イルザとエルザ

 「せやあああぁぁぁ!」




 “妖精の輝剣アロンダイト”片手に、次々と木を切り倒していくイルザ。




 「えーっと・・・ここがこうだから・・・」




 グレンは小屋の修繕部分の設計図を作成していた。慣れない作業に頭を抱えながら図面に書き出していく。




 「さて! こんなものかしらね!」




 切り倒した木の枝を綺麗にそぎ落とし、見事な丸太が積み上げられていた。




 「早ぇよ! もうちょっと手加減しろよ!」




 「『どっちが先に終わらせるか勝負だ』っていったのはグレンでしょ! ペナルティの巻き割は任せたわよ」




 「くっそぉぉぉ! どっちにしろ俺が不利じゃないか!」




 ただの人間であるグレンに木を切る作業は時間のかかるものである。“妖精の輝剣”を扱えるとはいえ、長時間扱うことはできないので仕方なく設計図を作成している。




 少し腹が立ったグレンは余裕をかますイルザに対して、まき割りを賭けた勝負を申し込んだのである。




 しかし、罠は造れても建築したことなど一度もないので、設計図は悲惨な仕上がりとなっていた。




 「うわっ何よ、これ。子どもの落書きじゃない」




 「うるせぇ! 狩りしかしてこなかったから、ペンなんてにぎったことねぇんだよ!」




 「・・・ただいま」




 喧騒が治まりそうにない中、存在感を示すように語気を強めて帰りを告げるエルザ。




 「おかえりエルザ。ちょっと聞いてよグレンってば」




 いつもの調子で妹に話しかけようとしたとき、エルザの背負っているものに気がついた。




 「どうしたのその子? ボロボロじゃない」




 「・・・森で魔獣に襲われていた。姉さん、手当お願い」




 「わかったわ。私の部屋は無事だからそこに寝かせましょう」




 青い髪の少女をイルザのベッドへ運ぶ。まだ意識は戻りそうになかった。




 「回復魔法は身体にできた傷にしか効果がないからしばらくは安静にさせましょう」




 「・・・服、ボロボロだから着替えさせて修繕しておく」




 「ええ、お願い。看病は私がするわ」




 イルザは桶とタオルを取りに行き、エルザは少女を着替えさせる。




 巫女装束は初めて見たので、脱がせるのに多少手こずったがなんとかなった。しかし、驚くことにこの少女は肌着を身に付けていなかった。




 「・・・大胆な子ね」




 シルクの様に滑らかな肌に、なだらかな膨らみかけの丘。少女の体はとても繊細な肉付きだった。




 「・・・助けられてよかったわ」




 こんな小さな少女が無抵抗に魔獣に襲われるのは、心が痛む。心底森の結界張りを自ら申し出てよかったと思うエルザ。




 「拭くもの持ってきたわ」




 「姉さんありがとう。それじゃあ看病任せるね」




 「ええ! 姉さんに任せなさい!」




 イルザはエルザの頭をポンと手を置きそっと撫でた。エルザはこの、姉の頭を撫でる癖がたまらなく大好きなのである。




 「・・・焼きオグリもお願い」




 少し甘えた声でお願いしてみる。




 「ふふっ。いいわよ、結界張ったご褒美で作ってあげる」




 「・・・大好き姉さん」




 イルザの体にギュッとしがみつて精一杯の感謝と甘えを伝える。




 「よしよし・・・。さぁ! それぞれの作業に戻りましょう!」




 「・・・うん」




 エルザは姉の部屋をでて裁縫道具を取りに行く。




 甘えることはよくしていたが、、命を懸けた戦いの後だと久しぶりのように感じる。姉との掛け替えのない大切な時間の余韻に浸りながら。少女の服を修繕するエルザだった。






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