少女


 「・・・あれは、ガルムね」




 ガルムとは中型の狼犬の体躯で、岩をも噛み砕く牙と爪をもった、群れを成さないで単独行動をする魔獣である。




 その毛並みはダイアモンドの様に硬く、並の武器では傷をつけることも敵わない。しかし、魔獣に共通する弱点が一つある。




 魔法による攻撃耐性がない。




 体力のないエルザがこうして森中を巡っているのは、魔法攻撃のスペシャリストであったからだ。 (本人自ら希望してのことでもある)




 「・・・ん。女の子?」




 ガルムが向いている先に、木陰に横たわっているボロボロに汚れた少女が横たわっていた。




 「まずは、駆除しないとね」




 右太ももに身に付けているホルスターから杖を取り出し構える。




 「“ボルティック”」




 特に詠唱することなく杖を振り魔法を発動させる。下位雷魔法である“ボルティック”は、エルザの目の前に魔法陣を出現させ、ガルムに向かって紫の電撃が伸びる。




 魔法発動から一秒遅れて魔力の動きに気がついたガルムだったが、エルザの方が一手早かった。




 電撃はガルムの頭に直撃し、脳を焼き切った。




 脳を焼かれたガルムは断末魔を上げることなく息絶えた。




 「・・・おしまい、さて」




 横たわっている少女の元へ寄る。巫女装束は汚れて破けており、体は所々切り傷がある。幸いにも息はしていた。




 「・・・よかった。これなら姉さんの“キュア”で何とかなりそう」




 エルザは自身の肉体に簡単な強化魔法をかけ、少女を背負う。




 少し離れた西設置地点へ向かい、結界の処理を終わらせた後、姉達が待つ小屋へ向かう。




 (・・・綺麗な髪色・・・。・・・それにこの子、グレンと同じ人間ね)




 サファイアの様に透き通った青い髪。




 なぜ、人間の少女が一人であの森で倒れていたのか疑問であったが、今はとにかく少女の治療が最優先。




 身体強化のおかげで疲れることなく、背負いながら進むことが出来る。魔獣と相まみえたのが一度だけで済んだおかげで魔力を強化に回せる。




 腹の虫を鳴り響かせながら進むのであった。




 「・・・お腹空いた」


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