が姿を現した。四人の敵に囲まれる。形勢は裏返り、逆転した。


 目の前であがる血しぶきに、初めて見る現実の殺し合いに、サラの心臓はかつてないほど、律動していた。敵を翻弄した動きが嘘のように、足がすくむ。

強烈な現実感と夢見の感覚が入り乱れ、代わる代わるサラの脳裡をすり抜けていった。

 目の前に迫る四人の敵は、彼女の命を奪おうと、じりじりとその距離を詰めてくる。彼女を守る騎士は、左肩を負傷したレプティリアンただ一人。

 誰が見ても、勝敗は決している。さらに、仲間二人を殺された事実が敵を慎重にさせた。万が一の奇襲にも対応しようと、挙動一つ一つは監視され、小さな逆転の芽ですら見出すのが難しい。

 サラは身体の震えに気がついた。視界がカタカタと上下に揺れていた。視界に入る自分の手も、揺れていた。レディバは左手をだらりと下に垂らしている。流れる血が地面に赤の斑点を作った。

 敵の一人が、ニヤリと笑った。これ以上、レディバに打ち手はないと、勝利を確信した笑みだった。レディバは何も反応しない。

 代わりに、辛うじて動いた左手の先で、ゆっくりと後ろ手に一方向を差した。

 川に飛び込め、という意味だった。

ーーー逃げなさい。生きるために。

 母親の声がリフレインした。炎と母親の顔が浮かび上がる。最後に見た母親の顔。そして、燃え上がる館。サラの生活は、その日、終わりを迎えた。


 美しい花と優しい風が室内を彩る。ある街の小高い丘の上で、自然に囲まれた大きな屋敷にサラは暮らしていた。

 窓からはいつも柔らかい日の光が照らし、テラスに出れば四季の変化を肌で感じ取れる。母と娘一人の暮らしには、いささか大きい家ではあったが、数人の優秀な使用人によって、何年経っても作りたてのような精錬な輝きを残す家だった。

 彼女の人生は箱庭のように、屋敷の中に閉じられていた。母親がサラを外に出すことを好まなかった。幸い、サラもそれほど外界に興味があるわけではなかった。彼女の感性は、季節によって入れ替わる自然の美景によって育まれた。

 母親はサラに多くの時間をかけられなかった。昼間になるとどこかへ出かけていくか、自室に籠りきることが多かった。代わりに毎朝、サラに勉強を教える時間は必ず用意してくれた。それが、少ない親子の触れ合いの機会だった。

 どこで身につけたのか、母はものを教えるのが上手かった。ユーモアこそ少ないものの、サラの心をうまく掴み、時には丁寧に理屈を説明し、時には答えを教えずサラ自身の頭で考え、理解することを促した。彼女の授業は基礎的な教養だけではなく、時には哲学や芸術の話も交えて話される、高度なものだった。母は優しい母親であると同時に、厳しい人生の師でもあった。

ーーーいずれ、大きくなったら、あなたもこの家を出ていかなくてはならないわね。

 ある時から、母はそんなことを言うようになった。

ーーー今まであなたに外の世界をあまり見せられなかったけれど、色々と準備が必要なの。もう少ししたら、一緒に外に出かけましょう。

ーーー準備?

ーーーええ、あなたは、少し特別なのよ。

 母はさらりと、そんなことを呟いた。

 外に出ることよりも、特別、という言葉の方にひっかかりを覚えたが、母親がそれ以上、何も言わないので、サラもそれ以上は聞かなかった。

 漠然と、いつの日か母と並んで外を歩くことがあるのだろうか、とサラは考えていた。今は自分が、子供だから、連れて歩いてはもらえないのだろうか、と。屋敷内での生活を当たり前に受け入れていたサラにとって、母と並んで外を歩く、ということが、小さな憧憬として、心に浮かんだ。

 そんなサラの想像は、あの日、起こりえぬ未来へと吹き飛ばされてしまった。

 その日、普段と大きく変わったことはなかった。強いて言えば、普段は二人以上いる使用人が、それぞれの事情でその日はたまたま一人しかいなかった。

 母親は疲れた顔をして帰ってきた。そんな時は、すぐに部屋の中に籠ってしまう。その日も、サラのおかえり、の声を聞くのもままならず、すぐに部屋に入ってしまった。

 サラは、いつもの時間に床に入った。うとうとと心地の良い眠気の中で、遠くに拍手のようなパチパチとした音が聞こえた。半分眠ったままで、その音に耳をすませた。それから、たたたっという走る音が聞こえた。

 虫の知らせが、ふっと身体を引っ張るように、身を起こした。

ーーー火事です!お嬢様!すぐに起きてください!

