第28話 一学期の修了
「明日から夏休みです。学生の本分を忘れず、有意義な夏休みを過ごしましょう」
終業式も終わり、俺は教室で先生の話を聞いていた。外はどんよりとした曇り空であった。
「はぁ……」
俺は溜め息を吐きながら、外を眺めてる。寧々の入院から四週間が経とうとしていた。最近ギプスが外れ、リハビリを少しずつ始めていると言う事をSNSのメールで聞いていたので、着々と完治へ向かっているようだが、お医者さんの診断では早くても退院は八月下旬になると言う。あれから、新田正樹は学校に来ていなかった。詳しくどうなったかは、学校の先生達も深く言及しない為、分からないが、この学校にもう一度来る事は恐らく無いであろう。
「それでは、一学期最後のホームルームを終わりにします。気を付け、礼」
「「「ありがとうございましたー」」」
終わりの号令の後、生徒らはわらわらと動き出す。さて、一旦家に帰ってから病院に行く準備をするか。
「あ、そうだ佐久良くん」
「……はい、何でしょうか?」
俺は少し、苗字を呼ばれた事にほんの少しだけ顔をしかめながらも、呼び掛けに応じ先生の下に向かう。
「佐久良くん、少し頼まれてくれないかしら?」
「?えっと、何をでしょうか?」
俺がそう聞くと、先生は周囲を気にし「ここではちょっとね。職員室で話しましょう?」と、意味ありげな事を言った。そう言って歩き出してしまった先生を俺は仕方なく追いかける。しばらくして職員室に着くと、先生は大小二つの紙袋を俺に差し出した。
「先生、これはなんですか?」
俺が訝しげに見ていると、先生は少しだけ申し訳なさそうに返答した。
「これは咲蕾さんの夏休みの課題と、お見舞い品です。前回クラスの皆でお見舞い品を作って渡したそうなのですが……」
そう言うと、先生は少し顔をしかめた。
「私のクラスの生徒が起こしてしまった事ですので、気付かなかった私に大きな責任があります」
先生は新田正樹の件を相当悔いているようだ。自分のクラスから犯罪者が出てしまった。その事を先生は重く受け止めているようだ。
「私も少し前にお見舞いに行ったのですが、教師が何度も行っては咲蕾さんも気が休まらないでしょう。なので佐久良くん、これを届けていただけますか?」
先生から突然の依頼に俺は動揺しながらも、返答した。
「わ、わかりました。ですが、どうして俺になんですか?」
「それは先ほど、学校へ咲蕾さんのお母様が入らした際にこの話をしたら、『佐久良くんに届けてもらってほしい』と言われまして」
「は、はぁ……」
確かに寧々の母親には、今日お見舞いに行く事を伝えてあるが、なぜ俺に白羽の矢が立ったのだろう?先生の言葉を聞いてもよく分からなかったが、お見舞いに行くことは確かなので、俺は紙袋を受け取った。
「では、よろしくお願いします」
先生は頭を下げた。
「わかりました」
その後、寧々の課題に関しての事の説明をいくつか受け、俺は職員室を後にした。教室に戻ると、健吾を含む仲の良い友達が集まってきた。
「あ、やっと戻ってきた優斗!」
「おせーぞ、先生となに話してたんだ?」
返答に困る質問をされ、俺が「ちょっと用があって……」とはぐらかすと、健吾は何かを察したのかすぐに話題を変えた。
「まぁいいや。それよりもだ優斗!これから夏休みだろ!どっか遊びに行きたいからさ、予定立てようぜ!」
健吾の明るい言葉に周囲が賛成し、着々と話が盛り上がっていく中、俺は考え事をしていた。
「(夏休み、元々は寧々と何箇所か篠倉さんと関係がありそうな場所に行く事以外に特に予定はなかったけど、それも出来なくなったからなぁ。とは言っても、寧々が元気になった時に何の進歩も無いっていうのもなぁ。寧々や寧々の母親に質問して、少し回ってみるかな)」
そう考えた俺は、盛り上がっている健吾たちの話に参加する。
「実は俺、これからちょっと用事があって、その用事によって何時空いてるかは変わるかもしれないんだ。だから俺の空きは、後でSNSに送るので良いか?」
俺の言葉に健吾達はノリ良く返事をした。その後、何か夏っぽい事をしたいと言う、大雑把な予定だけ決まり、後はSNSでと言う事になり、解散した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます