第25話 図書館での惨状

「……断った手前、行きづらいなぁ」

 俺は、図書館に借りていた本の期限がギリギリな為、昨日寧々に誘われていた図書館に来ていた。

「すみません、本を返却しに……」

 俺が窓口に本を返しに行くと、なぜか窓口には人が誰もいなかった。

「あれ、人がいない……」

 何かタイミングが悪かったのか?無人の受付を見て、俺は少し周囲を見渡したが、司書や従業員さんは近くにいないようだ。返却ポストでもあればそこに入れるのだが、この図書館はそこそこ大きいのになぜか返却ポストが設置されていない為、受付に直接返却しないといけないのだ。仕方なく俺は、図書館を散策し、時間を空けて受付に戻ることにした。

「何か気になる本はっと……」

 何の気なくそう呟きながら、俺は聞いたことのあるタイトルや、興味をそそられるタイトルの小説を探しながら本棚を転々としていた。

「そろそろ良いかな?」

 定期考査後に数冊の本を借りに行こうと、スマホのメモに本のタイトルを書き、一息ついた俺は、もう受付に司書がいるだろうと思い、体を翻して向かうことにした。そんな時。

「っ!」

 窓から照り込んできた日の光に視界を遮られ、俺は反射的に窓とは反対の方向を向いた。そして沢山瞬きをし、視界に残った光を消していくと、ふと、視線の先に人気(ひとけ)の無い方へ向かっていく寧々の後ろ姿が目にまった。せっかく図書館に来たのだから少しだけでも勉強を教えてもらおうかな?赤点は取った事が無いし、酷い点数と言う訳でも無いが、成績上位の人の話を聞くのは後学の為に良いかもしれない。そう思い、俺は寧々の後を追った。寧々の前には誰かほかの人がいるようだ。

「誰かといるならわざわざ話し掛けるのはやめておくか……」

 昨日誘われたのを断ってるしな。そう思い静かに体を反転させたその時、強くシャッターがきしむ音が響いた。反射的にそちらを向くが、道を曲がってしまっていた為、寧々が視界に映ることは無かった。

「……」

 シャッターがきしむ音以外何も聞こえない。無性に気になり、俺は寧々の所にを進める。何かがおかしいと思った訳では無い。ただ気になって仕方がなくなったのだ。小走りで向かうと、そこにはシャッターに押し付けられた寧々の姿と、押し付けている正樹くんの姿であった。あまり見てはいけないものを見てしまっただろうか?俺はまた目を逸らそうとしたが、二人の表情に違和感を覚え、無遠慮ぶえんりょだと思ったが近寄る事にした。少し足音を殺しながら近づくと、突然押し付けられていた寧々が、力が抜けたように大きな音を立てて崩れ落ちた。その大きな音から、ろくに受け身も取れていない事が分かった。俺はそう感じ急いで寧々のもとに向かうが、ふと崩れ落ちた寧々を呆然と、目を見開き体は小刻みに震えながら見つめる正樹くんに声を掛けた。

「正樹くん」

 俺が声を発すと、正樹くんは目に見えるほど大きく震え、こちらを一瞥いちべつもせず走り去った。俺はその光景に視線を送りながらも、真っ直ぐ寧々の下に向かい、呼び掛ける。

「寧々!大丈夫?」

 俺の呼び掛けに、寧々は弱弱しく反応する。

「……優斗くん。ふぅーー……大丈夫です、すみません、ありがとうございます。っ!」

 寧々はすぐに息を整え立ち上がろうとするが、両膝にうまく力が入らないのかうまく動けていない。

「寧々、あまり動かない方がいいよ。今救急車を呼ぶから、もう少し我慢して?」

 そう言って俺は、寧々を楽な姿勢で寝かせ、念の為に受付に行こうと立ち上がる。すると、寧々は上着の裾を掴んで俺を止めた。振り返って顔を見ると、寧々は目に涙を浮かべ、少し申し訳なさそうに言った。

「あの……もう少し、もう少しだけ、傍に居てくれませんか?」

 涙が一筋流れた。裾を掴む手は震えていた。ぶつけた両膝は痛々しく赤まっていた。受付の人に伝えに行きたいが、この様子ではそれも出来なそうだ。仕方なく俺は119に連絡し、詳細を伝えた後、受付には行かず、寧々の隣に座り、いつかに習った応急処置を行う。すると、寧々は静かに目をつむった。

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