 使用人達の中では比較的若い、リューズという女性使用人が駆けてきた。その日、屋敷に残っていたのは彼女だけだった。サラは、すっと起き上がり無意識にコートを羽織り、部屋から出た。

 火の勢いは想像以上に屋敷の中を巡っていた。部屋の左右からバチバチという音が聞こえてくる。

ーーーこちらです!

 リューズは、サラの手を取り、駆け出した。彼女の行動は迅速だった。屋敷を走る間、四方からバチバチという音は聞こえた。まるで、炎に包囲されたようだったが、サラには、どこから炎が立ち上って来たのか、まるで分からなかった。リューズは、広い屋敷の中をうまく、炎を避けて走る。

ーーー今、屋敷は火に囲まれています。ですので、奥様と一緒に地下からお逃げください。

 地下?

 サラには初耳だった。この家に地下があったなんて。しかし、質問する余裕もなく、ぐんぐんとリューズはサラを引っ張る。

 玄関までやってくると、リューズは石柱をさっと撫で、ある箇所を捻り回すように動かした。

 すると、石柱は左右にゆっくりと分かれ、下に伸びる階段が確かに現れた。

ーーーこちらからお逃げください。道を真っ直ぐ進んでいけば、出口に出られます。

ーーー待って。母さんは?

ーーー先に行って待っています。早く。

 リューズは手で穴の中を示した。

ーーーリューズは?

ーーー私は少し、やることがあります。

 やること?この炎の中で?

 しかし、声に出そうとした時、爆発音と共に、玄関の門が弾けた。驚くサラを、リューズはさっと引っ張り、地下への道に押し込んだ。同時に、門の役割をしていた石柱が、目の前の入口を塞ぐように横に倒れた。

ーーーリューズ!

 彼女は外にいた。

ーーー私なら心配いりません。お嬢様、お元気で。

 最後の声は遠ざかりながら、サラの耳に届いた。彼女は行ってしまった。

 感傷に浸る余裕もなかった。炎はすぐそばまで来て、サラに熱風を吹き付ける。その場にいることは辛くなり、仕方なしにサラは階段を降りていった。

 距離はそれほどなかったのだろう。サラはすぐにも外に出ることが出来た。そこは屋敷から少し離れた森の洞窟の入口だった。そこに、見慣れた二人の顔があった。

ーーー母さん。

 一人は母親、もう一人は使用人のオルドだった。

ーーーサラ、よかった。リューズがうまく逃がしてくれたのね。

ーーーそうなの。リューズがまだ中に!

ーーー彼女なら大丈夫よ。

 母は、はっきりとそう言った。それは、慰めの意味ではなく、言葉の意味をしっかりと伝えるものだった。

ーーーそれより、サラ、あなたは、今すぐここを発たなくちゃいけないわ。オルドと一緒にね。

 火事のことに動転することもなく、母は静かで冷静だった。そして、静かだが、しかし、これまでにないほど、強い意思を宿すように、サラに話しかけてきた。

ーーーごめんなさい、本当はね、もう少しうまくやりたかったし、あなたに説明する時間も必要なんだけど、もう、そういう状況じゃないの。ここで、私たちはお別れしないといけない。あなたは、一人で歩いて行かなくてはいけないの。

ーーーどういうこと?全然、分からないよ。

ーーーごめんね、本当に時間がないの。ここが安全だとは限らないから。

 母は、強くサラを抱きしめた。ほんの数秒。しかし、とても長い時間のようだった。

ーーーサラ。あなたを私は強い子に育てたつもりよ。今は少し混乱してるかもしれないけど、泣き言を言って、私を困らせるような子ではないわね。

 母親の目にきらりと涙が光った。

ーーー愛しているわ。サラ。

 少しの間があった。母の涙はもう見えなかった。

ーーー逃げなさい。生きるために。

 サラは、何も言うことが出来なかった。しかし、母親の言うように泣き言を言う人間でもなかった。

 サラは静かに母に背を向けた。オルドは険しい顔をしたまま、一言も発しなかった。

 それが、母の最後の声になった。

 オルドはオルジークの知人の元に、サラを預ける、ということだけ説明した。他のことは何を聞いても、答えてはくれなかった。元々、寡黙な老人だが、このことについては、本当に自分からは話せない、と決意していたようだった。

 オルドともウィスタで別れ、今、彼女の傍にいるのは、一人のレプティリアンだけとなった。


ーーー樹上の三人だけだと無意識に決めつけていた。俺のミスか・・・

 四人の敵に囲まれたレディバは、今となっては遅すぎる後悔をした。樹上以外にも気をつけていたなら。敵が後退しなかったことに、違和感を感じていれば。常に紙一重の判断が、この世界では生死を分ける。今日は、それが、死の方角に傾いてしまった。

 敵がすぐに襲いかかってくる気配はない。が、場は膠着しているわけではない。レディバの最後の反撃を警戒して、敵が慎重になっているに過ぎない。

 レディバはサラをかばうように、前に立っていた。かろうじて動いた左手を後ろに、再び、川に飛び込むよう合図する。

 レディバは死を覚悟した。せめて、サラが逃げ切れる時間を稼げれば。サラが走り出した瞬間に隙が出来れば、一人か二人は倒せるかもしれない。後はなるようになれ、だ。

 逆転の芽がないことを、レディバ自身がもっとも理解していた。四人を相手に牽制して、サラの逃げる時間を稼ぐ。どう足掻いても、俺は死ぬ。サラが川に飛び込む時間さえ稼げれば、ベストだろう。三度、後ろ手で合図を出す。

 しかし、サラは動かなかった。後ろを振り向いたレディバの目に、年相応に微笑む彼女の姿が見えた。およそ、死とは正反対の表情なのに、そこには、死の覚悟が見て取れた。

 サラはやはり強すぎた。この局面で、この覚悟を決めることができるほど。今の自分と同じほど。恐らく、同じ立場なら、自分も同じように微笑していたかもしれない、とレディバは思った。

 レディバは最期の覚悟を決めた。それが、起こり得ない未来だと分かっていても、この場を切り抜けるには、四人の敵を倒すしかない。

 じりりと距離を詰める。レディバの雰囲気の変化に敵も緊張を見せる。戦いの終わりが近づく。

 敵とレディバの間合いが重なり、お互いが飛び出そうとした、その瞬間だった。

 オオオオオオオオオオオ!

 空気を震わす、大型獣の咆哮が、辺りに鳴り響いた。

 地響きがして、複数の緑の巨体が空中を舞う。

ーーー森トロル!

 レディバを意識していた敵は、反応が遅れた。手近にいた敵が、トロルの棍棒で、木々の枝葉近くまで飛ばされ、放物線上に落下した。森の中で身を隠すため、彼らの服装は、レディバ以上に装甲が薄くなっている。打たれた瞬間に即死だった。

 仲間を殺されたトロルは怒り狂っていた。だが、彼らの標的は、レディバでなく、人間達に向かって、棍棒を振り回していた。敵の一団は、突然の狂獣の襲撃に、即座の連携が取れず、散り散りに動いた。

 トロルの雄叫び、人間の叫び声、大地に叩きつけられる棍棒の音。静かな戦いの場は、一転して、狂騒に変わった。次々現れた森トロルは、全部で六匹。対する暗殺者達は三人。結果は自明だった。

 レディバは、その隙をついて、右手にサラを抱え込み、逃走した。肩の痛みに堪え、遮二無二走る。

「なんで、トロルがあいつらを!?」

「・・・レプティリアンはタバコを吸わない。タバコを吸うのは、人間の男だけだ。」

 レディバは走りながら答えた。

「と、トロルぐらいの知能なら、簡単に騙せるさ。」

「最初から考えて・・・?」

「だが、このタイミングとは・・・幸運だったな。」

 思えば、追手が迫る中、タバコを吸い続けるのは、自分の居場所を教えるリスクしかない。狙撃の時に銃弾を準備しながら、タバコを吸ったのも、事あるごとにタバコを捨てていったのも、トロルに犯人が人間である、と勘違いさせるためだったに違いない。あわよくば、待ち伏せていた敵とトロルをぶつけようという算段も、レディバの中にはあったのかもしれない。もっとも、この窮地にトロルが現れたのは、レディバにも予想外の幸運だったと言える。しかし、レディバの周到な生きる知恵の一つが、この幸運に実を結んだことは間違いなかった。

 サラは抱えられながら、レディバの用心深さに感心した。しかし、与えられた損害も小さくはなく、予断は許さない。左肩からは、未だに血が流れていたし、レディバの顔はこれまでと異なり、明らかな焦燥を示していた。サラは、母親に習った応急処置のやり方を思い出そうとした。降りたら、すぐに、処置を施そう。

 人間とトロルの戦いの声は段々と小さくなっていき、やがて消えていった。それでも、レディバは走れるところまで走り抜いた。

 レプティリアンは、足は早くないが、走り続ける体力はある種族だ。一度、距離を離せば、安全地帯まで、逃げるのは難しくなかった。

 レディバは体力のぎりぎりまで走り抜き、落とすように、サラを地面に下ろした。そして、自分自身も地面に突っ伏した。レプティリアンに、見られないほどの汗がだらりと顔を覆っていた。

 サラはすぐに、レディバの荷物から包帯と薬草を取り出し、左肩の傷に処置を施した。きれいな処置ではなかったが、必要最低限の処置は行った。しばらくは傷と戦いの疲労を癒やすため、休む必要がある。

 お互いに言葉は交わさず、無言の時間が過ぎていった。サラは、心臓の音が鳴り続けるのを感じていた。抱えていた緊張が一気に解放され、生還した喜びが、空気に甘い香りを与えたように鼻にしみた。

 森の景色が、いつも以上に綺麗だった。死に片足を踏み込んだ体験が、何でもない景色にもフィルタをかけたようだった。彼女は無意識のうちに、涙を流していた。レディバは彼女の光る涙を横目に見ると、眠らない程度に目を閉じて、身体の回復に努めることにした。


 全快にはほど遠いが、なんとか活動出来る程度には、回復した。幸い、傷は致命的なものではなく、サラの応急処置と休息のおかげで、なんとか止血されていた。戦闘は無理だが、これなら、なんとか歩けるだろう。

 戦いの刻から半日が経過していた。日は傾き、森が橙色に塗り替えられる。

 レディバは休みながらも、先の戦闘で浮かんだ懸念に、再び向き合っていた。

「サラ、オルジークには向かえなくなった。」

「・・・どうして?」

 驚いた様子はなかったが、純粋な疑問の言葉が吐かれた。

「お前も分かっているかもしれないが、さっきのやつらは盗賊なんかじゃない。お前と俺を狙って周到に襲撃の準備を整えられていたんだ。」

 レディバはため息をつく。サラは、じっとレディバに目を向けていた。

「この森で待ち伏せされただけなら、あの依頼人の爺さんの差金、と言うだけで説明がつく。だが、やつらは、俺と同じショートソードを持っていた。そんなのは、事前にこの仕事を誰が引き受けるかまで、織り込んでいなければ、用意は出来ない。」

 サラは、レディバの言わんとしていることが飲み込めないようだった。

「依頼相手の武器なんて、普通は分かりようがないんだ。事前に仲介する人間が、教えたりしなければな。」

「顔売りの人が?」

「ああ、ララスが俺を売ったんだ。」

 顔売りという職業は、基本的に一人一人、独立した仕事である。しかし、その背後には、巨大な組合組織が存在している。彼らの仕事は、旅人の身分を保証し、街に立ち寄りやすくすること、また、街に居住する人間の困りごとを仕事として、旅人らに斡旋することが基本だ。その根底にあるのは、彼らが培ってきた信頼があってこそ成り立つものだ。旅人、町人、どちらにとっても、信頼できる人間でなければ、相互を繋ぐ仕事など、出来はしない。それゆえ、顔売りの組合は、何よりも、彼ら自身の信頼を保つことに重点を置いていたし、その信頼を裏切るような者に対しては、組合自身の手で、容赦ない粛清が下される。そうして守り抜いてきた信頼があったからこそ、この世界の間を多くの人間が行き交うようになり、新たな人の交流が近代の世界の発展の一助にもなったと言える。

 そんな組合を敵に回してまで、レディバを裏切ったララスの行動は、予想外という言葉を超えて衝撃を与えるものだった。

「俺は組合と接触する。ララスが信頼出来ない以上、この任務をそのまま続けることは出来ないからな。」

 そして、レディバはサラを見た。

 この娘をどうするか。顔売りに裏切られた以上、このまま、レディバに彼女を保護する理由はない。置いておくわけにもいかないが、だからといって事情を知らない少女をどうするか、レディバに当てなどなかった。レディバはその事実をそのまま彼女に伝えた。

「レディバは、オルドが、私と一緒にいたお爺さんが、仕組んだと思っているの?」

「状況からすると、その可能性が高いな。」

「でも、私を殺したいなら、二人でいた時に実行することも出来たんじゃ···」

 サラは、屋敷から逃げ出したあの日のこととを簡潔にレディバに話した。レディバは、サラの過去を黙って聞いていた。

「どうだろうな。罪を他のやつに擦り付けるために、わざわざ、遠回りな方法を取ったとも考えられる。無論、爺さんは無実で、どこかでお前を殺したい人間に情報が漏れたとも考えられるが。」

 サラにとって、オルドは格別の信頼のある人間ではない。屋敷には長いこと務めていたが、その仕事ぶりは機械のようで、執事としての会話以外、ほとんど話した記憶がない。

 それでも、長年の奉公が嘘だったと思うほど、冷たい人間とも思えなかったし、何より、母が最後に頼った人間を疑いたくない気持ちもあった。

 しかし、やはり、この状況から引き返して、オルドに会いにいくことは考えられなかった。

「どうする。望むなら、近くの街まで、お前を連れて行くぐらいのことはしてやろう。お前はどうしたい。お前の道は自分で選べ。」

 今のサラに頼るべき身寄りはいない。しかし、だからこそ、レディバはサラに厳しく問うた。こんな時、自分自身で道を選ばなければならないと、レディバは知っていた。

 サラは、これまでの人生を思い出した。母親に、何か隠しきれない影があったことを。そして、その影が今度は形となってサラに襲いかかって来ているこの現実を直視した。

 彼女は後悔していた。これまで、自分自身のことを何も知らなかったこと、いや、何も知ろうとしなかったことを。彼女は、母親の様子から何も感じていなかった訳ではない。自分と母親を取り巻く屋敷での生活の特殊性に薄々ながら気がついてはいたのだ。

 しかし、彼女は母親に詳しくものを聞くことをしなかった。勘のよいサラにとって、母親が聞かれることを避けたがっていると暗に察していた。

 母の口から話さなかった以上、聞いても、どれだけ詳しく聞けたかは分からない。だが、今のように何も分からないまま命を狙われるような、拭いきれない後悔はしなくとも済んだかもしれない。

「ねえ、あなたを雇うのっていくらかかるの?」

「ん?」

 レディバは、予想外の言葉に返答が詰まった。

「あなたを改めて雇いたいの。依頼は、私が何者なのか、素性の調査に同行すること。全部とは言わないけれど、手がかりが見つけられれば、それでいいわ。」

 サラは驚くほど強い眼差しで、レディバを見た。

「···俺はそんなに安くないぞ。それに、雇う資金はあるのか?」

「今はないわ。だけど、トラペジーテースって知ってる?お金の保管屋のこと。そこに母の資産が少しあるわ。」

 サラはバッグから紙を取り出した。財産管理の証書だった。

「···少しばかり少ないな。」

「さっきの治療代。」

「んん?」

「さっきの治療代があるでしょ。それに、あなたは、この件を顔売りの組合に確認すると言った。あなたが元々やろうとしていることのついでに、私の依頼も一緒に受けられるのだから、決して安くないと思うわ。」

 サラは、拙いながら、唐突な交渉術で、レディバを少しながら戸惑わせていた。

 結局のところ、レディバが断ってしまえば、それで終わる話ではある。が、彼女の勢いに押され、レディバもすぐに拒否することが出来なかった。その、少しの躊躇が、結果としてレディバの滅多にない気まぐれとも言える、回答を引き出したと言える。

「俺は、報酬のない働きはしない。左肩の手当分と報酬分、お前を連れて歩こう。」

 近くで鳥の鳴き声がした。

「だが、そこまでだ。お前自身の身も守るとなると、話が異なる。自分の身は自分で守れるようになれ。」

 日は再び地面に落ち、辺りの影は一体となって暗闇を作り出していた。消えていく太陽は、今日という一日だけではなく、彼女の半生も呑み込んでいくかのように暗闇に覆われていた。暗闇の中で、彼女は、光るレディバの目を見ていた。


 夜が深くなった。二人は、明日からの困難を一時でも忘れるかのように、静かに呼吸を整え、深い眠りに落ちた。

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小さな彼らのファンタジー ゆうき ひとつ @yuuki_hajime

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